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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

"童貞"の概念体の俺らに出来ること

作者: つるおん

要約

"『童貞』の概念体である俺と『処女』の概念体である三島さんが出会い、そして卒業する"そんなお話です。

俺は、童貞だ。

いや違う、なにも俺自身が×××をしたことがないというわけではない。

俺は、童貞、そのもの。


童貞の、概念体だ――。



「悪い山田...」

「おい高田...嘘だよな...お前、俺らは一緒に40まで生きるって決めたろ!」

「...お前も、早くこっち来られるといいな」

「高田ぁ!!!!」


ぷしゅうぅぅぅ......


......。


ポンッ


「山田、気を落とすな」

「...くそ...高田の奴......約束したってのに...」

「高田にとっても、高田の共同体(マスター)にとっても、いいことなはずなんだ」

「......」


俺達、童貞の概念体は、マスターと呼ぶ共同体、つまりその人間が童貞を捨てると消えてしまう。

さっきの...高田みたいに。


「土屋さんは裏切らないっすよね...」

「俺のとこは...まだ当分は大丈夫そうだな笑」

「そうですか」

「悲しい気持ちは分かる、もうここには若い奴はほとんどいなくなっちまったからな」

「俺、これからどうすりゃいいんですか」

「うーん...案外こっちでのんびりするのも悪くないぞ!......なんつって」

「......」

「...悪い」


俺のマスターは35だが、童貞だ。

小さいころから仲の良かった友人たちは20やそこらでさくっと俺を見放しやがった。

いや...俺の方が、あいつらを裏切り続けてんのかもしんない。

マスターが初めてを経験して、俺らが消えて、そしてどこへ行くのかは分からない。

こんななにもない場所よりかはいいのかもしれないし、そもそも場所なんてものはないのかもしれない。


「君、どうした?」

「...あ...えと......」

「もしかして迷子か?」

「え...あ......はい...」

「しゃーねーな、俺が案内したるから」

「あ、ありがとうございます...」

「可愛い声してんなお前」

「えっ...!あ、あいや...僕はそんなこと...(あたふた)」

「はっは笑

とって食ったりはしねえから大丈夫だって」


流石にいい歳した童貞だからって、ちょっと声が可愛いだけの見知らぬ男に手を出すようなマスターではない、よな?(笑)


「名前とかはあるのか?」

「えっと...一応、三島と言います...マスターの名前ですけど」

「俺もマスターの名前からだ、山田、よろしくな」

「山田...さん」

「おう!」


俺達、童貞の概念体同士は、互いのマスターが会っている状態でしかお互いを認識できない。

マスター、人間同士の"会う"よりかは少し定義が雑ではあるわけだが。

俺のマスターは行く場所が中古のブックストアか、たまになにかのイベント?のようなものに行ってるくらいで、ほとんど家にいるから、まじで退屈だ。

毎日に飽き飽きしてる。

さっさと童貞辞めてくれとも思いながら、消える勇気がいまだ持てない俺もいる。


「お、おい!三島!」

「ごめんなさい...もう行くみたいです」

「そうか......また会えるといいな」

「...!...はいっ!またどこかで!」


・・・


結局、それ以来、三島と、本屋以外で会うことはなかった。

...週に1回。

俺のマスターと三島のマスターが同じ本屋で時間を過ごす。

そのほんの数時間が俺の楽しみだった。

毎日毎日、次会えるのはいつかと、なにを話そうかと、そんなことばかりを考えていた。


「あっ!山田さん!また会いましたね、へへっ」

「三島ぁ!今日は、15年前にあった俺の存亡の危機だった夜の話なんだけどな...」


高田、先日逝った俺の最期の友は、正直言うとつまらない奴だった。

他人の話にたいして興味は持たないし、いつも自分勝手で、自分の自慢話しかしなくて。

対して三島は違う。

俺の話一つ一つをそれは楽しそうに聞いて......って...


俺って...やってること山田と同じじゃねぇかよ...。


「ごめん三島...俺、ヤな奴だったな...」

「え?い、いえ!そんなことないですよ!

