ねぇ、ちゃんと暮らせる?
ーーー俺の姉ちゃんが亡くなった。
今日も、明日も、来週も、来月も、来年も、ずっと同じ日常が続くと想っていた。
それが今日前触れもなく、容赦なく、唐突に終わりを迎えた。
交通事故だったそうだ。
小さな子供が車に轢かれそうだったところを姉ちゃんが子供を突き飛ばして助けたが、変わりに姉ちゃんが車に轢かれてしまったらしい。
姉ちゃんの親友である真梨恵さんが教えてくれた。
学校からの帰宅途中、隣を歩いていた姉ちゃんがいきなり走り出したから驚いたとも。
何やってんだよ姉ちゃん。
らしくない。全然らしくないよ。
いつも自分のこと優先して俺をパシらせる様な姉ちゃんなのに、なんでこういう時は自分を優先しないんだよ。
もっと自分を大事にしろよ!
葬式のお経が流れる中、俺は姉である洋子が亡くなった実感なんてこれっぽっちも持てず、涙の一滴も流すことが出来なかった。
このまま葬式が終わり、家に帰れば姉ちゃんがリビングで煎餅かじりながらソファーでだらけ、ケツでもポリポリ掻いているんじゃないかと思ってしまう。
そうあってほしい、という俺の願望なんだろうか。
「カズくん、ぐすっ、ごめんね。洋子ちゃんのすぐ近くにいたのに・・・私、ぐすっ、何も・・・出来なくて」
「ううん、そんなこと無いよ真梨恵さん。真梨恵さんはすぐに救急車呼んでくれたそうじゃない。葬式までおばさんがいろいろ手伝ってくれてとても助かったんだから」
俺の家族は母親は俺が小さい頃亡くなり、父親は今海外勤務に中だ。新種のウイルスが蔓延して騒がれる今のご時世、直ぐには帰ってこられないらしい。
電話越しに父が泣きながら悔しがっていた。
そして葬儀のこととか全く分からない俺の変わりに、真梨恵さんのお母さんがいろいろと手伝ってくれたんだ。
俺たち姉弟は昔からお世話になっていたのもあって、直ぐに駆けつけてくれた。
そうそう、姉ちゃんが助けたという子供は擦り傷程度で無事だったそうだ。
それだけは良かった・・・のかな。
姉ちゃんが命をかけて助けた命。その子には大切に生きてほしい。
「本当にウチに泊まらないの?こんな時ぐらい甘えていいのよ?」
「ありがとうございます、おばさん。・・・ですが、帰ります。俺と・・・姉ちゃんが暮らした家ですがら、大丈夫です」
おばさんがとても心配してくれている。
でも本当に今は大丈夫だ。
帰って、シャワー浴びて、眠るだけなんだから。
あ、晩飯どうしよう。・・・いや、1人だし1食くらい食べなくもいいか。
「はぁ、そうは見えないんだけれど・・・仕方ないわね。真梨恵、カズくんについていてあげなさい。今1人にするのは危なっかしいわ」
「!・・・ぐすっう、うん、そうだよ。カズくん、私も行くから・・・行くから!」
真梨恵さん、そんな覚悟しないといけないなら無理しなくても・・・。
でも、正直誰かいてくれた方が気はまぎれるかも。
「・・・うん、分かった。それじゃあ真梨恵さん、悪いんだけどお願いして、いい・・・?」
「そんな、全然悪くなんて無いからね。私だってそうしたいから・・・」
後半はよく聞こえなかったが、嫌々じゃないことは伝わってきたので俺は頷いた。
「カズくん、お腹空いてる?・・・じゃあ何か簡単に食べられるもの買っていきましょう。少しでも食べておいた方が良いでしょうから。ね?」
俺は頷き、真梨恵さんに手を引かれるまま歩きだした。
おばさんは俺たちの背中を見えなくなるまで見守っていた。
目を腫らした女の子につられて買い物をする俺はスーパーですれ違う客に変な目を向けられたのは言うまでもない。
