探偵失格
「犯人はあなたですよ、坂月先生」
ビシッと、高校教師である男を僕は高らかに指弾する。愕然としているのは周りの生徒だけではなく、坂月さんもだ。まるで女子生徒を殺したのが自分ではないかのような驚きぶりだった。
「な、なんで私なんだ! 私は彼女に対してなにもしていない。アリバイだってあるんだ」
「残念ですが」
ちっちっちっ、と指を振りながら制服姿の僕は小馬鹿にしたように笑う。
「その完璧なアリバイトリックは過去のものですよ」
僕は長々と、それでいて着実に彼の言い分を言いくるめた。事前に彼から話を聞いていてある程度どんな風な言い逃れをするかは予想できていたから、ねじ伏せるのも容易かった。
「……つまり、犯人はあなたしかいないんですよ」
ハンカチで包んだ証拠品を、ポケットの中から取り出す。それを見て観念したかのように、違う、私は……と坂月先生は頭を振る。
「動機については分かりませんが、禁断の愛というやつかもしれません。お二人が仲睦まじく話し合っていのを目撃した生徒も少なくはないようですから。……ですが、その深すぎる愛こそが憎しみにつながった……悲しい事件だったのかもしれません」
うなだれる先生を、警察が連れて歩いていく。無駄なあがきをしながらも、国家権力に逆らうことはできずに野次馬たちの中をかき分けていく。
集まりに集まったその生徒の一人が、ポンと僕の肩を叩く。
「やあ、まさかあの坂月先生が犯人だったとは、俺も盲点だったよ……。……今回も完敗だ」
「そうじゃないさ。今回の勝利も僕の紙一重。いつ犯人を言い当てられるかヒヤヒヤしていたよ」
そいつは僕の親友だった。そいつも僕と同じく天才と言われる人種で、こうして事件が起きるたびに、どっちがより早く犯人を言い当てられるか勝負をしている。
「しかし、どうしてこの学校にはこうも殺人犯が多いのかな……」
ぼそりと呟いた親友の独り言に、俺は答える。
「さあな。でもそれが、僕達探偵に架せられた運命なのかもしれないがな……」
そう、僕だって辛いのだ。こうやって死んでいく人間を見ていて、冷静さを装ってはいるが内心焦りまくっている。
いつ殺した犯人が僕だとバレやしないかということを。
頭が良すぎる僕はとっくの昔に興味のある勉強はやり遂げてしまった。ノーベル平和賞だとかその辺の賞をとっても面白くないし、ハラハラするゲームはないかと長年思案していたのだが、たどり着いた先が、この探偵ごっこというやつだ。
なにより人を殺せるというのが肝。
泣き叫ぶ人間を追い回してこの手でその生命を握りつぶすという行為が、楽しくて楽しくて仕方がない。だが現代社会でそんな蛮行は、許されざる行為であることはわかっている。
だからこそ、犯行をなすりつけることにした。
誰でもいいから、その場にいる犯行におよびそうな人間に、誰もが解き明かせないような謎を作り出せばいい。そうして僕が華麗に解けばいい。感心する観衆の視線が気持ちいいし、なにより自分の考えたトリックなのだから、解けて当たり前なのだ。
そして、偽物の証拠品をでっち上げて偽物の犯人を仕立て上げる。
ああ、なんてやりがいのある作業なんだろうか。
「俺は、こんな殺人なんてもう二度とみたくない。未然に殺人を防ぐことが、探偵にできないというのが俺は悲しいな……」
悲痛に訴える親友に、うんうん、と僕は首肯して心の中でほくそ笑んだ。
「そうだな。いつかお前にも出来る時がきっとくるさ」