痕
早く別れてくれればいいのに。
ぼそっとつぶやいたその言葉を拾った私の友人は、「こじらせてんね」と笑った。そんなの私が一番わかってる。こんな気持ちを知る前に君から離れればよかったと考えてしまう。
「わかってるからやめてよねー」
「いやでも最近のあんたみてるとほんとに心配。何もあいつだけじゃないんだよ、世の中は」
「もう、この話やめようよ」私がうまくない笑顔を作ると友人は、言いたげな顔を残して今日のご飯の話を始めた。
「あ」
友人がみている方向を見るとあの子がいた。いつものかわいい笑顔で仲間たちと授業準備をしている。わざわざ私が近くに行って
「おはよ」そう声をかけると元気な返事が返ってきて、ああやっぱり好きだなととりとめのない感情が頭の中を支配する。そんな時、短い髪からみえるちいさなファーストピアス。
恋人のいるあいつが今つけてるピアスが私が開けたものだという事実が自尊心とよくわからない感情を埋めてくる。
「一生で開けるピアスは一個だけにするんだ」そう言いながら私に頼んできたあの日を思い出す。
永遠に消えない跡を私に任せてくれたあなたがいとおしくて憎らしい。
あなたに消えない跡をつけたとき、わたしにも消えない傷をつけられた。
もうどう頑張っても君は私のものにならない。どう頑張っても君の特別にはなれない。
ピアスをお願いしてくるもんだから、勝手にお互いに思いあってるもんだと思ってた。
いつかおそろいのピアスをつけて笑いあえるもんだと。君の好きだといった私の笑顔も一緒に。
とっとと、私が開けた穴がふさがってほしいのに、絶対外さないでってわがまましか言えない私を許して。