「ごちそうさま、真梨恵さん。美味しかったです。」
「お粗末様です。本当に簡単なものだったから何だか申し訳ないけれどね」
全然そんなことはない。
元々食べないで寝ようと思っていたくらいだし。
なんだかんだ姉ちゃんが亡くなって、俺の心も不安定になってるのかな。自分じゃよく分からない。
買い物して真梨恵さんと俺の家に返ってきたけどやっぱり家には姉ちゃんはいなかった。
当然だ。そう、当たり前のことだ。
昨日までの当たり前と、今日からの当たり前は違う。
姉ちゃん、亡くなったんだもんな・・・。
「ーくん、カズくん。大丈夫?・・・ううん、大丈夫なはずないよね」
「ーーーあ、いや・・・俺は」
「今日は早めに休んだ方がいいよ。お風呂、どうする?シャワーにしておく?」
真梨恵さんだって辛いはずだ。悲しいはずだ。
目の前で親友の姉ちゃんが車に轢かれて亡くなったのだ。
葬式までもずっと泣いていた。
きっと俺たち二人を見る第三者が居たならば、どちらが辛そうかなんて一目で分かるだろう。
それでも真梨恵さんは自分のとよりも俺を優先してくれる。気遣ってくれていた。
俺は頷きシャワーを浴びてから、早々に休むために真梨恵さんに一言かけて自分の部屋に行く。
ふと、部屋に入る前に姉ちゃんの部屋を覗くが、そこは姉ちゃんが居た時のまま。
ちょっと横暴で、自分勝手でずぼらで・・・それでもやっぱり俺の姉ちゃんだった人の部屋はとても綺麗に片付いている。
あんな性格な姉なのに自分の部屋は綺麗にしていた。
漂う空気は清潔で、その中に女らしい匂いが感じられる。
そしてベッドにちょこんと座る熊のぬいぐるみは、今も主人の帰りを今か今かと心待にしていた。
前になんでいつもリビングでだらだら煎餅食べてるんだって聞いたら、『自分の部屋じゃ散らかる』とか言っていたのを思い出す。
いや、それリビングなら散らかっても良いのかよ。
掃除するの誰だよ。
『あんたでしょ』
さも当然のように言いのける姉ちゃんに、俺は溜め息を着いたものだ。
つい、ふっと笑ってしまった。
ああ、あんな姉でも、俺にとっては大切な姉ちゃんだったのか。
掃除、選択、料理に買い物、家事は全部俺がやらされていて且つ、よくパシリみたいなことまでさせられていたけど、今思えば姉ちゃんは居るだけで俺の姉ちゃんをしていたんだな。
「そっか、姉・・・だもんな」
親が家に居ない分、姉ちゃんが俺を見守っていてくれていたのか。
なんだかんだめんどくさがって出かけず家に居ることが多く、高校生になっても当然のようにいつも顔を合わせていたけれど、そういうことなのか。
まったくーーー
「らしくない・・・」
ーーーどうせなら自分のパンツくらいは自分で洗ってほしかった。
今さらだけど。
俺は姉ちゃんの部屋から自分の部屋に移動してそのままベッドに横になる。
今、20時か・・・全然眠くない。
真梨恵さんから休むように言われたけど、まだ暫くは眠れる気がしないな。
浴室からは真梨恵さんがシャワーを浴びている音が聞こえる。
真梨恵さんはよく泊まりに来ていたから常にお泊まりセットが置いてある。寝巻きやシャンプー関係、歯ブラシなどだ。
・・・あ、真梨恵さん泊まるんだから寝場所作らないとダメなんじゃないか?
ボーとしていてふと思った。
泊まりに来ていた時はいつもは姉ちゃんの部屋で寝ていたはずだけれど、さすがに今日姉ちゃんの部屋で寝て貰うのは辛いよな。
物置と化している客間で寝て貰うわけにもいかないし、やっぱリビングか。
ん?て言うか布団、有ったっけ?
