指令1
「私、大丈夫だから、殺しても・・・」
「指令だ、飯田実を殺せ」
男は言った。
飯田実、私の名だ。
私、いや、私たちは、生まれてしまった頃からの使命とし、ある男の指令によって生活する。
私は自分の本来の姿を知らない。
姿かたちを変えて時空をさまよってきた。
そんな中、
地球という星の日本、その学校というところで任務を遂行するよう命じられた。
「中学2年生の女の子」という設定で。
周りの者は皆私と同じ男の指令を受けるもの達だ。
中には私たちの義務などを知らない人間という者もいる。
「実-!おはよ!」
友達の織田はるかが駆けてきた。
彼女は私と同じような生き物である。
「おはよ、はるちゃん!」
大きく返事をする、これが日課だ。
はあ
私は
こんな日常が大嫌いだ。
なんのためにおかしな指令をうけて生きなければならないんだ。
どうして罪のない生き物をだまし続けるのか。
ああ
ストレスがたまっていく。
そのたびに私は転ぶ。
「いてっ」
「あ、実」
「いったたたた・・・」
「大丈夫ー、どうしてそういつも何もない所で転ぶのよ」
「あはは・・・ごめん」
「なんであやまるのっ!」
「あはははは・・・」
教室の前でたわいもない会話が繰り広げられる。
私には、
人間らしい気持ちがないのに。
生まれたときから感情がそなえつけられていなかった。
そのせいか、喜怒哀楽が全く分からない。
でも、
でも・・・
でも、
最近あの子が気になってしまう。
「実っ!」
「か、カナタくん!」
「今日もドジってんなー!」
「あはは」
王子スマイルとやらで私のもとに駆けてくる。
彼もまた、私のような生き物だ。
彼は、人間界でいう、彼氏 というものだった。
私から告白した。恋をしたという設定で。
「また髪ハネてるぞ」
「えっ、うそ」
「ここ」
カナタは私の髪をそっとなでて内に巻き込んだ。
「ありがとう・・・」
「いーえ」
どうしてだろう。
何年も感情を持たなかった私が、
感情を持たない彼に、
カナタに
心が動いてしまっている。