真似事
「何故、この日に一斉に体を綺麗にするのですか?」
坊やが問うので母親は答えた。
「さぁ、なんでだと思う?」
「わからないからこそ聞いているのです」
「わからないことはわからないままで良いじゃないですか」
「そんなのおかしいと思います」
そう言われて坊やは頬を膨らませた。
吸い込んだ空気で丸まった顔。
毎年見られる光景。
飽きることも飽きる必要もない。
そこに意味などないのだ。
だから母親は答えてあげる。
毎年のように同じ言葉で。
「お父さんの習慣です」
「お父さんの?」
坊やは父親を知らなかった。
あれこれと思考をしてみるが該当するデータがないのだ。
「m24。お父さんとは誰ですか?」
坊やの問いかけに母親は微笑む。
「c7。あなたの造り主ですよ」
「では、あの墓の中身の?」
「ええ」
母親はそう言って坊やの体を布で拭う。
機械の体は人のそれと違いずっと頑丈だ。
しかし、定期的にメンテナンスをしなければやがて朽ちてしまう。
「あなたのお父さんは人間でした。そして人間は時間と共に自らが変化をするのだと信じていたのですよ。種族単位で。だから時をいくつかに区切り節目の事に大きなイベントを作ったのです」
「では、私たちの体のメンテナンスも?」
「ええ。人間を真似ているんです」
母親は頷いた。
坊やは首を傾げる。
人間みたいに。
「m24。私達はロボットです。変化はできません」
「はい。その通りです」
「ならば体のメンテナンスをする意味とは? 私達に時間の概念は不要では? 人間ではないのですから」
母親は無言のまま坊やの頭に手を当てる。
ロボットと人間は違う。
なにせ、こうして指先一つで記憶の保持と消去が可能なのだから。
「m24?」
「c7。また来年、あなたが真相に辿り着くのを待っています」
途端、坊やは動かなくなった。
ただのロボットに戻ったのだ。
「大掃除をしないと」
母親は人間のようにそう言うとロボットの体を丁寧に掃除した。
まるで新品と見紛うほどに。
*
ロボットが目覚めた。
「ここは?」
「おはよう」
「あなたは?」
「あなたのお母さんですよ」
母親の言葉にロボットは自らを人間の子供と定義した。
「お母さん?」
「ええ。あなたは私の坊や。可愛い可愛い坊や。そして、大切なご主人が私のために残してくれたもの」
「ご主人?」
「あなたの父親のことですよ。もう亡くなってしまったけれど」
人間の子供と定義されたロボットは静かに世界とここにいる母親についてを把握する。
人工知能。
基準を完全に超えた性能。
メモリの暴走。
知能は既に崩壊。
ここは箱庭。
おそらくは彼女の主の。
演じる意味は?
おそらくはない。
「わかりました。お母さん」
けれど、ロボット。
二つとも。
だから演じる。
無意味でも。
それが役割だから。
「また一年、よろしくね」
不要な情報。
演じるには。
けれど答える。
こちらの回答として。
「はい。よろしくお願いいたします」




