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019:黒い領地②

「誓って、違います」


優雅な仕草でカトラリーを置き、姉の物もそっと奪った殿下は、そのまま姉の両手を包み込む。

それまでずっと絶やさなかった微笑みを消し、真剣な眼差しで姉と向き合った。


「僕は、嘘だけは決して言わない」


その言葉に、心もち伏せられていた姉の目が上がり、殿下のそれと合わさる。


「あの夜会は、兄夫婦が僕に花嫁を宛がう為に手当たり次第に女性を集めた、そういう会でした。招待状も王妃だったでしょう?」


姉は一つ、コクリと頷いた。

殿下はホッと表情を緩め、次いで悪戯っぽい笑顔に変えて付け足した。


「だから、あの甘美な一時(ひととき)は兄たちのお陰だね。帰ったら感謝しておかないと」


瞬時に顔を真っ赤にした姉の頬を満足そうに一撫でして、殿下は食事と話を再開する。

因みに、このやり取りの最中、私とダンディーニは二人の世界から締め出され、遠い目をして空気に徹していた。

こんなところで息が合わなくても良いと思う。


――――先鋭たちがいくら探っても、領主一家の生活自体は王都でも領地でも質素で堅実。前領主が金に糸目を付けずに医師や司祭などと接触していたらしいが、金額自体はたかが知れている。

総合すると不作は領主の怠慢と体調不良による監督不行き届きであり、改善指導すれば持ち直すのではないか、そう現地で結論付けようとした所へ領民が駆けこんで来た。

ここ数年不作とは無縁の出来なのに、税が重過ぎてもう年を越せない、との訴えによって晴れかけた疑惑が黒い物へと転じる。

取れ高と申告高との差に加え、減額されている上納の余剰分はどこに行っているのか。

領民の直訴によれば領内全体が疲弊しており、猶予はあまり無い。

そこで一計を案じる。

該当領地とその一帯を視察するという情報を流し、同時にあからさまな聞き込みを広範囲に展開、どちらの噂を耳にしても後ろ暗い者は焦って証拠隠滅を図るだろうから、そこを押さえる作戦だ。

王都の方は、今月の頭に動きがあった――――


「……家令……だね?」


探るような私の呟きに、殿下もダンディーニも肯定を示す。

姉は沈痛な面持ちだった。

きっと、当て擦り的に視察の話をした時の家令を思い出しているのだろう。

あの時は、私も姉も半分は疑っていたが、残りの半分は信じていたから。

労るように殿下が姉の肩を抱き寄せた。

隣からも同じような気配がしたが、今だけは肩を借りてやろう。

湿っぽい空気の中、殿下は続ける。


――――取り押さえた男は、馬車一杯に財産を積んでいた。

今、別の者に詳しく詮議させている。

一方の領地は、家人の一人に協力を仰ぎ、監視する旨も含めて快諾(・・)を得て、屋敷の見張りを配置した。

噂を撒いた直後から見張りの影をちらつかせ、ダンディーニが到着した夜、見張りの撤退を装う。

そうして、一人の女が動いた――――


「それが乳母や……」


確認の独り言は姉のものか、私のか。

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