地下鉄
この世界は様々な都市伝説が有る。
眉唾ものから真実に近いもの。
ピンからキリまでだ。
普通ならそんな事に遭遇することは稀である。
普通なら。
そう普通なら。
僕という存在は例外だ。
正確に僕たちという存在がだ。
親友にして相棒のラジオから音楽が聞こえる。
とてもポップな感じの。
動かない地下鉄の中を僕は歩く。
踊りながら。
「うう~~ん」
「ああ~~」
僕は破壊され硝子の飛び散った地下鉄の中で作業をする。
因みに地下鉄は動いてません。
僕は引き抜いた糸状の物を数本束ね紐にする。
「ひっ!」
この作業は既に何度もしてるので慣れたものだ。
其れを適当な物に巻きつける。
針は裁縫セットを持っていた奴がいたので譲ってもらった。
針をいい感じに折る。
其れに紐を結ぶ。
輪ゴムを結ぶことは諦めた。
獲物の引きが強すぎて持たないので。
僕は鼻歌交じりで作業をする。
『慣れてきたな』
「慣れるよ~~既に此の生活をし始めて一ヶ月だし」
『そうかい』
僕はモゾモゾと動く虫を針に刺して移動。
とある場所に入り下の方に向け垂らし紐を緩める。
地下鉄の便所の穴に。
因みにバッチイので下を目隠ししているゴムの板は切りました。
釣れた獲物が……うん。
嫌だね。
衛生的にアレだし。
色々付いたら嫌なんで布やらで覆い見えないようにした。
というか便所はアレ出し。
汚いという印象が拭えない。
とはいえ今は貴重な水源だ大切にしないと。
手洗いの水が飲めるとは思いませんでした。
「ふふ~~ん」
僕は釣り糸を垂らし続ける。
釣り糸もどきだが。
食料の確保はサバイバルの基本だしね。
というか~~サバイバルの醍醐味というか……。
うん。
釣れんと泣く。
わりと本気で泣く。
他に食料を得る手段が無いのがキツイ。
お?
引いてる。
引いてる。
釣れました。
ソコソコの引きです。
小物ですね。
そうでないと此の釣り糸では持たん。
というか……。
「此れ明らかに地球の魚では無いな」
『何日も食っててアレだね』
「そうやね」
『また後何匹か釣るの?』
「僕一人だけ食うのはねえ~~」
『お人好し』
ガチガチと歯を鳴らす魚。
其の歯は鋭く頑丈そうで明らかに肉食魚である。
針を噛み砕ける程でないけど肉なら食いちぎれそうだ。
実際肉を食いちぎるところを見ました。
見た目がピラニアに似ているのだから当たり前だろう。
此れで釣り糸もどきを何で噛みちぎれ無いのか分からん。
まあ~~美味いから良いけど。
そのまま僕は便所から出て地下鉄の座席に移動する。
そのまま僕は動かない人たちから持ち物を漁る。
ライターの油無くなって不便だわ。
他に喫煙者居るよね?
「ねえ」
「えへへへえへへ」
「うん?」
不意に声を掛けられた。
其処には無惨姿に成ったセーラー服を着た女子のクラスメイトがいた。
長い時間風呂に入って無いので異臭がする上に見た目が汚い。
もう一人の女子は気が触れたのか上を見上げ虚ろな目で笑っている。
「何であんた平然としてるの?」
「はい?」
「何でこんな状況で平然としてるの?」
「聞こえてますよ」
「だったらっ!」
「喚いてお腹が膨れます?」
「あんた……おかしいよ」
僕を睨みつける女子。
何いってんだか……。
「もういやっ!」
「はあ?」
何この子?
