Who are you? -あなたは誰?-
金元さゆり。27年間私が付き合ってきた名前。
二十歳を過ぎ、大学もつつがなく卒業し、IT企業のOLとして社会に出た私は、結婚した。私の家族や友達をたくさん呼び、とても楽しかったのを覚えている。
結婚して、金元さゆりは、苗字が変わった。
今、私は専業主婦として家を任されていて、夫は働きに出ている。夫婦の中は円満。子供が欲しいね、とも昨日話し合った。
朝、私は五時くらいに起きる。
そして二人分の朝食を作り、夫の弁当も作る。この弁当は夫に好評で、いつも美味しかったよと笑顔で弁当箱を返してくれる。
そして準備を終えた夫を、笑顔で送る。行ってらっしゃいのキスも添えて。
夫を送り出した後、私にはしばらくの時間がある。その暇は、趣味であるネット小説を書いたり読んだりして潰す。今これを書いているのもその時間だ。
10時頃、まわしていた洗濯機が止まる時間。
洗濯カゴを持ちベランダに。
今日も空が青いことを確認して、洗濯物を干していく。洗濯物を干しているあいだは、今日の夕食の献立について考える。そういえば、あそこのスーパーは今日卵が安かったな。冷蔵庫事情も思い出す。夫が間違って買ってきたケチャップが大量に余ってるんだっけ。オムライスに決定。
自転車で三分のところにあるスーパーで卵を買い、ついでに肉屋のおばちゃんとも雑談して帰る。あのおばちゃん、よく私のことを気遣ってくれる。若いのに一人で大変ね、と。
昼は簡単に済ませる。
夫は、冗談交じりに一人のあいだはいいもの食べてるんでしょ、とか言ってくるけど、私は正直言って一人で食べる料理を作るのは面倒くさい。なので、昼は簡単にシリアルで。
カルシウムを摂っとけば世の中うまく行く、って誰かが言ってた気もするし。
昼のあいだ三時間ほどは割と暇だったりする。
忙しい時は忙しいのに、暇な時間が長い、というのが主婦の心理なんじゃないかと私は最近睨んでいる。
五時半。起動。
冷蔵庫から卵やケチャップやウィンナー等を取り出してレシピをセット。私はレシピさえあればなんでも作れる人間だけど、逆にレシピがないと何も作れない。何故か黒くこげたナニカになってしまう。
錬金か、って誰かに突っ込まれたっけ。
六時。オムライスを皿に盛り付けてリビングのテーブルに運んでいる頃に夫は帰ってくる。
でも、この時間になると毎日思うことがある。
私は、結婚式はとても楽しかったという記憶がある。
誓いのキスだってした。
でも。
でもでもでも。
相手の顔を思い出すことができない。
私は、誰かと住んでいるという記憶はある。
毎日挨拶もしたりされたりする。
でも。
私は、いったい誰と暮らしているんだ?
社会に出た私は、結婚した。私の家族や友達をたくさん呼び、とても楽しかったのを覚えている。
私の?
肉屋のおばちゃんとも雑談して帰る。あのおばちゃん、よく私のことを気遣ってくれる。若いのに一人で大変ね、と。
一人で?
“ナニ”と同居しているんだ?
「ただいま」
あなたは、誰?