第七話 シアナの部屋
呆れた。シアナの力を必要としていながら、シアナの強さを恐れていたのか。自分たちに反逆を起こすことのないように、主従関係が逆転しないように、心を傷つけ、冷たく当たっていた......そういうことだな。
「シアナは絶対にそんなことはしない」
「どうしてそう言い切れるのですか?あの女はあんなに強いのに...」
「強いからお前たちはシアナをいいように利用したんだろうが。」
俺の怒りを感じ取った子爵は縮こまり、「ひいっ」と情けない声を上げる。呆れてため息をつくしかなかった。
「はぁ......シアナの部屋には触れていないんだろうな」
「はい!触れていません!あの女の部屋にはどんな魔法がかけられているか分かりませんから......!」
「話は後でじっくり聞こう。子爵を連れていけ」
「公子様、私はあなたを信じております!どうかあの女に騙されないでくださ.........!」
「黙らせろ」
うるさく騒ぎ立てる子爵の口を部下に塞がせ、そのまま連行させると、俺はシアナの部屋へ向かった。
残った使用人が怯えながらシアナの部屋だと案内した場所は、なんと屋根裏部屋だった。
ホコリだらけで到底掃除されていたとは思えない。これには執事も苦い顔をしていた。
「ここがシアナの部屋.........?」
一体どんな生活をしていたのだろう。そこには少なすぎる家具と、寝心地の悪そうなベッドと薄い毛布一枚が申し訳程度に置かれていた。
薄汚れた机に目を向けると、何かがキラリと光った。近づいてみると、それは粉々に壊れた何かの欠片と、薄汚れたチェーンだった。
「これか............これがシアナの.........」
「子爵令嬢はシアナ様にきつく当っていたようですね。もしかしたら令嬢が.........」
「.........だからあの時シアナは.........」
「やっぱりネックレスはいらないです」と複雑そうな表情を浮かべたシアナが頭をよぎる。一体この家でどんな扱いを受けていたんだ......。
言いようのない怒りを抱えながら、ネックレスらしきものの欠片とチェーンを袋に大切にいれた。
「これ...元に戻せるか?」
「分かりません。屋敷に戻ってから得意な者に掛け合ってみましょう。」
「そうだな」
ネックレスを手に入れればここに用はない。後は子爵の罪を明らかにして牢にぶち込むだけだからな。
俺はシアナの所有品が部屋に残されていないか入念に確認し、ないと確信できてから部屋を出た。
「今更なんですけど......あまりお嬢様のお部屋を見るのはよくないのでは......」
「俺も今思った。秘密にしといてくれ。ごめんシアナ......」
いいよって言ってくれたような気がする。気のせいかもしれないが。
使用人たちも加担している可能性があるので、屋敷にいる者は全て警備隊に引き渡した。そこへ、何も知らない令嬢らしき女が屋敷へと帰ってきた。
この令嬢は恐らくシアナのいう「お嬢様」。つまりシアナを虐めていた筆頭の人間とも言える。
「ちょ、ちょっと!うちの使用人をどうするつもりなのよ!」
こちらに敵意むき出しの様子だったが、俺が黙って紋章を見せると顔色が変わった。
「こっこれ、シルフォード公爵家の......えっ、ということはあなたは...!?」
「令嬢に答える義理はないな。お前の家族は使用人共々警備隊に引き渡した。当然令嬢にも来てもらう。」
「えっ、えっ...!?そんな!あなたは……どう見てもシアナと同じくらいの年齢の方………あっ!ルキウス公子様ですね?初めまして!お会いできて嬉しいです!私は」
「家族が警備隊に引き渡されたというのに随分と余裕だな」
「はい、当然です!私はなんにもしていませんから!」
粉々に砕かれたネックレスと泣き崩れるシアナの姿が思い浮かび、目の前の令嬢を切り裂きたくなったがなんとか耐えた。シアナはきっとそんなことは望まない。
「話は警備隊にしろ。おい、この女を連れて………」
「ルキウス様!」
執事が突然大声で叫んだ。俺が振り返ると、そこには大きな魔物がヨダレを垂らしながらこちらを舐めまわすように見ていた。
令嬢が甲高い悲鳴をあげた。うるさい。
「執事、この女を連れて行け。俺はコイツを片付ける」
「かしこまりました」
「ではご令嬢、こちらに……」と執事が声をかけ、令嬢の手を引き、屋敷の外にいる警備隊の方へ連れていく。
幸い屋敷にはもう誰もいない。騒ぎになることはないだろう。
さて、シアナの大剣……を使って壊したりしたら大変だから俺の剣を使うか。自分の剣を取り出すと、俺は勢いよく魔物に斬りかかった。
その時、新たな別の魔物が執事と令嬢の前に現れ、驚いた令嬢が執事を振り払って俺へ飛びついた。魔物に斬りかかるはずだった剣を慌てて止めたせいで剣はあらぬ方向へ吹っ飛び、俺は体勢を崩す。
すぐに押しのけて体勢を整えようとしたが、令嬢の服の何かに袖が思い切り引っかかった。取れない。
俺の額に冷や汗が流れた。




