第十五話 修繕
「本当ですか?ありがとうございます!」
「なんで上からなんだお前は......」
レオン様に呆れてルキウス様は深いため息を吐いていた。先ほどからため息ばかり聞いている気がする。
奥様もレオン様も、ルキウス様を本当に大切に思っていることがよく分かった。もちろんその反対も。
これが素敵な家族のあり方。お嬢様のような家族はきっとかなり異常だったのだろう。
廊下を軽い足取りで去っていったレオン様の背中を手を振りながら見送ると、ルキウス様が「あっ」と声を上げる。
「そうだシアナ、これを渡そうと思ってたんだ」
そう言ってポケットから取り出した物は、私にとってよく見覚えのある物だった。
「......なんとか直したんだけどちょっと......というかかなり部品が壊れてて色々継ぎ足したんだが......」
「わぁ!すごい綺麗...!」
私のネックレスはルキウス様の手によって元の形を残しつつ、より美しく姿を変えていた。
お嬢様によって粉々にされた部品はほとんど元には戻らなかったはずなのに、それでも元の良さを確かに感じられた。
「ありがとうございます!ルキウス様!」
この人はなんて優しい方なんだろう。
私はこの人のように優しい方を守っていきたい。
両親に言われたからではなく、今度は自分の意思で……優しく、人々を守る存在になろう。
「いや、当然のことをしただけだ。シアナの思い出を守れてよかった」
「はい!」
「ところでそのネックレスはどう……し……」
「はい……?」
昔の私ならネックレスなどと素敵な物は自分に似合わないとしてポケットや鞄にしまっていた。しかしこんなに素敵に直してもらった物をつけずにいるのはもったいない気がする。
そう思った私は速攻で自分の首の後ろに手を回し、ネックレスを身につけた。
何故かとても複雑そうな表情でルキウス様がこちらを見つめてくる。
「あ、あの……ネックレスやっぱり似合わないですかね……?」
「いや!違う!そんな事はない、すごく似合ってる……けど」
「けど?」
「…………」
「シアナ様は今までお一人で生活されてきたのですから、ネックレスくらい一人でつけられるでしょう」
その言葉に振り向くと、ルキウス様の執事がそこにいた。「失礼しました。お二人の声が聞こえたものですから」と軽く頭を下げてくる。
「それは分かってるけど……いや……まぁもういいや」
「執事さん、私なにかまずいことでもしましたかね?」
「いえ、お嬢様は何もしておられません。ただこれは男の見栄と言いますか……」
「見栄……?」
「ルキウス様は恐らくシアナ様にネックレスをつけて差し上げたかったのだと思いますよ」
「え……」
ネックレスってつけてもらえるものなんだ。そうだったんだ……。
一瞬たりとも誰かに手伝ってもらうという発想が生まれなかったため、私は執事の言葉に驚かされる。
「すみません、ルキウス様、私……」
「あー!こうなるから言わなかったのに!なんで言ったんだよ執事!」
「訳も分からずそんな態度を取られる方が困ると思いまして。」
執事は鋭い視線をルキウス様に向けた。ルキウス様は分かりやすく視線を逸らし、言いにくそうに言葉を紡ぐ。
「それは……」
「お嬢様が助けに来られた時も怪我人のお嬢様を戦わせてしまったことを悔やんで、微妙な態度を取っておられましたよね。それを受けてお嬢様がどうお考えになるか考えられましたか?」
「…………」
「そう……だったんですか?あ、でも私ほんとに少しも気にしてないです!むしろそう思ってくださって嬉しいです!」
本当に気にしていないのに、微妙な空気が流れてしまったことに気づき私は慌てて訂正する。
「……シアナは今までずっと戦ってきたんだから、休ませておきたかったんだよ」
「そうですね。でもだからと言ってあのような態度は良くないと思います。私なら嫌ですね」
「……そうだな。ごめん、シアナ。助けに来てくれたのに変な態度取って……」
「えっ?いや、そんな全然……」
ルキウス様が深く頭を下げる。
謝られてしまった。どう言うのが正解だったのだろう。私たちの間に微妙な空気が流れた時、視界の端に公爵夫人の姿が映った。
「あら、皆そんなところで何してるの?ルキウス、なんで頭下げてるの?浮気?最低ね」
「ちげーよ!……違いますよ!!」
「ダーリンがシアナちゃんを呼んでるわ!今から皆でご飯食べましょうって!」
「えぇ!?公爵様と!?」
「そうよ〜!先に行って待ってるわね!二人とも準備ができたらいらっしゃい!」
公爵夫人はこちらの意見を特に聞かずにそのまま優雅に歩いていかれてしまった。
その場に残された私たちは呆気に取られる。
「あの……公爵様にお会いできるような身分ではないのですが……いやそもそも!ルキウス様とお話しているのもおかしいというか」
「シアナは公爵家の客人だからな。誰と話そうが関係ない。文句を言う奴がもしいたら俺に言ってくれ。消してやるから」
「お嬢様ならルキウス様の手を借りずともご自分で消せるのでは?」
「おい」




