999:そして物語になる
王子が正式に立太子した年、もう一つの慶事に国中が沸き返る。
空位であった大公妃の座が埋まったのだ。
立后したのは前マントヴァ侯の孫娘、クロリンダ。
元は下位貴族の娘であった彼女は、母の再婚により子爵令嬢となり、大公に見染められ、前マントヴァ侯ゆかりの伯爵家の養女となって大公妃にまで登り詰めたのだ。
彼女のシンデレラ・ストーリーは、国内の少女たちの憧れの的となった。
時を同じくして前マントヴァ侯の内孫も、大公のご成婚に隠れるようにして妻を迎える。
祝儀として前マントヴァ侯は、引退後も保有していた伯爵位を内孫に譲り、社交界から完全に隠退する。
生涯の忠誠を誓った主の令息と、自身が目を掛けていた内孫、新しく迎えた二人の孫娘。
二組の門出を我が事のように喜んだ前マントヴァ侯は、始終ご満悦だったという。
花嫁・花婿たちは、言わずもがな。
ただ一人を除いては――――
「爵位は無いって言ったじゃないか!」
「今は、と付けたぞ」
「男子が生まれなかったら、どうするつもりだ!」
「母子ともに無事であれば、どちらでもいい。だから元気な子を、ばんばん産んでくれ」
「そんなに沢山、産めるか!」
「協力ならば、喜んで」
「少しは遠慮しろ!昨日だって――――」
そんなやり取りが、新しく誕生した伯爵夫妻の間でなされたとか、なされていないとか。
――――かくして、奇妙な符合を飲みこんで物語は補完されてゆく。
・再婚する男女
・男性の連れ子は、末娘となる女の子一人
・女性の連れ子は、義姉となる女の子二人
・再婚後、女(の子)が豹変し男性以外を攻撃する
・屋根裏に棲み付く末娘、着るのは(体が楽な)簡素な服
・忙しい父は(末娘を恐れて遠地に引っ越し)やがて亡くなる
・末娘の傍にいるのは優しい乳母
・(最低限の家人しかいないために)家事をこなす(上の二人の)娘
・夜会が開かれ、姉たちは着飾って出ていくが、末娘には(気に入る)ドレスがない
・十二時の鐘と共に立ち去る(二人の)女性
・残されたガラスの(破片が仕込まれた)靴
・無理に靴を履こうとした義姉の足は血まみれに
・ボロになったドレス
・(元)王子に見出され、妃として迎えられる(長姉)
・姉二人がお城の偉い人と、同じ日に結婚する
・国外追放される諸悪の根源(家令と乳母)
それらが様々に組み合わされて、今日わたしたちが知るお話になった、のかも知れません。
お話はここで完結です。