第18 諭吉乱行
スカートの長さにも個性が出る。
この高校はそこまで校則が厳しくはないので、俺は様々なスカートの
長さを楽しむことができる。
これは、短ければ良い といった単純な問題ではない。
個別具体的な検討を要する問題である。
階段は絶好の機会となる。
なるべく自然に視線を上げるが、やはり気付かれているのだろうか。
しかしこちらにとって、下着はあくまで到達点の一つである。
二本の脚が織りなす下半身全体を楽しめる訳だから、見上げた時点で
勝ったも同然である。
クラスの人の、その長さも多様だ。
隣の席は割と長めである。
その事実は一種の安心感を与えるが、同時に不安も秘めている。
2007年に、著名な社会風俗学者であるアンドティヌス・ルマンコフは
スカートの長さは処女膜の厚さに比例するという
限界貞操逓減の法則を発見したとされているが、その検証は
未だになされていない。
是非とも、検証してみたいものである。
このクラスで一番短い人も、ほぼ確定してきた。
名前は知らないが、いかにもヤっているという感じである。
おそらく自分の親と、そう年の違わない紳士たちから
諭吉を巻き上げているのではなかろうか。
軽く土下座をすれば、一発ヤらせてくれそうだ。
教室におけるYの席の反対側に、一つのグループがあった。
「あはははぁ」
「でさ、私のつれがさぁ」
「…ふぅーん…」
つまらん。本当につまらん。
高校に入っても、たいして今までと変わりはない。
なんだか知らないけど、私はこのグループの中心みたいに
なっている。
なんなのこいつら。
一人は似合わねーのに髪染めてるし、もう一人は意味もなく
ネイルしている。
ブスのおしゃれほど、むだなものはないだろ。
まぁあ、現実は非情だ。
私は容姿が良いから、クラスでの位置もずっと上位だったし
そこそこ勉強もできる。
だからこそ、自分より優れた存在に、へらへらすることなんて
考えられない。
それに冴えないやつと話すときの、相手の卑屈な作り笑いが
とても気になる。
私的には、人間は、人と話すとき、相手が自分より上か下か を
瞬時に判断していると思う。
あの、こびへつらう感じが嫌いだ。特に異性の。
「そりゃねーわぁ…ん? どしたん?」
「…あ、なんでもない。別に」
今話しかけてきたやつは、勘違い野郎だ。
カスみたいな顔したチビのくせに、ワックスなんか
使ってんじゃねーよ。
こいつ、自分のこと、クラスで上位だとか思ってんのか。
バカじゃねーーのほんと。
ふと窓の方を、気晴らしも兼ねて眺めてみる。
そしたら、あのクラスメイトが目に入る。
そんな私だけど、じつは気になっているやつがいる。
Y、という男子だ。
こいつは、そこまで顔は悪くない、いやむしろって感じだし
背もこのクラスで一番高い。
けど、なんかヤバい。普通じゃない。
自己紹介は体操みたいな体勢だったし、授業中もぶっ飛んだ
やり取りを、先生どもと繰り広げている。
要するに、ただクラスで浮いている残念なやつとは
一味も二味も違うのだ。
私は、関係ですらない人間関係には、ウンザリしている。
でも、こういう、人間関係なんてクソだ みたいなやつには
興味をもってしまう。
一度直接話してみたい …なんて思っている。マジで
彼女は既にある方法を考えていた。
要するに、クラスの中心的位置にいる存在が、絶賛浮遊中の
生徒と接触すること自体、ある意味クラスの地殻変動を
もたらす可能性があるのだ。
彼女はそれを踏まえた上で、自然なYとの接触方法を考え
それを実行に移すことにした。
「…ねぇ、なんかあつくない?」
「ぅん? そうでもねーけど…」
ノリも悪い野郎だ。 くたばれ。
「さゆきはどう? あつくない?」
「ぇえ?! あーーたしかに暑いかも…」
こいつが、私に逆らえるわけがない。
「じゃあさ、私、窓開けてくる。」
そして彼女は、例のクラスメイトに接近していく。
彼女は、無意識のうちに、若干緊張していた。
第一声は当たり障りのないものである必要がある。
「あーごめん。窓、開けてもいい?」
「…のわ? ああ、ご自由に。」
近くで見るとなおさら異様だ。まったく表情が変わらない。
冴えないやつだと、私が少し話しかけるだけで、
それなりの動揺を見せるのに。なにこいつ。
もう少し、探ってみよう。
「あははっ Y君…だよね? 話すの初めてだね。」
「…あーーー 俺も知らんわ。」
まさかとは思うが、私の名前も覚えていないのか。
いや、さすがにそれはないでしょ。
もう少し押してみるか。
「いやさぁ、Y君ってなんつーか、キャラ濃いじゃん?
いつも面白いよねー」
「……キャラ?」
「うんそう。てんねん、的な感じ…かな?」
「キャラとか言われた時点で試合投了だよな」
「…え?」
思わぬYの発言に、彼女は停止する。
「……キャラとか言われたこと、ないでしょそっちは」
「……ぁ」
「…あ、窓はこっちで閉めとくんで」
「……あ…ありがと…。」
そして私は自分の席に戻る。 くだらんグループの中の席だ。
想像以上だった。あの無表情さ ヤバすぎる。
おまけになんかドキドキしてしまった。なんか悔しい。
でもあいつ、面白い。
一方で、Yは思わぬ来客について分析していた。
例の一番スカートが短い女子から声を掛けられた。
DT狩りでも実施中なのか。 あるいは欲求不満か。
なんにせよ、ダメもとで土下座してみても良かったかもしれない。
諭吉1枚ぐらいで、お願いできないだろうか。
短いスカート女とYのやり取りを、Yの隣の席が
何とも言えない表情で気にしていたことを
このだいぶアレなYが気付くはずが無かった。
彼女が意を決して開けた窓から、風が入る。