PART4
「おい、なんもねえぞ!」
思わずそう声を上げたベイク。彼の眼前に広がっていたのは黒く焼け焦げた更地という他にない、大都市にそぐわない空間。
ガウスはこれをベイクがやったのだと告げるが、この時の記憶が欠如しているベイクにはどうにも実感がなく信じられなかった。
するとロックが焦げあとの中にしゃがみ込み、ベイクを呼びながら指で焦げた地面を示すと言った。
「ただの火災じゃなく、爆発のような現象だったんだ。見てみると分かるけど、焦げ跡やものがこう放射状に広がってるだろ?」
「ほうしゃじょう? たしかに砂を吹いたみたいな感じだけど、このほうしゃじょうってので、どうしてオレがしたって分かるんだ?」
「放射状って言うからには、ぐるっと全部の方向に向かってこの跡が残ってるんだよ」
人差し指の先についた煤を親指で擦りながら説明するロック。それを聞くベイクは腕組みをして小首を傾げながらううんと唸り、ガウスが助け船を出そうかと近付こうとしたころ、「そっか!」と腕組みを解いて顔を上げたベイクが声を出した。
「つまりたどっていけばこのほうしゃじょうの原因にたどりつくんだな? ぐるっと全部の方向に伸びてんなら、中心があるはずだもんな! アリジゴクみたいなもんかっ」
そのときベイクの脳裏に浮かんでいたのは“骸骨村”にある家々の床下。乾いた砂があり、そこに潜り込んで遊ぶときにいつも目にしていた、虫が作ったすり鉢状の狩り場であった。
「んで、そのアリジゴクの中心に大将はいたんだよ」
謎が解けて晴れやかな表情でいるベイクの両肩に手を置いて顔を覗き込んだガウスが、それからさらに付け加える様に告げる。
「……まるで無傷でな」
それを聞いて、ベイクは自らの両腕に視線を向ける。
「なんだか夢でも見てたみたいだって思ったのは、あんなバカ強えヤツと殴り合って、たしかに手足を動かなくされてめちゃくちゃ痛かったはずなのに、血だってすげえ出てたのに、今はもうぜんぜんケガなんか一つもなかったからだ。ジジイが竜人とかはケガの治りが早いって言ってたけど、葉っぱで切ったワケじゃあるまいし、二日やそこらで治っちまうケガなんかじゃなかった」
それが最大の謎なんだよなぁ――ベイクの話を聞いて、複雑そうな笑みを浮かべたガウスが広大な更地へと向けて言った。
ベイクの力が炎と、それに伴う爆発だからこの破壊的現象は理解することもできる。しかしあのとき、爆心地で意識を失くし倒れていたベイクが無傷だったことが説明出来ない。
その前の戦いでも力の制御に難儀しているベイクは自らの爆炎で負傷していた。あれだけの規模の爆発となれば、そんな彼への被害も相当なものになるはずなのに。
だと言うのにレゲイルとの戦いの傷すら癒えてしまっている。
あのとき、爆発の中心で何があったのか知る者はもうこの世には存在しない。ベイクも結局なにも思い出さなかった。
ガウスは仕方ないと頭を掻いて、次の問題へとその意識を切り替える。




