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PART6

 魔狼の根城はどうやら街から少し離れた場所にそびえる岩山のようであった。小さな森林の中にある小高い程度の岩山だ。

 そう言った岩山は幾つかあって、魔狼たちはそれらを転々として姿を隠していたのだ。

 ベイクとレアの二体は敗走させた魔狼を追跡し、現在住処となっている岩山を特定。林の中に身を潜め、ベイクが監視につきレアはガウスらと合流して場所を知らせるべく引き返した。


「敵は“竜狩り”だけじゃねえ……か」


 “魔物”と遭遇して覚え得た感覚。それは“天敵”だった。

 “竜狩り”は確かに非道で竜人の平穏を脅かす存在ではあるが人間だった。ベイクは彼らを敵と認識しつつも、“魔物”のように天敵とまでは思えず忌避もしていなかった。

 敗走した魔狼たちが入り込んでいった岩山を見詰めながら、ベイクが考えていたのは“本当の敵”についてだった。本当は人間も竜人も手と手を取り合い、“魔物”と云う“本当の敵”と力を合わせて戦わなければならないのではないのだろうかと。


 捕らわれた村の皆を救い出すことはもちろん、“竜狩り”を叩きのめさなければ気が済まない。“夢”とて諦めるつもりもない。

 しかしそれらを成し遂げたとしても“魔物”と云う存在を野放しにしておけば取り返しのつかないことになりそうに思えて、林の中から移動し樹木に登って枝の上から岩山を眺めていたベイクは手を添えていた幹に指をめり込ませた。

 すると星の瞬く夜空へと岩山の向こうから閃光が打ち上げられた。包囲網が完成した合図だった。


「狼の群れは頭をぶっ潰すのさ」


 “魔物”の撃滅に遠慮は要らない。ベイクはただ自らの内にある闘争本能のままに枝の上より飛び出して、そして決して低いところにはなかった地面に無事着地すると岩山へと駆け出す。

 根城には必ず出入り口が二つある。巣に籠もる獲物を追い出すにはまず出入り口の一つを燃やしてやれば良い。火はあらゆるものを恐怖させる。

 そうして出口となったもう一つから出てきた獲物を待ち構えていた狩人が一網打尽にする。


 ガウスが立案したこの作戦はベイクとレアでも理解できるほど単純であった。そして二つの出入り口の内、一つを塞ぐ役割をあてがわれたのはベイクだった。

 彼は魔狼たちが逃げ帰った洞穴へと駆け上がると、暗闇がぽっかりと口を開けるそこに向け、腹部が膨らむほどに溜め込んだ火炎を口腔から噴射した。

 すると静まり返り闇夜の中に沈んでいた岩山の各所が橙色の光を放ち、間もなくそれらからベイクが吹き込んだ火炎が噴き出し始める。出入り口にはなりえないが、給気口となっていた山を成す岩たちに出来た隙間だ。


 腹が萎み、肺から酸素が無くなるまでのしばらく、ベイクは火炎を吐き出し続けた。空っぽになり火炎が途切れて、苦しさに耐えきれずベイクが酸素を補給し始めたときであった。

 岩山内部を満たしているであろう火炎がちらつく洞穴から飛び出してきた何かに彼の体が突き飛ばされた。


「ごぁっ!?」


 炎に向かってくる生物など虫くらいのものである。予想し得ない事態にベイクに動揺が広がった。

 尋常ならざる力で突き飛ばされたベイクの体は岩山を離れて宙空に放り出され、そのままでは墜落し岩肌に叩きつけられてしまう。

 そうなる前に手を打たねばならない。ベイクは全身の可動域を可能な限り使い、なんとか体の前後と天地を入れ替える。そして迫る地面に向けて再び火炎を噴いた。


 すると発生した上昇気流がベイクを煽り、落下速度が低下。彼の両足が岩肌を突き、衝撃を足首と膝、そして股関節が緩衝する。

 だがそれだけでは不十分であり、やむなくベイクは自ら転倒し受け身を駆使して斜面を転がり降りてゆく。

 突き出た岩が体を打ちのめし、ざらついた岩肌が手足以外の皮膚を破く。それでも頭部だけは庇いきり、岩山の麓まで大怪我なく辿り着いたベイク。


 おもむろに起き上がった彼の姿は偽装された人のものではなくなり、手足を肥大化させ鱗を纏った、赤髪で黄金の瞳を持った竜人としての姿に回帰していた。

 滑落の際に腕に付けた魔導器を紛失したらしい。

 そんな彼の、闇夜に際し縦長の裂け目状から拡大して丸くなった瞳孔が捉えたものは、それは魔狼――


「テメェ……」


 ――などではなかった。

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