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「僕と契約して魔法少女になってほしい」
ああ。これはひどい。
私、リアル中学2年生だからな。
こんな中二な妄想もしたことあるけど、これはひどい。
「ねえ、聞こえてるでしょ?僕と契約して魔法少女になってほしいんだ」
徒歩の下校の道すがら、私は、不穏な契約を迫る黒い猫に付きまとわれた。
なんというか、その、白い猫でなくてよかった感じがする。
白くて、ルビーのような瞳で……ええい。とにかく「まんま」だったらアウトだった。
なんのことか分からない? その場合は、そのままの貴方でいていてください。それで人生になんの問題もありません。
「やだよ。」
私は即答した。コンマ1秒も考えなかった。
契約して魔法少女。
その響きからは、なぜだか不幸な未来しか想像できないし、そもそも道端の猫がいきなり喋ってきて、「魔法少女になって」って陳腐すぎていやだわ。もう漫画アニメでやりつくされただろう。
もっと、捻った演出でやり直せよー。私の幻覚さんよう。
あー。昨日と一昨日、徹夜でゲームしたせいで疲れているのでしょうね。
やっぱり睡眠って大事だよね…。
「ねえねえ。 ほんと、ほんとうに胡散くさいことなんて一ミリもないんだよ?」
美人さんのすらりとした黒猫がそう言います。
ああ。なでたい。モフモフしたい。けど、相手にしてはいけません。
「詐欺師はみんなそう言うよ」
冷たく言わせていただきます。
「怪しくないよ? 本当に本当だよ。ちょっとした代価で素晴らしい力が手に入るんだよ!」
「そんなうまい話はないって知ってるよー」
「っっ!! 最近会う人、皆そんな態度なんだよね!!! こっちこそ信じられないよ! 世の中冷たくなった! 誰もこんな可愛い猫の話すら聞いてくれないなんて……っっ」
しょんぼりと首を落とす猫くんは、たしたしと前足を地面で叩いてこの世のせちがらさを抗議している。可愛い。あざとくらいプリティだよ。だけど、そんな可愛さは腹黒さのフラグである。
残念だな!可愛すぎる可愛さなど訓練されたオタクであるところの私には通用しないのだ!ふはははは!
「はい、もう、どっか行ってよ」
しっしと手首を振るう。
その瞬間。
猫は明後日の方向を見ながら、
「本当に、願いごとはないかい?」
心をすべて見透かすような、ぞくりとするような声を出した。
すこし、心を動かされた。
「君の持つ魔力は僕が今までみた少女のなかでも一番だ。膨大な魔力を持つ君が魔法少女になったら……きっとどんな願いも叶う。」
そして、一瞬にして超冷静になった。
うん。
なんていうか、その、フラグすぎる。やめて。
相変わらずなんていうかぎりぎりアウトな気がする発言だけど、スルーする。
どうせ夢だからさ。これ。
ところで「なろう」の規約的に大丈夫?ありがちな台詞だから、セーフだと思っているんだけど、アウトならそっこくに修正します。削除だって甘んじます。ごめんなさいって先に言っておきます。基本的にいつでも土下座する所存です、って私は誰に向かって謝っているの?これ?
それはともかくとして、どんな願いも叶うっていうのは確かに魅力的な話です。実はこの、花春寺 スミレ 14歳 オタクな夢みる中学生には、きっと叶わないと思っている胸に秘めた願いがあるのです。
「どんな、願いも?」
おもわず聞き返してしまいます。
「どんな願いも」
やけに自信ありげに頷く黒猫。
「じゃあ」
「名探偵になりたい…」っていうのはあり?って続けようとしたら、自分の体が不思議な力で包まれて、光っているのを感じました。