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PART2

「わたしたちどうなったの?」


 香辛料を使った香ばしい鹿肉を食べ、水を飲んで回復したレアがそうベイクに訊ねると骨を囓っていた彼は男を見て言った。


「ガウスが助けてくれた……みたいだぜ」

「がうす~?」

「俺、俺。ガウスって俺よん」


 ベイクの返答に小首を傾げるレアだったが、そんな彼女に件のガウスが自らに親指を指して細くをした。男のことだった。


「おたくら二人がどんぶらこってな感じで流れてきたから釣り上げたんだよ。どっちも死にかけてたんだ、感謝してくれよ?」


 酒で出来上がっている様子はないが、陽気で軽快。調子の良いガウスの口振りは何処か油断し難く、隣で骨を口に詰め込もうと試みている無防備なベイクと違いレアは怪訝な表情を作った。


「……“竜狩り”?」

「違う……っても信じないっしょ? でも、違う」

「じゃあ、だれ?」

「ガウスだろ」

「ベイクは黙ってて!」


 ごりごりと骨をかむ音を響かせながらレアとガウスの問答に水を差したベイクをレアがすかさずたしなめる。ベイクは小さく舌打ちをするとそっぽを向いてしまう。

 その様子を見てけらけらと笑ったガウスは彼女に答えた。


「ただのガウス。色んなとこ旅して腕前で路銀を稼ぐ気の良いあんちゃんさ。だからさぁ、そう怖い顔しないでよ。かわいい顔が台無しだぜ? あとフツーに怖いから」

「……」


 ガウスの言葉はいうなれば軽薄だった。本気なのか冗談なのか、そのせいでまるで判別がつかない。彼の言葉を信じるべきか否か、レアは訝しむが救われたことは間違いではない。

 骨に付着した残りの肉塊にかじりつき引き剥がす。しっかり噛んでから喉へと送る。そうしながらしばし彼女は思案して、ちらとベイクを尻目に見た後、分かったと告げた。


「なんで助けた?」

「あん?」

「おまえにオレたちを助ける理由、ねえだろ」


 僅かに降りた沈黙を突いて、今度はベイクがガウスへと問う。ガウスは「質問責めだね〜」と茶化すが、面白くないと二体の冷ややかな視線を受けて苦笑する。そして応えた。


「ま、な……。けど、見捨てたら寝覚め悪ぃだろ? 例え死んでようとなんだろうとな。俺は美味い酒が飲みたいんだ」

「味なんか変わらないだろ」

「変わるよ。変わるって。だってほら、良いことすると良い気分になるだろ。良い気分のときだとさ……そうだな、酒だけじゃねえ、食べものだって美味くなる。食べたとき、美味いって言いたくなる。でもヤな感じがしてるときはそうはならないじゃん? おたくら、俺が味付けした鹿肉を食べても美味いって言わなかったろ。でも不味かったわけじゃない」


 そういうことさ――ガウスは瓶の注ぎ口を咥えて中身の酒を仰いだ。そして喉を揺らした後、瓶を口から離すと「くぁ~っ、美味いねぇ」とこれ見よがしな感嘆を溢した。

 ベイクとレアは顔を見合わせて、鹿肉を食べたときのことを思い返した。確かに香辛料が使われた肉は思い返せば美味しかったが、そのときはそう感じも思いもしなかった。


「……おたくらさ、これからどーすんの?」

「え……あぁ……えっと……」


 “竜狩り”襲撃のことを思い出し、揃ってうつむく二体を見て微笑を浮かべたまま鼻で溜め息を吐いたガウス。彼は肩を竦めて、それから藪から棒にも訊ねた。そのことにもちろん戸惑ったレアは答えに窮した。ベイクも同じだった。

 するとガウスはよしと片手で己の膝を叩き、飲みかけの酒瓶を二体へと向けて差し出すと言うのだった。


「んじゃ俺っちとさ、一緒にくっかい?」


 ガウスの提案にベイクとレアの視線が彼に集中して、すぐに二体が見合う。そんな二体にガウスは得意そうにウインクした。

 ガウスが飛ばした星を受けながら彼を見た二体は同時に言う。


「……どーゆーこと?」

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