表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/41

023:発つ鳥、待つ鳥

翌朝、殿下とダンディーニは、どこから集まってきたのか多数の部下を引き連れて、乳母とアンジェリーナを王都へと護送して行った。

別れ際の殿下は姉を抱き寄せ、それはそれは長い挨拶を交わしていた。


「必ず迎えに来ますから、待っていて下さいね。ああ、それよりも、いっそ一緒に王都へ……」

「行きません。こちらで待っておりますから、お務めを優先させて下さい」

「つれない人……しばしの別れとはいえ、もう少し寂しがってくれても……」

「昨夜、散々に惜しまれましたよね?」

「昨日と今日とは別の日ですから」

「ラミーロ様」


ここで姉の笑顔がさく裂する。

あれは、すごく苛っとした時の顔だ。

恐っ。

だから、名前読みはスルッと聞き流しておいた。


「さっさと職務を遂行すべく出立なさって下さい。こうしている今も、配下の方々は表でお待ちなのですから」

「――――分かりました。行って参ります」

「はい。行ってらっしゃいませ」


一方の私は、と言えば、別にこの寸劇(?)をポカンと見ていた訳では無くて……

こちらはこちらで、腕に囲われていました。

体中がギシギシと痛くて支えられていた、とも言う。

座らせてくれればよいものを。


「お前も、殿下みたいに惜しんで欲しいか?」

「いえ、全然、これっぽちも」

「貴婦人は、ああいう方が好きなのかと思っていたのだがな」

「悪かったな。貴婦人じゃなくて」

「いや、お前はそのままで良い。そう言っただろう?」


などど気恥ずかしい事を囁かれていた。


「恥ずかしいからといって、余所見するな」


顎をつまんで固定され、がっしりと見合わせられる。


「良い子で待っていろ」


別れ際まで尊大な男が、ニヤリと笑った。

客間に沈黙が訪れる。

何故かは聞かないでもらいたい。

強いて言うなら、四人とも口が塞がっていた、ということで。


「やはり一緒に……」などと往生際悪くぐずる殿下を追い出した玄関先、姉の手には殿下の例の指輪が、私の手には知らぬ間にはめられていた金の指輪が光る。

いつ用意したんだと聞いたら、しれっと母さんに先に承諾をもらった、とぬかしていた。

なんでも家令を捕えた時に、事情聴取も兼ねて殿下と三人で話をしたらしい。

「お嬢さんを下さい」と二人で頭を下げたら、「まずは娘から色よい返事をもらって下さいね」と切り返されたとか。

しかし、そこは抜け目の無い殿下の事。

「では返事を頂いたら婚約ということで、よろしいですね」って、取り付けてしまったらしい。

そこで頷く母も母だと思うのだけれども。

さもありなん。

かくの如き裏取引のお陰で、昨夜の返事を以って婚約は成立。

それを聞いて姉と二人で顔を見合わせて、思わず溜息を吐き合ったけれど。

その内の何割かはきっと、幸せの成分が入っているんだろうなあ。

悔しい事に。

でも、送り出した後、姉から嬉しそうに言われた事には、心の底から顔をしかめておいた。


「ティスベったら、すっかり明るくなって。ダンディーニ様とはずいぶん打ち解けたのね。だって貴女の口調、ずいぶん砕けていたわよ?」


一日やそこらで、そんなに変わる訳がない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