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PART5

 “竜狩り”の襲撃を経て、ゴルドンから逃れるべく激流渦巻く渓流へと身を投げたベイクとレアは流浪という武芸者のガウスによって救われた。

 ガウスの人柄もあって休むことができた二体。しかし彼らは追われる身である。その朝はまだ夜も開けきらぬ早いものだった。


「獣の目を借りる魔術ねぇ。厄介だなぁ。そりゃエルフの魔術だぜ」

「エルフって、森人?」

「そーそー、連中の魔術は俺ら人間のより巧みだからな」

「あの白いヤツ、森人だったのか。どうして“竜狩り”なんかの手伝いしてんだよ。奴らだって人間にいじめられてたんだろ」

「昔は、な。今は人間の保護下でそれなりに好きに暮らしてんだ。“竜狩り”にだってエルフはいるし、なんなら部隊もあるくらいだからな」


 美男美女の部隊ってんでユーメーなのサ――追跡を逃れるべく川下付近から離れるように移動する一行。逃走にあたって驚異となる白ずくめの魔術について説明すると、その正体についてガウスが語った。

 またエルフ、森人とも呼ばれるその種族の現状についてもざっくりとはしていたが何も知らない二体へ彼は解説。いきり立つベイクをなだめながら、“竜狩り”の権威も決して無敵ではないとガウスはさらに語る。


「確かに“帝国”が治めるこの“第一大陸”じゃ“竜狩り”もデカい顔してられっけど、“第二大陸”じゃ活動はむしろご法度だ。しかも“竜狩り”は“皇帝”に認可こそされてるが、“皇帝”の威光をかざすことまでは許されてねんだぜ。あくまで貴族連中が運用してる私兵部隊に過ぎないのサ」


 つまり――とガウスは一旦言葉を区切り、理解が追い付かず呆然と口を半開きにさせているベイクとレアに結論を述べる。


「“竜狩り”を支持してない貴族サマの領地に入れば隠れることが出来る。許可を得ねぇと“竜狩り”みたいな武装集団は入れないからな。そんで上手いこと“第二大陸”に渡れりゃ勝ちってワケよ。オッケー?」


 オッケーと二体は復唱したが、おそらくは本当に最後の勝ちという言葉くらいしか分かっていないことだろう。

 ガウスはとりあえずそれで良しとして、まだ暗さの残る空を見上げた。二体は随分と流されていてガウスが引き揚げた地点が山の麓だったから、そこから移動すると空はすぐに森の枝葉たちから開放された。空に鳥の姿は無い。


「鳥は目が良いからな……」


 面白くなさそうに、唸るような声でベイクが言った。そんな彼の頭を突如襲うガウスの右手。思わず身を屈めてしまうベイクを追い掛けて、ガウスは彼の頭を髪をくしゃくしゃにしながら撫でた。


「心配すんなって、大将。おたくら運が良いんだからサ」

「どういうことだよっ!?」

「俺のやった魔導器だよ。もう忘れちゃったか〜?」


 そして固まるベイクとレア。魔導器とはもらったアームレットのことであるが、これが何だったか分かっていないような顔をしている。

 もちろん冗談のつもりで言ったガウスもこれには愕然とする他なく、ベイクの頭から手を退けるとまるで「あちゃあ」とでも言いたげに手のひらで顔を覆うのだった。


「姿を変えられるって言ったっしょ……?」

「ああっ!!」


 思い出したとばかりにベイクとレアの二体から同時に声が上がり、困惑していた表情も小骨が喉から取れたように爽やかであった。ガウスは呆れ果てたというより疲れ果てたようなやつれた苦笑をしてうなだれてしまう。


「手足だけじゃなくて肌や髪の色とかも変えとこう。そうすりゃ獣の目で見たくらいじゃバレたりしないサ」

「どうやるの?」

「与える魔力の量を増やせばオッケーよん。っても設定してやれば魔導器が勝手に必要な分を取り出すんだけどね」


 ちょっち貸してみ――ガウスがいうのでベイクとレアは二体して魔導器の嵌められた右腕を差し出す。ガウスが魔導器にある紫色の宝石に指先で触れると、彼の指先と宝石とかかすかな光を放つ。そして少しして光が消えた。


「レアちゃんオッケー。次、大将ね」

「もうかよ? そんなんでなにが――ッッ!?」


 あまりにもあっさりしていたので疑問を感じたベイクがやって来るガウスに問いつつ、レアへと横目をやる。だが彼は一瞬肩を震わせて、一度はガウスへと戻した視線を再びレアへと戻した。そこには黒い瞳と黒い髪をした小麦色の肌の誰かがいた。

 思わず「誰だテメェ」と叫んでしまったベイクにその人物は「誰って、レアだけど。あ・な・た・の、レアですけどっ」とにこやかに怒りながら両手の親指をベイクの口に突っ込み、口角を左右に引っ張った。

 見えなくなっている鉤爪が頬の内側に食い込む痛みにベイクが悲鳴を上げる。ガウスが仲裁してようやくベイクはレアの拷問から開放された。


「よく分かった……」

「まっ、そーゆーことです。二人とも、ちゃんと互いの新しい見た目を覚えとけよ?」


 はーいと二体は素直な返事をガウスへとして、まもなくしてベイクも髪の色が栗色に変わり、瞳も赤茶色に変わった。

 二体の変身を見届けたガウスはよしと一息。そして言う。


「目指すはクラリス。踊りと酒の街っ!」


 ぐっと両手に拳を握りしめ、力強く宣言したガウスに、ベイクとレアの二体は見慣れない互いの顔を見合わせるのだった。

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