山田さんのお話はいつもすごく面白いですし!」

「...そうか......」


これは気を使ってくれている。

そうなんだと、すぐにわかる。

昔から空気だけはいっちょ前に読めるマスターに似たってことだ。


「あっ、もうお別れの時間だな」

「そうですね...ではまた来週にっ」

「うん...」


俺ら概念体は自らの意思で行動が出来ない。

もちろん、少し動くとか、話すとかは出来るんだが、大きな行き先が決められない。

三島が俺と会いたくなくても、俺のマスターと三島のマスターが同じ時間に同じ本屋にいる限り、俺らもそこに存在する。

三島的に言い換えれば、存在してしまう。

なのかもしれない。


「まじで...まっじで改めないと」


・・・


この一週間はこれまでのそれよりもはるかに短くて、そしてじれったく感じた。


「お、おう...」

「あっ!山田さん、こんにちは」

「こ、こんにちは三島...さん」

「さん...?山田さん、いつもそんなんでしたっけ」

「まあ?イメチェンってやつだ」

「ふーん?そうなんですね、それで今日の山田さんのお話は?」

「今日はいつもみたいな自慢話はなしだ」

「代わりに今日は三島の話が聞きたい」

「僕の...?ですか...?いえでも話なんて...」


気を使ってもらうのは構わない。

だけどせっかくなら俺はもっと三島と仲良くなりたい。

三島にとって、会うのが楽しみになるような存在になりたい。


「僕の話なんて...特にないですよ

もうほんと、山田さんのお話はどれもこれも新鮮で...」

「......そうなのか...」


話したくないと来たか...。


「まあ、無理にとは言わないから」

「...ありがとうございます」

「そんじゃ少し出遅れたけど今日の話は......」


・・・・・


驚くくらい、時は早く流れていく。

変わらず、俺らのマスター同士は他人だけど、俺らは着実に、友情の糸を編んでいった。

そして今日。

今日はついに三島が自分の話をしてくれるらしい。

もちろん嬉しい気持ちもあるが、無理強いはさせないつもりだ...。

なんて、余裕ぶっていた俺が懐かしい。



「意外と少ないんですよ、山田さんたち童貞に比べるとどうしてもね

僕ら"処女"って―――」



......。


「みし...ま...それって......」


驚いた、なんてちんけな表現じゃ、表せない感情に食べられる。

俺ら"童貞"と"処女"は相容れない存在。

同時の存在が許されない反極。

どうしてか...それはつまり――


「やっぱり山田さん、気づいてなかったんだ

僕は気づいてたよ、初めて会った時からね」


俺らは概念体。

"童貞"の概念体である俺と"処女"の概念体である三島...さん。

そして相互の認識...それが意味するのは――



「それじゃあ、しよっか、『×××』」



.........。


「三島さんそれ意味分かって!」

「山田さん、こういうのはちゃちゃっと始めないと、どんどん気まずくなるんだよ?ふふっ」

「三島さん...三島さんはいいのかよ...」

「僕...いや、私は興味あったよ

どうせ形ない私たち、一生ここで廃れ生きるか、消えてどこかで生まれ変わる

それならなにも別に『×××』するのがマスターどうしじゃなくてもよくない?って思ってたんだ、ずっと」


確かに...一理はある...のかもしれない。

俺だってここでの生活にはうんざりとしていたし、いつ来るかも分からない消失(童卒)に怯える日々。


「三島さん...」

「山田さんっ」

「じゃ、じゃあ行くよ...」

「うんっ♪」

「お、おじゃまします...」


ピトッ...


パアアアぁぁぁぁぁんん!!!

ぷっしゅゅゅゅ.....


「あ、ああ、これって...」

「うん!セイコウしたんだよ!これで私たちも晴れて大人の仲間入りだね!」

「ははっ、今までも大人だったろ」

「あははっ!そうなのかもね!」


ぱぁぁぁ...


「もうそろそろだね」

「そうだな」

「ありがとう、私、山田さんに会えてよかったよ」

「俺もだよ、三島さん」

「もし...」

「もしもどこかで会えたら!」

「うんっ!」

「そのときは()()っ!!」


ぱあああぁぁぁぁん.........

しゅうううぅぅぅぅ......


*****


俺は山田。

35にもなっていまだ童貞の...


ピュルルッ


「あぁっ...//」


え、え、え???

なにこれなにこれなにこれ!!

え......


「あったかい......」



―――終わり。

「いまだに童貞なの...恥ずかしい...」そんなあなた!ご安心を!女の子のたくさんいるところに日ごろから行っていれば僕らの概念体たちがなんとかしてくれるかもしれません!!

いや、もう、済ませてくれているのかも...!

一旦、駅にでも行ってみるか...。...。...。


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