俺はベッドから起き上がり、布団がないか客間に行くが見当たらない。
やっぱ無かったか・・・。
なら、真梨恵さんには申し訳ないけど俺のベッドで寝て貰うしかないかな。
俺はリビングのソファーでも眠れるし。
ドライヤーを使う音が聞こえる。
真梨恵さんももう直ぐ出てくるから、それまで念のため1度部屋片付けないと。
俺はいそいそと片付け、そしてソファーで寝るための準備をしていると、リビングにラフな寝巻き姿の真梨恵さんが入ってきた。
「カズくん・・・眠れないの?」
「あ、いや・・・うん、それもあるんだけど。真梨恵さんが眠る場所が無かったから、俺がソファー使って真梨恵さんには俺のベッドを使って貰おうかと思って・・・」
「・・・っ。そんな、いいのに。カズくん・・・」
風呂上がりの真梨恵さんは色っぽい。
元々胸も大きく、太っては居ないが肉付きが男好みする体型なのもあって、目のやり場に困る。
「ーーーうん。カズくん・・・こっち」
「えっ・・・?」
何かを決めた様子の真梨恵さんがその小さく柔らかい手を
で俺の手をとってリビングを出る。
向かう先は・・・俺の部屋だ。
「はい、カズくん。ベッドに、布団に入って」
俺は連れられるまま、言われるままベッドに入る。
すると真梨恵さんも俺に続いてベッドに入ってきた。
「え・・・真梨恵さん」
「き、今日は、カズくんに付いてるって、約束・・・したから。だから・・・ね?」
いつになく強引な真梨恵さんに俺は驚くも、その強引さは俺にとって心地好くも感じていた。
直ぐ側から香るシャンプーの匂い。女の匂いに気持ちがほぐれる。
でもそこに小さな違和感を俺は覚えた。
嫌な意味じゃなくいつもよりも、とても身近に感じる違和感。
隣から感じる暖かな体温が俺の心に寄り添う。
「・・・カズくん。」
薄暗闇の中、天井を見ながら感慨ふけっていると真梨恵さんに抱き寄せられた。
その大きくて柔らかい胸に。
真梨恵さんの暖かさ、温もり、柔らかさに香りに俺の頭は包まれた。
一瞬驚いて体に力が入ってしまったが、直ぐに力が抜けて真梨恵さんに体を預ける。
真梨恵さんに頭を抱きしめられることで俺の体は真梨恵さんに密着している。
初めてではないが、何度体験してもここまで密着していれば心臓の鼓動は早くなる。
何せ俺と真梨恵さんはーーー
「私たちのこと・・・洋子ちゃんには、秘密のままになっちゃったね。・・・付き合ってること」
ーーー恋人同士だ。
姉ちゃんには言っていなかった。
恥ずかしかったし、言えばバカにされるだろうから。
いや・・・からかわれる、かな。
「・・・うん」
だからもう少ししてから姉ちゃんには話そう、って事にしていたんだ。
けれどもその機会もなくなってしまった。
本当は姉ちゃんにも伝えて、隠すことなく付き合いたかったけれど。
真梨恵さんはそっと俺の頭を撫でてくれる。
真梨恵さんに抱きしめられると、とても心地好い。
そして・・・う、まずい。
「洋子ちゃん・・・話したら祝福してくれたかな・・・?それとも、私の弟は誰にもやらんって・・・言ったかも、しれないね」
ああ、姉ちゃんが言いそうなことだ。
悪ふざけ好きな姉ちゃんのことを親友の真梨恵さんはよく分かってる。
・・・ヤバい。
こんないい香りと、温もりに全身包まれているから体が反応してしまう。
「でも・・・でもきっと最後には洋子ちゃんのことだから笑って認めてくれると・・・ん?」
ああ、これは真梨恵さんに気づかれた。
