第十八話 本音
今日はもう少ししたら修二が迎えにきてくれる…
私は修二がくるのを待ちながら雨が降る公園で一人佇んでいた
この寒い中、雨が降ってる公園へ来る人などいない
私は寒さに震えながら待っていた
修二がきたのは一時間も後だった
仕事で連絡できなかったらしい…
泣きそうになる私の顔をみて、修二は私を抱きしめた
「こんな寒いのに、ずっと待たせてごめんな。もう帰ってるかと思ったよ…」
「修二に逢えるならこれくらいなんてことないよ。逢えない方がよっぽとつらいよ」
私は涙が落ちそうになる
「夕子…夕子を小さくできたらいつでもポケットに入れてどこにでも連れて行けるのにな。
このまま夕子を連れて行けたらどんなにいいだろ。」
「その言葉だけで十分だよ。私はあなたに逢えるだけでいい。
こうやってほんの少しでも傍にいられるのならそれで十分だよ。
私ね、いつも私は夫の世話をし、娘の世話をして家事をして。
私のことなんか誰も心配なんかしないの・・・
母親は強くなきゃダメなんだって
主婦はうちのことして当たり前なんだって
夫は仕事してるから、休みの日は何にもしないんだって
私って何だろうって思っていたよ
家事をするロボット?
家政婦?
そうじゃないよ…
そうじゃない…
私は人間だよ
私だって風邪も引くし病気にもなるかもしれない
熱がでても誰も知らない…
風邪を引いてもしらんふり
私だって気にかけてもらいたかった…
どうして、私は大丈夫なの?
そんなことない…
もう耐えられない…
そう思っていた
そんなとき、修二に逢って、修二の声が余りにも優しいから…
私を気遣ってくれるから…
私は修二を愛してしまった
もう元には戻れないの」
私は今まで誰にも話せなかった心の中の声を修二に話した
「僕は夕子のこと、愛してるし大事だよ。
ねえ、夕子…そんな思いをしてまで、旦那さんと別れようとは思わないの?
やっぱり不安なの?夕子なら一人でもやっていける気がするんだけど…」
「佳奈のことが一番大切だから。佳奈を傷つけるようなことはなるべくしたくないの…」
それは本当のことだった
不安…ないわけではない
今まで働いたこともないし…
やはりシングルマザーになるのは抵抗もあった
どうしたらいいんだろう・・・
「そっか。わかった。そんな簡単なことじゃないよな。
夕子のしたいようにすればいいよ。僕はそれを応援するから。」
修二は私の表情をみて、悩んでいることがわかったんだろう
私は修二の優しさに癒されていた
「今度さ…三月に休み取れそうなんだけど夕子、スキーいかない?」と修二は誘ってきた
私を気遣ってのことだろう
私は修二とならどこでも行きたい
「仕事、無理してない?大丈夫なの?私、修二に会えるだけでいいんだよ?」
「大丈夫さ。夕子いくだろ?実はもう予約しちゃったんだ」と修二は笑う
「うん。行きたい。どこへ行くの?」
「長野だよ。佳奈ちゃんスキースクールに入れたら滑れるようになるよ。
日にちはね…3月26、27日だよ。」
スキー…昼間に修二に会うことになる
佳奈を連れて行けば、夫に話してしまうかもしれない
そうしたら、もし離婚するとなったら私にも過失がかかってしまう
慰謝料がもらえなくなるかもしれない…
私はあれだけ夫に尽くしてきたのに報われず、
慰謝料ももらえなかったら夫の思うままだ
それは絶対に避けなければならない
なら修二との旅行は諦めるか…
どちらも選べない
私は悩んだ
悩み抜いた末、私が出した結論は佳奈を実家に預けていくことにした
二日だけさきに佳奈を連れて行き、私もそのあと実家でのんびりしよう…
そう、それがいい
これで夫にばれず、修二と二人だけで旅行にいくことができる
私は修二への純粋な愛とは裏腹にしたたかな女へと変わっていた