PART1
すっかり疲れていたらしいベイクとレアの二体は早起きの習慣も忘れ、大陽が真上に昇るまで眠りこけていた。
さほど大きくもないベッドに二人して転がる二体。眠りについたときにはしっかり着ていたはずのバスローブもすっかりはだけ、ベイクもベイクを枕にして横向きなって寝ているレアも結局は裸。竜人かつ気候が温かな今の季節でなければ風を引いてしまうだろう。
だが幸いにも二体は竜人。しかもベイクは火の属性にある竜の血筋で、その体温は常に高いと来て彼を枕にするレアも温々。寒さとは無縁であった。
やがて二体の内、先に目を覚ましたのはレアだった。彼女の豊富なまつげを蓄えた双眸がゆったりと開かれ七色の瞳が露わになり、視界にはふわふわ回る天井の羽がぼやけて映っていた。
むくりと華奢な体がベイクの上から起き上がり、あくびののち鉤爪のある指で器用に目を擦る。それからしばらく呆然としていたレアであったが、彼女の耳が外から聞こえてくる幾つもの声を拾い、その声に釣られてベッドを下りたレアはそのまま窓辺までふらふら歩み寄ってゆく。
そして閉ざされたカーテンと窓を開け、そこからレアが顔を覗かせると、下の方に人集りが出来ていて賑わっていた。
「魔導器、忘れてんぞ」
それを眺めているレアの髪が突如黒く染まり、肌も小麦色に変色。瞳の色も七色を失い黒色に変わった。
窓の外から再び室内へと目を向けたレアはそこで見つけたあくびをして寝癖のついた頭を掻いているベイクだった。
彼の姿もレア同様に魔導器の作用で髪は赤から栗色、瞳は金色から赤茶色に変わっていた。
「おはよっ、ベイクったら寝癖なんかつけちゃってだらしないんだから。わたしが直してあ・げ……むぎゅっ」
「起き抜けにやかましいんだよ」
すぐに振り返りでれりと笑ったレアがベイクに触れにゆこうとするが、すかさずベイクは彼女の顔面に手のひらを押し付け、そのまま「かわいくな〜い〜」と文句を言うレアを押し退けながら窓辺へと歩み寄って外を見た。
「なにやってんだ?」
「しらなーい」
「ガウスだよな、あれ……」
ベイクの手と格闘しているレアも分からないと来て、なら見に行ってみるかと思い立ったベイク。しかし服が無い事に気付く。
裸で過ごす骸骨村の出身であるベイクは裸でいることや裸を見られることになんら抵抗は覚えない。これはレアも同様。しかしガウスからはそれではダメだと念入りに注意されていたので、このままでは外に出ることが出来ないと困ってしまう。
するとベイクの手との格闘を止めていつの間にかベッドの方へと移動していたレアが何かを持ってきた。紙袋のようだった。
「コレなんだろ?」
「……オレたちの服だ」
「わあっ、ぴかぴかっ」
食べものでも入ってるのだろうかとベイクが中身を引っ張り出すと、入っていたのはベイクのズボンとレアの貫頭衣だった。
食べものではないことに少々の落胆をしつつも、泥に埃にと汚れきっていた服の見違えるような綺麗さにレアは満悦な様子。ベイクも自らの膝丈のズボンに開いていた穴が塞がっていることに気付き感嘆を上げた。
これで外に出てゆくことが出来る。ベイクとレアはさっそく着替えを済ませた。ベイクは無地の薄茶色をしたズボンを足の鉤爪で引っ掻かぬように穿き、幾何学柄のポンチョで裸の上半身を覆い隠す。レアは白い貫頭衣にその名の通り頭を通し、垂れる前後の布を腰のところで象形文字が縫われた帯で締める。
よしっ――と声を合わせた二体。彼らは急ぎ足で部屋を飛び出して行くのだった。