第十六話 目的
執事とルキウス様の言い合いを仲良しだなぁと微笑んで眺めていると、すっ飛んできたメイドに私は連れていかれる。
公爵家の晩餐に参加するにあたって、もっと美しい服を用意してくれるらしい。既に眩しいほど美しい服を着せていただいているのに、これ以上の服だなんて私はどうなってしまうのだろうか。
約一時間後、私は屋敷で一番地味なドレスを着せられ、公爵家の晩餐へと向かっていた。
とても私が着ていいようなお洋服ではなかったため、私がお願いしてやっと地味なドレス……それでも派手なのだが……にしていただいた。
これを地味と呼ぶにはあまりにも失礼なほど、散りばめられた宝石が輝いていた。
「あの……私はご令嬢じゃないからこんな素敵なお洋服は……」
「ダメです!お嬢様がどうしてもと言うので今までは裾の広がっていないお洋服をお選びしていましたが、今回は晩餐会ですので素敵におめかししなければ!」
「分かりまし……分かった…………」
この服で戦うのは流石に無理だなと思い、美しいドレスを眺めた。当然剣を背負うこともできず、部屋に置いておくしかなかった。
「実は、お嬢様が戦えないようにドレスを選んでくださいと言われました。またお怪我をされては大変ですので、戦いのことは騎士たちにどうかお任せ下さい」
「なるほど……分かった。じゃぁ今日は大人しくするけど、こんなに裾の広がった可愛らしいドレスは今だけにしてほしいな。」
「お嬢様がそう言うのでしたら……特別な事情のない限りは配慮させていただきます」
「うん、ありがとう。」
公爵家に来て一ヶ月と数日。私は何故か成り行きで公爵家の晩餐に参加することになってしまったのだった。
ふと、全身を映す大きな鏡が目に入る。
本当は令嬢でもなんでもないのに、見た目だけは立派などこかのお嬢様のように見える。あんなに古びた服を着て、薄汚れた髪のシアナはもう何処にもいなかった。
私のかつて仕えていたお嬢様はこんな景色を見ていたのか。素敵な服を着て、温かいご飯をお腹いっぱい食べれるなんて……正直すごく羨ましい。
私はそんなことを考えながら、扉を開いた。
「お招きくださりありがとうございます。公爵様、シアナと申します。あの、私……勝手にお邪魔してしまって本当に申し訳ございません」
初めて会った公爵様の瞳はルキウス様とも、レオン様とも違う……不思議な目をしていた。
しかしその目は、見つめるだけで人を萎縮させる。
「……」
見兼ねたルキウス様が公爵様に私を紹介してくれる。
「父上、話をしていたシアナです。怪我が完全に回復するまで、どうか公爵家に置いてあげてください」
「シアナか…………見た目だけは立派な令嬢のようだな」
「父上!」
ルキウス様がガタンと音を立て、机を叩く。お皿に置かれたフォークが少しだけ踊った。
「見たままを言っただけだ」
「ダーリン、シアナちゃんに酷いこと言わないで」
「メリッサ……ルキウス。何故この女の味方をするんだ?」
「シアナはずっと酷い環境でたった一人で戦ってきたんです!だからこそ……だからこそ俺は、彼女の絶対的な味方でいたいんです」
「私は一目見てシアナちゃんが気に入ったの。それだけよ」
特に迷うこともなく、二人はそう告げてくれた。そう思ってくれていたことがとても嬉しかった。
「レオン。お前はどうだ?」
「別に兄上を取らないならなんでもいいです。シアナは悪いやつじゃ無さそうですし」
そう言ってレオン様は見たこともないような大きいお肉にフォークを突き立てて豪快に食べていた。
「シアナ。聞けば君はたった一人で町を守っていたそうだな」
「はい、そうです」
「では公爵として君に聞こう。お前の目的はなんだ。ルキウス、そしてメリッサ……レオンまでも誑かして我が公爵家を乗っ取るつもりか?」
「父上!いい加減に……」
「違います!」
自分でも驚くほどの大きな声が出た。私の目的。初めは、人々を守ってほしいという両親の願いから町をただ守り続けていた。
それは私の目的というよりは、使命であり、強制的だった。
でも私は助けた相手に感謝してもらえることを知った。私は感謝されるような人間でありたい。
優しい人たちが傷つくことのないように、私の剣で守っていきたい。
「私は……私は人々を守りたいです。この力を役に立てたい。あの町で私はいいように使われてしまった。でも……そうじゃなくて、今度は自分の意志で誰かを守りたいんです。」
「…………そうか。なら君はどうすべきかもう分かるな?」
「はい。」
私は椅子に座ることもなく、その場で深々と頭を下げる。ネックレスがシャンデリアの美しい光を反射した。
「公爵夫人、ルキウス様、レオン様。執事さんに、メイドさん……皆さん今までお世話をしてくださりありがとうございました。私は本日をもってここを去ります」
「え!?」