体の一部が固くなっていることが。
俺は真梨恵さんから体を離そうとしたが、真梨恵さんがギュッと俺を抱きしめ、今まで以上に体をくっつけてきた。
「ま、真梨恵さん」
「いいの!そのままで、いいから・・・カズくん」
まだ実感しきれていないが、姉が亡くなったばかりでも俺の体はいつも通り反応する。
なんとも薄情な人間なのか・・・。
自己嫌悪に苛まれそうになりながらも俺は真梨恵さんの温もり、香り、そして息づかいに興奮してしまう。
そしてーーー
「まっーーー」
「だ、大丈夫・・・大丈夫だから。カズくんはわ、悪くないの。私が・・・私が、勝手にしているだけだからーーーね」
俺の息子に添えられる俺より小さな手。
俺より断然力は弱いはずなのに抗えない。振り払えない。
姉ちゃんが亡くなったばかりだと言うのに、俺はーーー
「こんな時に、ごめんね、よ、良くないよね。でも、でも、今のカズくんを見ていられないよ。心が、感情が出せないカズくんを。だっ、だからっ、私に出来ることなんて全然無いけれど、それでもっーーー」
真梨恵さんは俺の息子を撫でながら強く唇通しを押し付けるようにキスをしてきた。
その頬は涙に濡れている。
いつから泣いていたのか、全然気づかなかった。
そうか、そんなことも分からない程に・・・俺は周りが見えていないのか。
俺の好きな人が、俺を抱きしめて泣いているという事にすら。
葬式の時はまだ、見えていたと思ったんだけどな・・・。
「カズくん、こ、これは、私が、カズくんとしたいから・・・エッチ、したいからするの。だから、カズくんは悪くないの」
そうして俺は真梨恵さんのされるがまま、肌を重ねた。
姉の亡くなった事実が頭の中を何度も過り、それでも目の前の性欲には抗えず自己嫌悪をしながらも、必死に俺の上で腰を振る真梨恵さんに更なる興奮を覚えた。
騎乗位、正常位、バック、そしてまた正常位。
俺はいつの間にか泣きながら真梨恵さんに抱きつき、丁寧さや加減なんてお構いなしに思うまま、あふれでる感情のまま激しく腰を動かした。
「カズくんっ好きっ、大好きっ、ぜ、全部うけとめっるから、好きに、動いてっ!」
大きな胸を揉みしだき、しゃぶり、噛みつく。
唇を合わせれば舌を絡ませて唾液を啜り、流し込む。
その夜、全身全霊で俺を受け止めようとする真梨恵さんに俺は全てをぶつけたーーー
朝、目が覚めると体はダルいが気持ちはとてもスッキリしていた。
・・・真梨恵さんのおかげ、だよな。
隣を見ても真梨恵さんは居ないが、台所から音がする。
どうやらご飯を作ってくれている様だ。
なんというか、真梨恵さんには頭が上がらない・・・。
ちゃんとお礼言わないとーーー
『いゃあ、昨晩はお楽しみでしたね』
「ーーーえ?」
ふと声がして顔をあげると目が合った。
は?
え?
『それにしてもあれは激しすぎでしょ。スッゴいエグかったもん。マリが壊れるんじゃないかとハラハラしちゃった』
ニマニマと笑うその顔は見間違いようもない。
つい先日まで一緒に暮らしていた、毎日見ていた顔だ。
「なっ、ねっ。え?と、どど、ええ?」
『なにいつまでアホズラ晒してんのよ』
なんで姉ちゃんがいるんだよ!!
え?死んだんだよね?
夢?
姉ちゃんが死んだ夢を見ていた・・・?
あ、もしかして横暴な姉ちゃんが死んだ夢を見れたから気分がスッキリしていたのか?!
『ちょっと!なに失礼なこと考えてるのよ!』
うわっ!叩かれた!
