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万能少女の優しき呪い  作者: 如月フウカ


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第十七話 旅立ち

「え!?」


「もう十分回復しました。私はもう大丈夫です。この素敵なお洋服もお返しします。公爵様……そして皆さん、今まで本当にありがとうございました。」


君はこんなところでドレスを着て令嬢ごっこをしている場合ではない。

公爵にそう言われた気がした。


本当にその通りだ。


「あの、お料理は……申し訳ないのですが皆さんで召し上がってください。私は今から荷物をまとめてきます」


「シアナ、出てくの?この肉美味いよ!せめて肉食ってから行けば?」


皆が呆気に取られている中、そう口にしたのはレオン様だった。お肉を頬張りながら、そう軽く私に告げた。


「お気遣いありがとうございます。ですが、私は……このお肉を頂いてしまったら、お屋敷を出るのが更に遅くなってしまう気がするんです。」


既に美味しい食事は何度も頂いている。これ以上お世話になってここから離れられなくなるのはまずい。


「そっか、じゃぁいつでも帰ってきなよ!兄上の婚約者じゃなければ歓迎するよ!」


私の発言の意味を分かっているのかいないのか、レオン様はあまりにも軽すぎる。私は思わず笑ってしまった。


「はい。皆さん、今まで本当にありがとうございました。このご恩は決して忘れません。それでは失礼します」


私は深く頭を下げ、その場を後にする。そうだ、私のしたいことは素敵な令嬢ごっこじゃない。ここでは皆が私に優しく、尊重してくれる。


おまけにお金に困ることのない華の令嬢生活……確かに憧れの生活だが、ここは私の居場所じゃない。


「…………シアナ……」


私が突然部屋に戻ってくると、掃除をしていたメイドは驚いて開いた口が塞がらなかった。


「今までありがとう。短い間だったけど、お世話になりました。私、出てくね。」


「い、今ですか!?あの、せめて明日の朝でも……」


「ううん、出ようって思った時に出たいの。そうじゃないとここでの皆の優しさに甘えていつまでもいちゃいそうだから」


「そんな、お嬢様!」


「ごめんね」


私は身勝手だと思いながらも荷物を自分でまとめようとする。メイドがせめて手伝いをさせてくれと願い出てくれたので、一緒に作業をした。


と言っても持って出るような荷物はほとんどないからそこにある物を一つや二つ取ってもらう程度の仕事だった。

ドレスを脱がせてもらい、私は自分の元々着ていた古びた服に着替える。


「お嬢様、せめてお洋服だけでも……」


「ううん、こんな素敵なお洋服を汚すわけにはいかないから」


これから私はどうなるか分からないが、魔物が現れて困っている人を助けようと思っている。


せっかくあの町から抜け出したのにと思うかもしれないが、私の根本はやっぱり「誰かを助けたい」ということなのだ。

そうなれば魔物との戦闘は避けられない。素敵なお洋服が汚れる羽目になってしまう。


「少しの間だけど、お嬢様気分を味合わせてくれてありがとう。」


「お嬢様…………こちらこそお世話ができて幸せでした。あの、ルキウス様にはなんと……?」


「えっと……まだちゃんと言えてないの。出てくとは伝えたけど……」


「せめてルキウス様にはご挨拶をお願いします!」


「そ、そうだよね、分かってるよ」


短い間だったけど、メイドの瞳にはうっすら涙が浮かんでいる。

ありがとう、またね。


私はすれ違う屋敷の人全員に頭を下げ、外へと繋がる扉へ辿り着く。ここを出たら、私はまた一人。でもこれは自分で決めた道。

公爵様に言われたように、私はここにいるべきじゃないから。


……いられるような存在でもないしね。


ルキウス様の優しさにいつまでも甘えていられない。……少ししか一緒にいなかったのに、離れるってなるとちょっと寂しいんだね。


もう一度会ったら悲しくて離れられなくなるかもしれない。

ルキウス様は私の初めての大事な友達だったから……。


ルキウス様には悪いけどこのまま屋敷を出よう。もう振り返らずに……前を進もう。今までだってそうしてきたんだから。


屋敷を出ようとすると、私が助けたメイドと騎士が全力で引き止めてくれたが、私は困ったように笑うしかなかった。使用人たちの制止を振り切り、私は外に出る。


酷い雨だった。せめて雨が止むまで、と言われたが私はもう戻らない。


雨の中全身がずぶ濡れになりながらも、私は少しずつ歩き始める。その時、後ろから誰かの走ってくる足音が聞こえた。


「シアナーーー!!」


私は振り返る。


「ルキウス様……!?あの、濡れちゃいますよ!?」


「そんなことどうでもいい!なんであんな風に出ていったんだよ!いや違う……ごめん、父上のせいで。もう一度考え直してくれないか?俺が説得するから!」


ルキウス様が私の肩を掴み、真っ直ぐこちらを見つめてくる。傷ついてばかりだった人生で、初めて私を助けてくれた人。屋敷に連れて帰って看病してくれたとても優しい人。


でもこの人は私と生きる世界が違う。本来は、友達になれるような存在ではない。

そして公爵邸は、私が住めるような場所でもないのだ。


「……すみません、ルキウス様。公爵様の言葉で気づきました。私……私はやっぱり魔物から人々を守りたいんです。私には……それしかないから」


「……分かった」


「それでは……今まで本当にありが……」


「なら俺も着いていく。」


「え!?」

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