第七話 害虫
夕食がすんで佳奈と一緒に温泉に入った
とても気持ちがいい
今だけは何もかも忘れられそうな気がした
翌朝、うちへ帰ることにした
いつまでもこうして旅を続けているわけにもいかない
先立つものもなくなってきた
私は夫と話し合う決意をして、帰宅した
佳奈は「やっぱりおうちがいいね」って嬉しそうに言った
私は帰る直前に薬局へ寄った
アルコール消毒剤を買ってうちに帰った
夕方についたからまさかこんな時間に夫はいないだろう
でも万が一ということもある
佳奈を車に乗せたままうちを覗いてきた
ドアを引いてみた…
「ガチャガチャ」
鍵はかかっていた
私は用心して鍵を開けて靴をみた
誰もいないようだ
どうして自分のうちなのにこんなに怯えなければならないんだろう・・・
不可思議な気持ちで私はすぐに車に戻った
そして佳奈を連れてきた私は佳奈を友達のおうちで遊ばせてもらい
その間に荷物を運ぶことにした
佳奈をすぐうちに入れられなかった
私は部屋という部屋を掃除した
害虫から佳奈を守らなければならない
片付けたままの部屋
それでも私はすみからすみまで掃除をした
とかくベッドルームは念入りに拭き掃除もした
それからアルコール消毒剤をだして部屋中を消毒していく
そんなことをしても女の存在は消せないことなどわかっていた
それでも何かせずにはいられなかった
テーブルや椅子は叩き割って壊してしまいたかった
食器もなにもかも捨ててしまいたかった
できればこの家ごと燃やしてしまい何もかも全て消してしまいたい
そんなこと…できるはずもない
だから私は消毒する
部屋という部屋、家具も何もかも全てを
消毒し続けた
夫もアルコール風呂へつけたいくらいだった
おかしくなるくらい掃除をしていた私は
夜ふけになっていることも気付かず
佳奈を迎えにいくことも忘れていた
「プルルルル…」電話の音にハッとして
私は意識を取り戻した
電話を取ると佳奈のお友達のママからの電話だった
「大丈夫?携帯に何度もメールしたのよ?でも返事がこないから。」
と彼女はいった
メール?気付かなかった…
「今から佳奈ちゃん連れていくね。」
「遅くまでごめんね。ありがとう」
とだけいって私は電話を切った
ふと我に帰って鏡に映った自分をみて驚いた
憎しみに満ちた老婆のようだった
私は自分でも気付かぬうちに夫と愛人を恨み
憎んで変わり果てた姿になっていた
私はあわてて髪をとかし、化粧をした
佳奈が帰ってくるまでには間に合った
そして消毒の臭いがプンプンする部屋へ佳奈を連れて行く
「ママー、なんかお注射のときの匂いがすごくするよ」
佳奈は嫌そうな顔をしている
すぐに臭いは消えるわよ
しばらくうちにいなかったから虫がいたらイヤでしょ?
と私がいうと
「虫はやだけど…」
と困り顔をしていた
「そういえば、メールしたのになんでゆかちゃんちに電話してくれなかったの?」
と佳奈は膨れっ面をしている
「ごめんごめん。メールに気付かなかったのよ」と私はズボンのポケットから携帯をだそうとした