表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/41

二兎追うもの

夜会直後、男性陣のお話。

「なんでこんなに馬鹿みたいに招待しているんだ!」


執務室の一角、応接セットから怒声が上がった。

窓を背にした重厚な机で書類にサインをしていた人物が、顔を上げ苦笑する。


「そんな大声を張り上げるんじゃない。侍女が怯えるでしょう?もう少し紳士的に振る舞いなさい」


職務を放棄してソファを占拠し、重要書類を私的に流用している側近をたしなめた。


「そう言うが、両陛下からお預かりした一覧を見たか?」

「まあ、ざっとはね」

「この中から絞り込む俺の身にもなってくれよ!」

「ま、頑張れ?」

「軽っ!そういうお前はどうなんだよ!」

「僕は約束の品を渡してあるから」

「約束の品?」

「気付かない?僕の指にいつもあるはずの物が無いでしょう?」

「はぁ?王族の印を渡したのか?!」

「預けただけだよ、人聞きの悪い」

「今、指にしてないってことは、返ってきてないんだろ?どうするんだ?!」

「どう返してくるのかを楽しみにしているのさ」

「返すの前提かっ。悪用されたらどうする」

「それも又、一興」

「わー、性格悪りぃ」

「どうとでも。君みたいに名前さえ聞けずに取り逃がす、お間抜けさんとは違うんだよ」

「悪かったな。お陰で今、こうして苦労しているんだよ」


書類の束をばさりと叩いて示す。

部屋の主は休憩も兼ねて応接セットに移動し、男の手元を覗いた。


「どれどれ?ははあ。王都と遠方のご令嬢は除外して?」

「門番に、出て行った馬車は無いかと聞いたら、ずいぶん草臥れたのが一台、と言っていた」

「一台?」

「ああ。それが?」

「いや、僕の小鹿も迎えがどうとか言っていたんだけど」

「見落としたか?」

「見て見ぬ振りをするのが礼儀と思っていたら、可能性はあるねえ」

「夜会でのお持ち帰りは、今回は無いはずだが……普段が普段だからなあ。どちらにしろ、もう一台も記憶に残り辛かったんだろうな」

「恐らくはね」

「で、近隣の困窮してそうな領地と言えば……」


机に広げられていた地図を指でざーっとなぞる。

視線で追っていた主が、指し示された一点に止まると、スーッと目を細めた。


「ああ、例の?」

「そこも一応、馬車で帰れる距離だから、な」

「興味深いねえ」

「だな」


こうして男の職務内容が、私情と公務を満たす、一挙両得の様相を呈してゆく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