第十二話 今後
その後、私たちは屋敷へと歩き始める。
さっきのルキウス様の言葉は、どうやら屋敷に住まわせてくれるという意味だったらしい。
魔法が切れかかって、足の痛みが復活しだしている。怪我が治るまで甘えさせてもらおうかな。
歩いていると何かを思い出したのか、ルキウス様は私に疑問を投げかける。
「シアナ、あの女のこと、本気で見捨てる気だったのか?」
私がお嬢様を助けることを渋ったことが気になっていたようだ。私は静かに首を横に振る。
「いいえ、いざとなれば魔法を使うつもりでした」
「だよな、やっぱりそうだと思ったんだよ」
「謝れば助ける条件なんてつけずに無視すればよかったのに」と不満げに口を尖らせる。
「そうですよね。」
今までしてきたことも、ネックレスを壊されたことも許すつもりはない。でも謝罪に関わらず助けるつもりだった。
「ここで死なれたら...罪を償って貰えなくなるから...ですかね」
私は言葉を続ける。誰かの心を傷つけておいて、自分はさっさと死ぬなんてそんな都合のいいことは許されない。私は認めない。
だからお嬢様もちゃんと今までしてきたことを償ってほしい。
「シアナは...強いな」
ルキウス様がふと呟いた。私は思わず立ち止まり「え?」と聞き返してしまう。
「シアナは強い」...この言葉は町の人にも何度も言われた言葉だ。でもルキウス様の言った「強い」はどう考えても戦闘力的な意味合いではない。
「強いなって思った。俺だったらとっくに逃げ出してるなって...」
「ふふ。そんなことないですよ。だってルキウス様が私と同じ状況だったら......」
「だったら?」
「私が必ず助けに来ますから」
これからは、守る人を選びたい。私が助けたいと思う人々を守っていく。
私の力はそのためにあるから。
「そっか...ありがとな」
その表情は、あの時...ルキウス様とお嬢様を助けた時、彼が私に向けた悲しげな表情によく似ていた。
笑ってほしくて言っただけなのに、何故そんな表情をするのか。
そう問いかけようとした時に、急に足の力が抜けて地面に倒れ込んだ。強引に足を強化していた魔法が切れたようだった。
「シアナ!?」
「すみません...魔法が切れたみたいです.........」
頭のてっぺんからつま先までもう少しも力が入らなかった。あまりにも無理をしすぎたらしい。魔法の効果が切れる前に魔物を倒しきれてよかった。
「あぁそうか......そういえばシアナはまだ動いていいほど回復してなかったよな......」
「えっ!?いえ、あの......もう結構元気なので私は大丈...」
「アイツらなんでシアナを止めなかったんだ!?揃いも揃って何をやってる...!」
「いえ私が勝手に飛び出してきたので皆さんは関係な」
私は問答無用で抱えられると、ルキウス様の屋敷に連れ戻された。屋敷の皆さんはそれはもうこっぴどく叱られていて、私の弁明は一切聞き入れて貰えなかった。騎士団の人たちも叱られてしまったらしい。
勝手に飛び出したのは私なのに、申し訳なさすぎる...。
それから数日が経ち、私の足も徐々に回復し、歩けるようになった。早速メイドに声をかける。
「すみません、私のせいで皆さんが......」
「いえ、我々がお嬢様を止められなかったのが悪いのです。あろうことか使用人を守って頂くなんて......謝罪すべきはこちらの方です。お嬢様、申し訳ございません」
「そんな......えっと......次からは気をつけます...」
私の行動で他の人が怒られてしまうのはあまりにも申し訳ない。なぜ私を止められなかっただけでそんなに怒るのか分からないが、しばらくは大人しくしよう。
...今度はホントにね。
「お嬢様に助けていただいたメイドと騎士見習いですが、二人ともいつも以上に仕事に取り組んでいますよ」
「そうなんですね!お仕事ができるくらい元気になってよかった...。たまに魔物を見るとショックでしばらくお部屋に引きこもられる方もいるので、すごく心配してました。」
「お嬢様がコテンパンにやっつけてくれましたからね。あれでは怯えようがないですよ」
今気づいたのだが、メイドに上手く誘導されて椅子に座らされ、私の髪を丁寧に梳いてくれていた。度重なる戦闘とたまにしか入れないお風呂のせいで、髪はそれはもう酷い状態だったのだが、メイドたちの力で本物の令嬢かのような輝きになっていた。
「あの......こんなに素敵にして頂かなくても...その......申し訳ないので」
私なんかのためにここまでしてもらうなんてちょっと気が引けてしまう。私は令嬢でもなければ、公爵家の一員でもないのに。
「我々が勝手にお嬢様を綺麗にしているのでお気になさらないでください。それから、ぜひ我々には敬語を使わずに楽にお話くださいね。お嬢様はルキウス様の大切なお客様なのですから」
何気ないそのメイドの一言で、過去の記憶が蘇る。
かつて私が仕えていた屋敷のお嬢様が家族で集まっていた時のことだ。私が廊下の掃除をしていると、偶然話し声が聞こえてきたのだった。
「お父様!いつまでシアナを屋敷に置いておくつもりなの?」




