PART8
クラリスは広く、そして複雑だ――と白髪の男はレアへと言う。確かにこれだけ物や人が雑然としていれば右も左も分からなくなるのも頷けるとレアは納得した。
「で、オジさんたちの家に行けばガウスが見つかるんだ?」
「応さ、人でも物でもなんでも見つかる。お嬢ちゃん次第だがな」
白スーツ数名と黒スーツ数名の一団はレアとともに食事を済ませると彼女から事情を聞き、捜し人であるガウスの捜索に強力するという。
竜人であることも気付かれておらず、親切にもしてくれる彼らを空腹を満たした満足感もあってレアはすっかり信用し、言われるがままに彼らの邸宅へと向かう運びになっていた。
「しっかしその歳で旅してるたぁなぁ」
「そういやゼン、テメェ、旅人ってぇのに憧れあったんだよな」
「その話は勘弁してくれよオヤジ……」
「テメェから蒸し返したんじゃねえか」
わはははと笑い声を上げて進む一団を人々は次々に避けてゆく。その様子はさながら逆流を強引に進む船のようだ。
ふとレアが避けた人の顔に気が付く。一団を見るその人の表情は忌々しげに歪んでいたが、それもすぐに逸して隠してしまう。
なんだろうと疑問を懐けども解明できないレアであったが、その後しばらくして一団の行進が止まった。
「わぁ……おっき〜」
そこは家というよりも商店……何ならば“伝々亭”を二回りも三回りも大きくしたような旅館だった。
様式も“和式”に近く、漆黒と朱色と金色に彩られたそれは威風堂々としていて、それでいて荘厳さも感じられる。
特に建物の随所に掛けられた提灯の灯りに照らされた朱色は妖しく輝き、荘厳さとともに神秘すらも醸し出す。
「デカいだろぉ。コレが儂の城――“酔之宮”よ」
到着するや黒スーツたちが動き出し、何処からか増員もあって“酔之宮”の真正面、堀を渡るために架けられた太鼓橋から正門まで向かい合って整列した。
白髪の男は彼らに一瞥もやることなく、己の城という“酔之宮”の前に立つと両腕を掲げ、声高々にレアへと「いらっしゃあい」と告げるのだった。
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「あれは“龍宮”の分家だな。そういえばここにも在るとか言っていたか?」
「はい、“帝都”の情報局で要警戒と」
「クソ貴族どもの嫉妬か……」
それで――レアたちが“酔之宮”へと消えたのち、姿を見せたゴルドンとエルフの女は互いの問答を終えると揃って振り返って声を掛けた。いたのはロックだった。
道中買ったらしいホットドッグ“もどき”にかじりついていた彼はゴルドンら二人から声を掛けられ、不思議そうな顔をする。
ゴルドンは鼻を鳴らし、垂れ下がった前髪を手で撫でる。するとエルフの女が言った。
「貴方はなぜついてくるのですか」
「あそこに用があるからだが?」
当たり前の事を訊くなというようなとぼけた顔をするロック。ゴルドンは彼その受け答えを見て異邦人のようだと思った。
「ついてくるのは勝手だが、私らはなにも遊びに行くわけじゃあないし、かといって話し合いに行くわけでもない」
埒が明かないと観念したゴルドンがやむなしと口を開く。するとホットドッグ“もどき”を食し終えたロックは指先に付いたソースを舐め取りながら一人歩み出す。
彼を目で追うゴルドンとエルフの女へと、ロックは言った。
「それは俺も一緒だし、あんたたちについてくつもりもないよ」
ふぅん――ゴルドンが相づちを打ち、口許を不敵な笑みに歪めた。彼の目はロックの腰に下がった刀へと注がれている。
その刀にロックの手が添えられた。
「あんたらも気をつけた方が良いよ」
言ってゴルドンの方を見たロックが微笑んだ。
彼の言葉は明らかな警告だったが、ゴルドンは笑みを浮かべたまま肩を竦めるばかり。エルフの女も特に何か反応を見せてはいなかった。
遂には一人で“酔之宮”へと行ってしまうロックを二人は追わず、エルフの女の女がゴルドンへ「良いのですか」と問うと、ゴルドンはまた肩を竦めるのだった。
「気をつけろなんて言われたらな……」
別の用事を思い出したし――そう言ってゴルドンが“酔之宮”とは逆の方角に歩き出す。エルフの女も無言でついて行くのだった。




