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001:夢の跡

朝も遅い時間、ドスドスという幻のドラゴンですらもう少し上品に歩くであろう足音と、ヒステリックなわめき声が、屋根裏から響き渡った。

あれくらいならば、まだ仲裁に入らなくても大丈夫だろう。

私は手元の無残に引き裂かれたドレス達に目を戻し、ため息を落とす。

母のお古とはいえ、そこそこ上等な生地だったのに。

姉と二人で、三人(・・)が二晩着るためのドレスを六着手直しした日々を想い、また一つ零れる。

昨日、義妹の狂行に姉は青褪めながらも、仕方が無いと潔い姿を崩さなかった。

だから私も、いつまでも引きずっているわけにいかないのだが、如何せん、一昨日の夢のように煌びやかな一夜が頭から離れず、またしてもため息を吐きそうになってそれを飲みこんだ。


引き寄せる力強い腕、耳朶を打つ低い囁きと吐息、熱い眼差し。


まざまざと蘇えった瞬間、体が羞恥に火照った。

再び逢っていたら、どうなっていたことか……

力なくかぶりを振り罪深い記憶を追いやる。

ドレスが無くてもこの足では、どちらにしろ皆に止められた。

椅子に乗せた両足の先をチラリと見て最後に一つため息を吐き、残骸から再利用できる装飾と端切れに振り分ける作業に没頭していった。

あらかた仕分け終わった頃合いに、補佐――正式には家令補佐――が手紙を持ってきてくれたので、小休憩に入る。

依頼品の納期はもう少し先だから、根を詰める程ではない。

机を軽く片付け、補佐が差し出してくれたペーパーナイフを受け取る。


「今朝は、なにを騒いでいた?」


目線を先程の足音のした方へと遣りながら問えば、心得たもので、補佐は軽く視線を落とした。

そうすると、苦労人な彼の白髪交じりの頭が益々薄くなってきているのが見て取れる。

彼は表情にこそ出さないが、元ドレス達と足を見て、今また心を痛めているのだろう。


「独自に取り寄せられている新聞に目を通した後、『先を越された』『泥棒猫が居る』ときつく当たられた、とのことです」


確か彼女が取っているのは新聞と言う名の大衆紙であったはず。

噂話に激昂するとは……


(くだん)の新聞は?」

「引き裂き、撒き散らされたそうです」

「内容、までは分からないか」

「申し訳ございません。お取り寄せ致しますか?」

「いや、いい。新聞とは存外に高いからね」

「――至らず、申し訳ございません」

「補佐が謝ることではないよ」

「ですが……ティスベ様とクロリンダ様には、良くして頂く一方で……」

「皆、働き過ぎるくらいやってくれている。十分だよ」


補佐の濁した言葉尻に被せ、苦く笑いながら言い切り、再び目線を屋根裏の方へと向ける。

視界の端で最後に深く頭を下げた補佐が、それを辞去の挨拶に代え部屋を下がった。


昨日の義妹の顔は、今までの中でも最高に激昂を如実に伝えてきた。

と同時に、最高に卑しい顔をしていた。


目を通した手紙を文箱に片付け、手仕事を再開する。

慣れた作業に暇な頭は、つらつらと苦い気持ちと共に先日のことを思い出していた。

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