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003:二人の父

傷からきているのか、知恵熱なのか。

久しぶりに出した熱のせいで眠りが浅く、その日の午後はずっとうつらうつらと過ごした。

だからだろうか、昔の夢を見た。


記憶の父も、いつも怒っていた。

下位貴族だった父は上昇志向がとても強く、財産目当てで裕福な商家の娘と結婚し、人脈を広げ、順調に財を増やしていても、現状に不満ばかりだったようだ。

母と顔を合わせれば、女しか産めない役立たずと罵る。

私たち姉妹が幼い頃から、姉には身分が無くても良いから才覚のある男をたらしこめと言い、私にはとにかく上位貴族に見初められろと言った後に、お前たちが女だからこんなに心砕かなくちゃいけないんだと腹を立てていた。

そんな父がなぜ亡くなったのかはよく分からないが、不治の病だったらしい。

最後の方は酷い有様で、当時13歳の姉に40歳過ぎの独身男性を婿に宛がおうとしたり、10歳の私をどこぞの貴族の愛人に送り込もうとしたり……。

正直、他界してくれてほっとした。

その後、色々と大変だったけれども、父が居ないだけ、どれ程マシだっただろう。


蓄財していた父の遺産の件でちょっと揉めたが、喪が明ける頃には、親戚筋の子爵と母が再婚することで落ち着いた。


初めて子爵――継父――とその娘――義妹――と顔を合わせた時、天使って本当に居るんだと思った事を覚えている。

名前もなんと、アンジェリーナだった。

輝く金の髪、澄んだ青い瞳、バラ色の頬、ふくふくとした柔らかな手。

どれもが、愛されるために象られていた。

幼くして実母を失った義妹が、はにかみながら母に挨拶する様を見て、幸せな再婚が出来たのだと皆で喜んだ。

それは全て勘違いだと分かったのは、すぐのこと。

天使は、とんでもない癇癪持ちであったのだ。

基本は乳母が付いていて一手に引き受けてくれていたが、一人で賄える程の癇症さではなかった。

継父以外の家族、家人、全てが余波を被った。

気でも違えたかと疑いたくなるほど暴れ狂ったのは、母が男子を産んだ時。

継父にすら累は及び、異父弟の命は危殆に瀕した。

愛娘の豹変に恐れをなした彼は、母と異父弟を連れて王都の屋敷へと避難する。

そこから始まる領地と王都の二重生活、疲労と心労が継父の命を削って行く。

穏やかでもともと線の細かった彼は、げっそりと病的にやせ細っていった。

義妹の癇癪は治まるどころか年々酷くなり、そこに妄想が加わる。

私のデビュタントの祝いに頂いた本がきっかけだった。

自分は虐げられていると家族の悪評を振り撒き、王子様が迎えに来るという妄言を吐き、諭せば洗脳だと悪態をつき、そっとしておくと誰も分かってくれないと暴れる始末。

腐心した継父は医者を呼び、司祭を頼り、魔女にまで相談するために、国中を奔走した。

しかし、その誰もが匙を投げた。

処置なし、と。

それが決定打だった。

長年の無理が祟り継父は病の床に伏せ、長患いの末の昨年、儚くなってしまう。


母は二人の亭主を病で失い、姉と私は二人目の父も失った。

2013.12.30 神父→司祭へ統一。

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