と思ったらすり抜けた?!
なんじゃこりゃ?!
あ、あれ?
よく見ると姉ちゃんの姿が微かに透けているように見える。
それに・・・浮いてる?!
『はぁ、やっと気づいたか・・・この愚弟は』
「なっ、なななんだよっ、どうなってるんだよ」
『私死んだでしょ。だから透けてるのも、浮いてるのもそう言うことよ』
まるで察しの悪い愚弟を見るような目を向ける姉ちゃんに何か腹が立つ。
つーか、なんで死んだのにこんなところに、って死んだのにいつも通りの姉ちゃんだな!
もっと悲しんだりとかないのかよ!
『え~だって、ねぇ。こうして私は存在しているんだし、自由だし、ラッキー!的な?』
軽いな!!
昨日の俺や真梨恵さんの気持ちはなんだったんだよ!
俺達に謝れ!!
『はぁ?マリはともなく、なんであんたに謝らなきゃいけないのよ。寧ろあんたが頭下げなさいよ』
なんでだよ・・・。
いや、まぁ、姉ちゃんが元気・・・?そうでちょっと安心したよ。
死んでるのにな・・・。
『私は私よ。生きていても死んでいても変わらないわ』
でしょうね。
『それにあんたとはこうやって話も出来るみたいだし』
声にださなくても話せてるしな・・・。
真梨恵さんにも話しかけたけど気づかなかったって?
ーーーしかし、なんでまた姉ちゃんあんなことしたんだよ。
子供を助けようとするのはまぁスゴいことだけど、命までかけなくても良かったんじゃないか?
らしくねーよ。
『・・・あー、あれねぇ~まぁ、そういう気分だったというか?みたいな?』
あ、これ姉ちゃんが何か隠している時の仕草だ。
じ~~~っと見つめていると姉はしっかりと俺と目を合わせて離さない。
・・・絶対何か隠してやがる。
しかも後ろめたいことを。
ーーーで、本当は?
目力で圧力をかけた。
かかってるといいな。
『・・・うん、いやぁ、それがさ・・・マリとおしゃべりしながら歩いてたら近くに子供がいてさ。さらにその子供の近くに光る何かが有るじゃない。私はとっさに察知したね!あれは500円玉だっ、て!!』
・・・は?
なんの話をしているんだ?
『いやだからさ、子供の近くに500円玉が落ちているのを見つけたらさ、そりゃもう子供より先に拾わないと取られちゃうじゃない。子供はまだ気づいてなさそうだったし』
え?あ・・・はい。
『それで私が走り出したのと同時くらいに子供も500円玉に気がついた。だから私はとっさに子供を突き飛ばして500円玉を取ろうとしたら横からドーン、とね』
・・・・・・。
『いやー、あれには参ったよ。まさか車が来てるなんて思ってもいなかったから、もろに轢かれちゃうしさー。まさか500円玉で命落とすとかマジないわ。・・・まあ、そんな感じ?』
「ーーーが」
『え?なに?』
「このバカタレがぁぁぁ!!」
『うわ?!ちょっと!いきなり大きな声ださないでよ!ビックリして死んだらどうするの?!』
もう死んでるわ!!
やっぱりおまえ、俺達に謝れ!
そして察知するなら危険を察知しろ!
『はぁ?なにちゃっかり《おまえ》呼びしてんのよ。しばくよ?』
このアマ・・・全然反省してねぇ。
最初からおかしいと思ってたんだ。
あの姉ちゃんが、あの!姉ちゃんが!!子供を命がけで助けるなんて行動は。
『2回も言うなし』
はぁ、まぁいいよ。
いやよくないけど、この真実は誰にも言えないな・・・。
俺が墓まで持っていかなきゃならんやつだ。
『そうそ、あんたがしゃべらなければ分からないんだから、しっかり墓まで持っていきなさい。それまで私が背後れ・・・っと、守護霊として見守ってあげるから!感謝しなさいよ!』
はぁ?
