インタヴュー
とある夏の日。
某テレビ局のスタッフ達は困っていた。
街頭インタヴューに繰り出したものの、誰もが迷惑気に手を振り、逃げるように去っていくのだ。
―こんなご時世だから仕方ないかな···。と、口には出さねど、スタッフ達は思っていた。
新型ウイルスが猛威を奮い、世界は変わった。
WHOによる衛生上の緊急事態宣言、感染防止の防護服に身を包み、診察に当たる医師や看護師達。
この国も例外ではなかった。いわゆる感染爆発状態から数ヶ月。
徐々に落ち着きを取り戻しつつある、世の中をクローズアップする、という名目ではあるが···。
容赦ない夏の陽射し、マスクに熱がこもって苦しい。
―誰か、立ち止まってくれないか?
最悪一人でもいい。
そう願っていた時だ。
彼らの前をひとりの女性が通り過ぎた。
彼女が通り過ぎた瞬間、一陣の風が吹き抜けたように、周囲が涼しくなった。
―私ですか⋯?
スタッフの呼び掛けに、驚くべき事に、女性は足を止めてくれた。
マスク越しでもわかる、美貌だった。今どき珍しい黒髪に、切れ長の目元。睫毛が長い。何の変哲もない、トップスとボトムがお洒落だ。
―これは視聴者の目をひく。そう直感したインタヴュアーは彼女に質問した。
「今の世の中をどう思いますか?」
女性は戸惑いを見せた。
―どう?···ですか。そうですね···。
考え込む風。
―以前と今とではまるきり変わってしまった、と思います。人々は常に緊張して不安に晒されている···ですかね。
ごく遠慮がちに述べる。
―だから気付いてないんです。
その言葉にインタヴュアーは、きょとんとなった。
「気付いてない?何に?」
台本もカメラも忘れ、問うた。
―そうですね⋯本当に言っていいんですか⋯?
女性はまたしても遠慮がちに言った。
―じゃあ···
ふいっと彼女は、カメラに視線を合わせた。カメラの向こう側を見るように。
―じゃあ、言いますね⋯
「あなた達は、もう死んでます」
彼女がそうはっきり言った瞬間、風景がぐにゃりと歪んだ。
とある夏の日。
容赦ない夏の陽射しが照りつけていた。
あるいはこの風景すら、青い星の見ている夢なのかもしれない···。