第八話 やっぱり私は
【シアナ】
ルキウス様が去ってから、すぐにメイドがスープを持ってきてくれた。美味しいスープが身体に染み渡り、力がみなぎってくる。
「お嬢様、公子様とはどこでお知り合いになられたのですか?」
「え、えっとまだお知り合いというレベルですらないというか………」
「えぇ?そうだったんですか?公子様がお嬢様をお姫様抱っこでこの部屋まで運ばれていたので、とても大事な方なのかと思ったのですが……」
お姫様抱っこ!?……ってなんだろう。
私はお姫様じゃないし、抱っこなら分かるけど……。
「すみません、お姫様抱っこってなんですか?私あんまりそういう話を知らないんです……」
無知だと笑われるかもしれない。そう思って俯くと、メイドは笑って説明してくれた。
どうやらお姫様抱っこというのは横向きに抱えるもので、基本的には大切な女の子にするものらしい。
「そんな大事なことをしてくれたんですね。後でお礼を言わなければ……」
「ふふふ。お嬢様がよっぽど大切だったんですね。あんなに焦った公子様は久しぶりに見ましたよ」
この屋敷の人はやけに優しい。一ヶ月も見ず知らずの素性の分からぬ女を介抱してくれた挙げ句、こうして温かいスープまで提供してくれる。
困っている人は放っておけない。
そんなルキウス様の優しさが使用人たちにも伝染しているのかもしれない。
「そうだ、お嬢様!お外を見ませんか?ここのお屋敷には綺麗な庭があ……」
窓のカーテンを勢いよく開けたメイドは何故かそこで言葉を止めてしまった。視線の先を追うと、洗濯物を干しているメイドと見習いらしき騎士の談笑している姿があった。
そしてその後ろには目の血走った熊のような大きな魔物が……。
「きゃーーーー!」
ここにいるメイドと、外にいたメイドがほぼ同時に叫び、見習い騎士は剣を取り出した。が、彼の足は震えていて全く使い物にならない。
私は考えるより先に足に筋力強化魔法をかけ、無理やり立ち上がる。窓を蹴破って外へ飛び出すとメイドが魔物の時とは違う悲鳴をあげた。
「お嬢様!」
一瞬にしてメイドと騎士の前に降り立つと、私は剣を取り出そうとする。が、そこには何もなかった。そうだ、ルキウス様に貸したんだった……。
きっと私に戦ってほしくなくて持っていったんだな。
目の前の魔物と上から降ってきた謎の女に驚きと恐怖で訳の分からない表情をする二人に「大丈夫」とだけ声をかける。
「その剣、借りるよ」
私は怯えている見習い騎士から半ば強引に剣を奪い取ると、「こっちだよ!」と魔物を誘導する。
魔物から開放された二人は地面に崩れ落ち、すぐに他の騎士たちがやってくるが、まだ距離があった。
魔物が私に噛み付こうとし、それを捻って躱す。私は魔物に剣を振り上げ、そちらに注目させておいて、反対の手で水魔法を放つ。
溢れんばかりの水が一気に球体のようになり、周りの物ごと魔物を包み込む。魔物は苦しそうな声を上げるが、すぐに魔法で対抗して逃げ道を作り、水から脱出をする。
もちろん想定内だ。
水から出てきたその瞬間、剣を振り上げ、全体重をかけて真っ直ぐ振り下ろした。魔物は為す術もなく倒れた。
「す、すごい……」
他の騎士が合流した時には、既に魔物は亡き者となっていた。騎士たちは呆気にとられた様子でこちらを見つめる。「女の子……だよな?」という声すら聞こえてくる。
女の子です。
「あ、あの失礼ながらお嬢様……あの魔物は物理が効かないはずなのですが、一体どうやって……?」
「確かに普通に斬りかかっても剣は通らず、それどころか折れてしまいます。物理ガードの特性はそういうものですから。でも物理ガードは永遠じゃないんです」
「永遠じゃない?」
そう……これは何度も何度も戦って覚えた私の知識。斬られても斬られても助けてくれる人はいない。なら斬られぬように魔物の知識をつけるしかない。様々な魔法、手法を試し、私は今まで生きのびてきたのだ。
「水魔法などで拘束すると、それから逃れようとしてそっちに意識を集中させるんです。そうすると物理ガードの方まで意識が向かなくなって自然と効果が薄れるんですよ」
「で、ですが今まで魔法を使った後に攻撃をしても全て弾かれてしまったのですよ!?」
「それはタイミングですかね……魔物が物理ガード以外のことに意識を向けた直後でなければ、自動的にガードが復活してしまうんです。」
「なるほど……それで今まで苦戦していたのか……」
「なんてすごいお嬢様なんだ……」と周りの騎士たちが何故かざわざわと騒ぎ出し、私は「すみません偉そうに……」と縮こまる。
すると、騎士の中でも特に偉そうな人物が前へと進み出た。そして何故か私に深く頭を下げた。
「お嬢様。我が団の見習いの騎士を救ってくださりありがとうございます」
「いえそんな!私こそ偉そうに……すみません」
「いいえ。お嬢様がいらっしゃらなければ、この騎士あるいはメイドのお嬢さんが命を落としていたやもしれません。」




