第十六話 密会
とうとう神戸に行く日になった
夫には何も言わないまま出かけることになってしまった
佳奈は旅行だと知って喜んでいる
私はその無邪気な笑顔に申し訳ない気がした
佳奈の為に着たわけではない…
自分の欲望を満たす為に佳奈は連れて来られただけだ
私はせめて彼と会うまでは佳奈と思いっきり楽しもうと心に決めた
夕方まで、遊園地で佳奈と一緒に遊んだ
そして、今日泊まるホテルへと向かう
ホテルで夕食をとり、疲れたのか佳奈は早めに寝てしまった…
やはり遊園地へ連れて行って正解だった
私は一人彼からの連絡を待つ
今日は仕事が忙しいと聞いていた…
もしかしたら逢えないかもしれない
窓から夜景を見ながらワインを飲む
今夜は外は雪がちらついていた
「コンコン」
ドアをたたく音がする
同時にメールがきた
<開けてくれる?>
修二がきた…
私は急いで鍵を外し、そうっとドアを開ける
外の寒さで冷え切った修二が立っていた
「入って」
私は修二を部屋に入れた
「寒かった…」
言い終わらないうちに修二に塞がれてしまう
修二の唇は氷のように冷たかった
抱きしめられた体も冷え切っていた…
でも少しずつ抱き合ううちに温もりが感じられた
「こんな時間に夕子を抱きしめることができるなんて…
すごくうれしい今日はきてくれないかと思ったよ」
「どうして?」
と私は尋ねた
「泊まりだからさ…」
さらに力強く抱きしめられた
私は余りの幸福に気を失いそうだった
修二の腕の中は温かくて…
「ねえ、修二は私のどこが好き?」
修二の腕の中にうずくまりながら私は聞いた
「全てさ。俺は金沢の公園で夕子を見かけたときからずっと…」
そういいながら修二は体を起こして私の髪を撫でる…
そしてソファーにもたれ私を抱っこしながら話し出す
私は修二にもたれて話しを聞いていた
「あの時だよ
夕子が携帯を落とした公園、あの公園に僕もいたんだ
夕子…あの時泣いていた
ベンチから立ち上がるときにポケットから携帯が落ちたんだ
僕はすぐ拾いに行った
夕子に渡してあげなきゃって思った
でも今返したら僕は夕子と接点がなくなる
だから僕は夕子の携帯…ポケットにしまいこんだ
きっと夕子は携帯に電話をかけてくるだろうと思ってさ
「そして私は携帯に電話をかけた…」
「そう。かかってこなかったらどうしようかと思ったよ
でも君はかけてきた
僕はラッキーだと思ったよ
もう一度君に逢える…夕子に逢いたかった
愛してしまったから…一目惚れだったよ」
こんな私を好きになってくれる人もいるんだ…ってその時思った
固い殻をいくつもいくつもかぶり
強く強く生きてきた私は本当は弱くて寂しいがりやだったことを思い出した
「夕子を泣かせたくない…悲しい思いをさせたくないんだ」
「私、わがままだから修二とずっと一緒にいたいって言ってしまうかも…修二…困るよね」
「僕は困らないよ・・・夕子を愛してるから」
ほんとに?
ほんとに私なんかでいいの?
夫もいる…
子供もいる…
そんな私が愛されるなんて信じられなかった
「ねえ、修二。私として…気持ちよかった?」
すると修二は笑い出した
「夕子はどうだった?僕は一つになれて嬉しかった…
でも夕子とそういうことしたいから声かけたんじゃないよ
携帯返したとき、初めてごはん食べに行っただろ?
あの時かな、やっぱり好きになった通りの子だなって
外見と中身が同じだった
僕は夕子が居てくれるだけでいい
夕子のその雰囲気が居心地いいんだよ
仕事のやなことも忘れられるんだ…」
「ごめん、変なこと聞いて…
私ね、修二に出逢うまでは自分を失くして生きていた
楽しいことも嬉しいことも悲しいことも…感情が麻痺していた
でも修二とこうやって話しているとすごく落ち着く
ここは私がいてもいい場所なんだよね…
私今日修二に抱かれて、やなこと全部忘れられそう…すごく嬉しかった
私はもう修二がいないと生きてけないよ…
どうしてもっと早く出逢えなかったのかな」
「今だからよかったんだよ
僕は夕子が独身だったとしても結婚はしないから…
だからこれでよかったんだ
好きだから…」
「好きだったら結婚しないの?どうして?」
「僕だけの女でいてほしいから
ただそれだけだよ
結婚なんかしなくても生活していけるのに
なぜそんな結婚にこだわる?
結婚したら煩わしいことが増えて
愛や恋や言えなくなるのは当然だよ
結婚しないこの距離が一生愛せるんだよ
だからどちらかだよな・・・僕みたいなタイプは結婚は不向き
結婚して子供産んで家庭を持ちたいなら家族愛に生きるしかないね
夕子は俺と同じタイプだと思うけどな」
「じゃあ結婚した女性はみんな私と同じような気持ちで生きてるの?」
「そうとは限らないよ
子供が産まれた時点で家族愛に上手く切り替われる人がほとんどさ
夕子みたいなタイプは数少ないと思うよ
夕子は情が深いんだ・・・だから愛が大きすぎてコントロールしにくい
しかも旦那は浮気性・・・悪条件が重なり過ぎたんだね
でも僕はそういう夕子が好きなんだよ」
「よくわかんないよ…」
「夕子には難しかったかな?夕子はまだ若いから…」
「若いって34だよ?」
「…俺はプラス7」
修二が41歳…全然見えないよ
修二は私よりずっと大人なんだ
だから安心できるのかな
なんだか眠たくなってきた…
時計は4時を指していた
修二…愛してる
愛してるよ
ずっと私のそばにいて…離さないで…
私はそのまま眠ってしまったみたい
朝目が覚めると修二はいなかった
私の手の中にメモが残されていた
来週から大阪に転勤になった…昼また逢おうな
修二にこれから毎日逢うこともできるんだ…
私はすごく嬉しかった
私はとても幸せだった
そのまま私は佳奈を連れてうちへ帰った
佳奈は昨夜のことを何もわかっていないようだった
うちに帰って部屋に入るとなんだか部屋が薄汚れて見えた
修二といた時間はあんなにも満たされていたのに
修二といた時間はあんなにも輝いていたのに
うちに帰るとそんな想いも消されてしまった
何をしても楽しくない
修二に逢いたい…昨日あったばかりなのに
今すぐ逢いたい
私には修二しか見えていなかった
修二だけが全てだった
読んでいただいてありがとうございました。よければ評価、感想いただきたいです。