頭を抱え頭を激しく振る女子。
名前はしりません。
興味ないので。
耐え難い現実を受け入れたくないみたいだ。
まあ~~知らんが。
「何で乗り込んだ地下鉄がこんな所に来てるのっ!」
「あ~~」
僕は苦笑いしながら外を見る。
地下鉄の窓から外を。
青い。
青い空。
緑の雲が窓の下に浮かんでいる。
大人を大きさを超える大きなトンボが飛んでいた。
このトンボは肉食だが今は安全だ。
此の地下鉄の中にいる限り。
自分より大きな体を持つ地下鉄を襲わない。
但し身を乗り出した者を襲うが。
ここは異世界。
というか都市伝説の一種だ。
特定の時刻に地下鉄の乗ると其処は異世界。
等という都市伝説だ。
地下鉄が異世界の空に浮かんで居るのはご愛嬌だ。
うん。
但し極めて致死性の高い都市伝説である。
一ヶ月前の事だ。
家から学校に通学する為に地下鉄に乗ったのだが……。
地下鉄が行き成りこの世界に来てしまった。
搭乗者ごと。
行き成りの事で混乱した搭乗員達。
僕はこの現象に心当たりが有った。
都市伝説だ。
というか相棒の意見も一致した。
都市伝説と当たりを付け直ぐにトイレに引きこもりました。
この後の惨劇が予想できたからだ。
三日までは良かった。
食料も水もある程度持っていた人が居たから。
問題はそれからだ。
食料と水が人数に対して少なすぎた。
飢えと乾きに苦しむのに時間は掛からなかった。
争いに成るのは予想出来た。
だから僕はトイレに引きこもった。
食料を求め何とか外に出ようとした搭乗員は食い殺された。
外のトンボに。
此れで外に出るのは断念。
直ぐに殺し合いに成るのは早かった。
そうして偶然生き残ったのが此の二人だ。
まあ~~一人は廃人になったみたいだけど。
僕は気にしない。
なお僕は持参していた弁当と水筒で飢えと乾きを凌いでました。
後トイレの水は普通に使えたので水分は其処で補給しました。
ある程度外が静かになってから出たら予想通りの展開でした。
彼方此方に倒れ伏した死体。
端の方で震える生き残り。
いや本当に予想通りでした。
それから僕は食料を確保するため色々工夫して今まで生き残りました。
ええ。
「其れはそうと今日も食べるでしょう?」
「……」
「えへえへ」
僕の言葉に無言です。
いや良いんだけどね。
もう一人の子は完全にアチラの世界に旅だっています。
元の世界の戻ったら精神病院送りですね。
「食わないともたないよ」
「其れを……食べろと?」
僕の言葉に異様な顔をする女子。
はて?
「死んだ人の髪を釣り糸にして湧いた蛆を餌に吊り上げた魚を食べろと?」
「今までも食べてるだろう? 何を今更」
何とも言いようがない凄惨顔をする女子。
僕は何を言ってるのか分からなかった。
腹が減ったら戦はできないと言うし。
というか今まで苦渋の決断をしたような顔で今まで食べてたのに……。
何を今更と言いたい。
「両親の元に無事な姿で帰りたいでしょう?」
「……」
「食わないと持たないよ」
僕はそう言いながらカッターナイフで魚を捌く。
骨が引っかかるが仕方ないので引きちぎる。
調理中に遺体の異臭がするが気にしない。
気にしたら終わりだ。
塩を振り其れを弁当箱の蓋に載せ女子に勧める。
栄養が偏るな~~と思いながら。
魚ばかりだし。
死んだ搭乗員の何人かがサプリメントを持ってたから大丈夫と思うけど。
「有難う」
「いえいえ」
塩は下が海なので煮詰めて作りました。
生臭いが我慢して食います。
何か思い詰めた顔をしてますが知りません。
僕が生き残るのが最優先なので。
次の日。
「えへえへ」
僕の目の前で女子が投身自殺をしました。
なんでやねん。
あ~~どうしよう。
「この惨状をどう言い訳したら良いねん」
『お前が犯人に思われるなこの状況』
「元の世界に戻ったら証言してくれる人が居ない~~」
僕は項垂れた。
最近都市伝説で疑われたばかりなのに……。
この状況は僕が犯人は僕だと言わんばかりだ。
言い過ぎか。
まあ~~将来が暗いものに成るのは間違いないみたいだ。
マジか~~。
「そうでもないが」
「ゑ?」
行き成りえへえへ言ってた女子が立ち上がる。
其の儘制服のホコリを払う。
「何を馬鹿面を晒してる私だ」
「ゑ? 相棒?」
此の口調は間違いない。
相棒だ。
でも何で?
「ラジオに取り憑けるんだ廃人にも同じことが出来るのが道理だろう」
「おお」
何其の便利技能。
数カ月後。
元の世界に戻れた僕は疑われることなく日常に戻れた。
いや本当にラッキーだ。
元の日常に戻れたので。
「帰るぞ」
「お……おう」
ただ一つ親友が女子の体に頻繁に取り憑く様になったのを除いて……。
まあ~~廃人のままよりましとは思うが……。
一緒に帰るのは良い。
良いんだが……。
周りの視線が嫌何で手をつなぐのは止めて欲しいのだが……。