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Be careful. My teacher aims at you.

 その小さな星に暮らす鼠たちは、一匹の鼠を王に据え、高度な文明を築いていた。特に暗殺技術に秀で、その標的は他星にまで及ぶこともしばしばだった。

「お呼びでしょうか、王鼠様」

 一匹の暗殺鼠が暗闇で膝をついていた。

「おお、待っておったぞ」

 鼠の向こうから王鼠の野太い声が響いた。

 そこはとある地下施設で、じめじめとしていて、いかにも鼠の好みそうな空間だった。

「この星随一の暗殺能力を誇る貴殿を呼んだのは、他でもない、とある標的を始末してほしいからだ」

「かしこまりました。どんな標的も、弾丸一つで地獄に送って差し上げましょう。して、その標的とは?」

「うむ。これがとんだ大悪党でな。素知らぬ顔で他の生物たちを殺し、自由を奪って娯楽にするという悪逆ぶりだ。それに同種の者をさえ自らの脳内で好き勝手に操るという。それだけじゃない。至って無害の他生物を醜いというだけの理由で惨殺し、時にはその家族ごと皆殺しにしようとする始末」

「とんだクズでございますね。その標的の居場所をお教えいただければ、すぐにでもその脳漿を噴水のごとく噴き上げさせて差し上げましょう」

「まあ、そう(いき)るでない。ターゲットは隣の『青き星』でじっと息を潜めておる。ところが、このターゲットには一つ、極めて面妖な能力を有しておってな」

「面妖な能力?」

「うむ。ここで詳しく述べるのは得策ではないが、そうだな、簡単に言えば、『青き星』から我々の様子を観察しておるというのだ」

「ふむ、確かに厄介な能力」

「では詳しく話す。こちらへついてこい」


 地下施設から地上へ上がってきた暗殺鼠は、修行中の弟子を連れて自宅へ帰り、任務を遂行すべく準備を始めた。

「なんと! わたくしめに貴重なお仕事の瞬間を見せてくださるとは……ところでお師匠様。こちらは?」

 弟子は師の取り出した大きなライフルを見て尋ねた。

「これは我が星最新鋭の装備。射程距離、スコープによる目標拡大範囲、共に無限。そしてどんなに強固な物体でも貫通する。主に他星のターゲットを葬る時に使われる銃だ」

「なんと! そんな素晴らしい銃があれば、もはや我々に殺れぬ標的は無しですな!」

「そうとも言い切れない。今回の敵はこちらの様子を観察できる特異能力をもっているという。こちらの引き金を引くタイミングを見られたら回避されてしまうおそれがある」

「なんと! それはおっかない敵……おや、窓なんか開けてどうされたのです?」

 師はライフルを窓の外に向けて構えた。

「何、ここから標的を狙うのさ。射程距離は無限だと言ったはずだ」

「なんと!」

 師は一瞬の好機も逃すまいと、ライフルのスコープを覗いたままじっとしていた。

「いつまで見ている気だい?」

 師が言った。

「なんと! わたくしにもお手伝いさせていただけると受け取ってよろしいのですか?」

「……」

 師はライフルを構えたまま微動だにしない。

 しばらくしてまた口を開いた。

「……ねえ、やめてくれよ」

「なんと! わたくしめが何かお気に障ることを致しましたでしょうか?」

「……」

「……なんと不思議な沈黙」

 しばらくしてまた師が言った。

「ねえ、もう僕たちの家を覗かないでおくれってば。撃てないじゃないか」

「なんと! なんと……なんと不思議なお言葉……一体どなたにおかけになっているのでしょう……?」

 また師が言った。

「早く閉じておくれよ」

「……」

「……」

 部屋には沈黙が続いた。



 ……



 お前だよ。



 ……



 ほら、今僕たちを覗いているそこのお前。



 ……



 早くページを閉じろって。



 ……



 閉じたか?



 ……



 いいな?



 ……



「撃つぞ?」









































 だから閉じろよ。





















 師は溜息をついた。

「なんと! お師匠様が溜息を吐かれるなんて……」

「仕方ない。我が弟子よ。ちょっと外に出て踊ってこい」

「なんと! お師匠様がわたくしめにご指示を! しかし、一体何の踊りをすればよろしいのです?」

「別に何でも構わん。なるべく奇っ怪に踊り狂ってやれ」

「なんと! 奇っ怪な踊りほどわたくしめの得意技もありません! 精一杯踊って参ります!」

 そう言うと、弟子は家の外に出て、気が触れたように奇っ怪な踊りを――


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