第六話 情報収集
「はい。どこから来たのかも分からないよそ者なんですけど、魔法も剣も使える子なので子爵様がお雇いになったんです。その子が守っているので、他の人は必要ないんですよ」
「えっと............この町をたった一人で?」
「はい。小さな町ですし、付近に現れる魔物はそんなに強くないんです。あの子一人でも十分ですよ。」
なるほど、なんとなく問題が見えてきた気がする。
「そのシアナという子はとてもすごい方なのですね。報酬はいくらくらい貰えているんでしょうか。」
「えっと......そこまでは知りませんけど、そんなにすごいことではないですよ。だってあんなに若い...まだ16になったばかりの子にできることなんですよ?せいぜい安いパン一つくらいの報酬じゃないですかね」
その行列の作るパン屋も含め全てを守る少女の報酬が安いパンたった一つだけだなんて......。
ご婦人に礼を言ってその場を離れ、俺と執事は人通りの少ない場所へ移動する。誰も俺たちに注目していないことを確認してから口を開く。
「聞いたか」
「はい」
「この町は異常だ。一度戻って父上に報告しよう」
「まだ子爵の屋敷には行かないのですか?」
「『シアナ』という子の件をどうするか父上に報告してからだ。この子を放置するわけにはいかない」
「そうですね」
町を出て公爵邸へと向かっていた途中、甲高い叫び声が聞こえた。咄嗟に引き返し、町へ走り抜けると、たった一人で大剣を振るう少女の姿が目に入ってきた。
各所に的確に魔法を放ち、素早く剣を振るい、文字通り全ての人を守り抜いていく。
なんて強いんだ。あんなに強い少女は見たことがない。
俺は一瞬、言葉を失ってしまった。
少女はそのまま町の中心へと駆け抜けていく。加勢しなければ。どんなに強くても、あの子一人で守れるようなものではない。
「追いかけるぞ!」
その後、すぐに倒れた少女に剣を振り上げる魔物をみつけ、剣を弾き飛ばした。よく見ると少女の持っていたはずの大剣がない。
ということは今正に弾き飛ばしたそれが少女の物なのだろう。
咄嗟に光魔法で魔物の目を焼き、胴体ごと派手に切り裂いた。
「大丈夫か?」
まだ意識のあった少女に声をかける。彼女に手を伸ばすと、それに応えるかのようにふっと力無く微笑んだ。そしてそれを最後に少女は意識を失ってしまった。
「おい、しっかりしろ!」
少女を抱き上げた瞬間、嫌な香りが舞い上がった。この匂いは...痺れ薬として使われる毒草の匂いによく似ている。
どうやら彼女が戦えなくなったのは、痺れが原因らしい。
「恐らくこの子がシアナだ。」
「そのようですね」
汚れた髪に薄汚れた服、魔物に切り裂かれたであろう小さな傷、使い古した大剣......。この子の見た目でどんな環境にいたのかなんとなく想像ができる。
誰よりも強いはずのこの子は、誰よりも見た目がみすぼらしい。
「16歳か.........俺と同い年だな」
「そうですね」
「女の子ってこんなに軽いものなのか?」
「いいえ、軽すぎです。シアナ様はどう見ても痩せすぎですね」
「だよな。どうしてシアナはこんな状態で戦うんだろう」
「それなりの理由があるのでしょう。シアナ様の保護者を探されますか?」
「いや、このまま連れて帰ろう。シアナの保護者はきっとロクな奴じゃないからな」
少女を家へ帰してはいけないと自分の直感が告げていた。なので俺はそれに従ってこの子を自分の屋敷に連れて帰ろうと思う。父上には適当に伝えておこう。
そして現在。シアナと会話をした後に町へと向かっている状況へ戻る。シアナの身体にそぐわないやけに大きな大剣を背負い、子爵の屋敷へと向かった。
子爵の調べはこの一ヶ月でついている。証拠を処分されてしまうと困るので、「シアナのことはこちらで預かっている。彼女の部屋はそのままにしておくように」以外のことは特に伝えていない。
「父の代わりに子爵に挨拶をしに来た」と適当な理由をつけ、子爵の屋敷へと足を踏み入れた。
子爵の屋敷は子爵の推定収入を超えた豪華な暮らしをしているように思えた。
「......黒ですね」
「......あぁ」
子爵と俺が適当に会話をしている間に、子爵邸に忍び込ませた俺の部下が改ざんされた書類を見つけてくる。その書類をさりげなく執事が受け取り、俺が自身の集めた証拠と共に見せつける。
子爵は観念したように語り始めた。
「確かに私は許されざる罪を犯しました......。ですが!シアナに............シアナにそそのかされたんです!公子様もご覧になったでしょう!?シアナの異常なまでの強さを!」
「この期に及んでシアナのせいか.........話にならないな」
「脱税したお金も、詐欺をしたお金も屋敷の物を売って全部お返しします......!だからどうかお許しください。我々はシアナにあの力で脅されただけなんです......!」




