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PART10

 殺陣のテーマが無いのが惜しいな――などと考えながら、ロックの右手により刃金《はがね》が舞い踊り、津波のように押し寄せてくる黒服たちが次々に倒れてゆく。


 鼻歌で欲した曲を奏でながら、刀の凡そ半分程度の長さを持つ“短刀”で襲いかかる黒服を事も無げに斬り伏せてゆくロックに緊張感は無い。


 理由は簡単だった。


「ちっ、“式神《シキガミ》”じゃ敵わんか」


 ロックが居る一階を、二階より見下すのは白服を着たゼン。

 彼はロックの一騎当千ぶりを見て歯噛みをする。彼の手には人を象った紙切れが束で握られている。


 ゼンは手にした“人形《ひとがた》”を一階へと放り投げる。すると紙切れは瞬く間に黒服へと姿を変えて、彼ら上空からロックを強襲した。


「キリがないな……」


 しかしロックは上を向きすらせず、文字通り降り掛かった刃を刀で弾き、返す刀で黒服を両断。

 その隙に正面からくる黒服を鞘を使い、顎部を穿いて破壊する。


 黒服たちは“式神”と呼ばれる“異界”の魔術により生み出された、ゴーレムなどの一種である。


 ロックが緊張感を持たない……いや、持てないのはこれに起因しており、彼の刀に切り裂かれた黒服は血の一滴も流さなければ悲鳴すら上げず、地に伏せれば元の紙切れに戻るだけ。


 命のやり取りには到底及ばない。

 まるで不毛だと、ロックは一対多という圧倒的不利に思える戦いの最中で憂鬱な溜め息すら吐いてみせる。


「いい加減、出てきてくれないか。こんなのいくらやっつけたところで無意味だ。面白くもないし、アガらない」


 突如として太鼓橋のただ中で両手を下げ、迫りくる黒服たちの凶刃を甘んじて受け入れたロック。


 しかし彼は無数の刃の切っ先に苛まれたまま、上を向き何処かにいるであろう式神の主――つまりゼンへと呼び掛けた。


「……」


 だが当然返事は無い。

 ロックはまた一つ溜め息を吐いて、それから……


「邪魔だ」


 彼に刃を突き立て、完全に包囲していた黒服たちがことごとく吹き飛ばされ、加えてその体は中程から両断されていた。


 既に刀を鞘へと収めているロックであるが、彼はやはりこの一瞬の内に周囲を一薙ぎしていたのだ。


 傍から見ている“酔之宮”の客らの目にはロックが僅かに唇を動かしたことしか分からなかったことだろう。それほどの迅速。あいや神速とも呼べるであろう太刀筋であった。


 大量の式神が破壊され、舞い散る紙吹雪の中、吹き抜けを見上げたロックが勢い良く上昇。


 彼の跳躍力たるやまさしく超人的であり、一跳ねで四メートル以上ある二階に到達し、その様子を逃げ惑っていた客たちは足を止めて見入ってしまっていた。


 そしてそれはゼンも同様。

 特に彼はロックと目が合ってしまい、愕然として口をあんぐり開き、手からは人形を零してしまう。


 見つけた――ロックが笑みをたたえ呟く。

 ゼンが何かしようとスーツの懐に手を突っ込むのと、ロックが左手から鉤縄を放り投げるのが同時であり、ゼンの傍らにある円柱に鉤縄が固定されロックが彼の元へと飛んでゆく。


「クソッ――」

「トロいっ」


 ロックの方が一拍子遅れたかに思われたが、ゼンが懐から“赤い札”を取り出したところで刃金が煌めいた。


「ッ――!?」


 “赤い札”を掴んだゼンの右腕が肘辺りから分離し、鮮血が舞い散る。その光景に息を呑むゼン。


 飛び散った血の雫の中を突っ切って二階に着地したロックが二の太刀を振るわんとして、甲高い銃声が空気を震わせた。


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