今こいつ背後霊って言おうとしてなかったか?
そうだよ姉ちゃんが守護霊なんて高度なモノののはずないじゃんか。
何言っちゃってんのよ。
『ま、それはともかくマリとあんたが付き合っていたとはねぇ・・・知らなかったわ。知ってたら、めいいっぱいからかってやったのに』
だから言わなかったんだよ!!
『マリが私の愚弟をかぁ。前に恋バナした時はかっこ良くて、逞しくて、優しい人が好きって言ってたのにどういう心境の変化かしら・・・頭でも打った?』
色々と失礼だなこの姉は。
真梨恵さんがそう言ったのなら、きっと真梨恵さんは俺の事をその様に思って、思って・・・マジか。
あっ、あっ、何か恥ずかしくなってきた。
「カズ、くん・・・?大声が聞こえたけど、大丈夫?」
ひぇっ!
びっ吃驚した・・・。
そっと扉を開けて部屋を覗く真梨恵さん。
あっ・・・可愛い。
ほのかに顔が赤いのは照れているんだろうか。
「あっ・・・うん、大丈夫。驚かしてごめんね」
「そっか、大丈夫ならいいの。えっと、もう少しでご飯できるから・・・用意して来てね」
「うん、ありがとう真梨恵さん。あ、それと・・・おはよう」
「う、うんっ、おはようございます」
最後には笑顔を見せてまた台所に戻っていく。
可愛い・・・マジ天使。
そして俺に取り憑いている悪魔はハグしてキスしろとずっと横でジェスチャーしている。
『まったく恋人同士なら、おはようのキスくらいしなさいよ』
・・・。
『それにしてもあんたも大胆になったわねえ。これも女を知ったからなのかしら』
ん?なんの事だよ。別になにもしてないだろ?
『ええ、そうね。何もしてないわね。それどころか何も着てないんだけど』
え?
あ?
ああ?!
あああああ?!
俺スッポンポンじゃん!!なんで姉ちゃん言ってくれないんだよ!!
『そんなよ野暮ってもんでしょうが』
うわっ、あっ!だから真梨恵さん顔赤かったのか!!
マジか!!
マジ・・・かぁ。
『そうだ。カズ、あんたマリとのエッチ、ちゃんと相手の事考えてエッチしてあげなさいよ。まぁ、マリはマゾだから激しく求められるのも好きらしいけど、それでも限度があるんだからね!!』
ちょっ?!何カミングアウトしてんだよ!!
うわっ、真梨恵さんがマゾっ、マゾって・・・どんな顔して会えばいいんだ・・・。
あれこれ想像しちゃうじゃんか!!
『ふふん、まぁ精々見守る私を楽しませる事ね』
むぐぐぐぐ、ここに悪魔がいる・・・。
その親友はマジ天使なのに、なんでこの二人が親友だったんだ?
もしかしたら一番の謎かもしれない。
はぁ、まぁいいや。仕方ない。
朝からどっと疲れた気がするが俺は下着を身に付けて、適当に服を着て部屋を出る。
いいか姉さん、あんま余計なことしないでくれよ!
静かにだからな!
『さぁね~先の事は分からないわよ。あ、でも・・・あんた達のラブラブエッチはしっかりバッチリ特等席で見させて貰うから!楽しみにしてるわ!』
ちょっ!マジふざけんな!!
俺は憤慨やるせない気持ちだったが、リビングでご飯を用意してくれている真梨恵さんの笑顔を見て、癒されながらも昨晩と、朝食のお礼を・・・心からのお礼を伝えるのだった。
そんなこんなで姉ちゃんは亡くなったけど、これからも姉ちゃんと暮らす事になったようだ。
おしまい。
『それにしてもまさか、あそこで私のシャンプーを使うなんて・・・さすが私の親友』