020:事件解決?
零された独り言を拾ったのは、ダンディーニだった。
「そうだ。女――乳母の方も家令と似たり寄ったりで、一財産抱えてどこかへ行こうとしていた。正確にはどこかへ隠して戻ってくるつもりだったみたいだがな」
「まさか、乳母やが……そんな……」
信じられない心情を、姉が代表して吐露した。
思い浮かぶのは、アンジェリーナに影のように寄り添い、苛立ちを一身に受けている姿。
私は、上手く飲み込めない顔をしていたのだろう。
急いで折り合いを付ける必要は無いとでも言うように、ダンディーニが教えてくれた。
「これも、査問しなくては詳しい事は何も分からん。今は黙秘を貫いているからな」
「黙秘を?でもアンジェリーナを同じ部屋に入れたから、変化があったんじゃないか?」
「かも、な。後で部下に確認しておく」
請け負われて、少しでも状況が明るくなればと祈るように思った。
「ところで母は、今どうしていますか?」
姉の言葉で、はっとする。
忘れていた訳ではないが、状況に流されて自分が一杯になっていたことに気付かされる。
自然と皆の視線は殿下に集中した。
安心を与える穏やかな笑みで、殿下は軽く頷く。
「こちらで優秀な相談役と事務官を手配してあります。今頃は家令の不正の洗い出しに精を出されていることでしょう」
「良かった。お元気そうで」
「手紙ではいつもこっちばかり気にして、自分のことはさっぱりだもんね」
姉と安堵を共有する。
「さて、お姫さま方。他にご質問はないですか?」
少しおどけた口調の殿下に笑いを誘われる。
まだまだ明らかにされていないことは多いが、もう爪弾きにされることはなくなり、私の気持ちはずいぶんと軽くなっていた。
「大丈夫、ですよね?子爵家がお取り潰しされる、なんて事はありませんよね?」
浮かぬ顔で尋ねる姉を見て、またしても私は自分の思い至れない浅はかさを悔やんだ。
「安心して下さい。僕が何のために内密に事を進めていたと思うのですか?国には不正を働いた奸臣を処罰した、としか報告を上げませんよ。その後、こちらの指導で状況は改善。問題なし、です」
殿下は姉を見て答えていたが、私の方にも目で頷きをくれる。
二人の口からホッと安堵の吐息が零れ、姉は敬意を込めた確認の言葉で応えた。
「もともとそのお積りだったのですね?」
「まあ、そうなるね。仮にどこかの領主だったとしても、後進に家督を譲った、と処理するつもりでした」
「だな。じゃなきゃ、こんなまどろっこしい真似はしないぞ」
『自分たちの為では』などど穿つことなく正しく見通した姉の応えを、殿下もダンディーニも満足そうに受け取った。
――――こうして子爵家の一大事は終息へ向かう。
もっとも、家令と乳母による横領事件のみ、だけれども――――