第13 茶髪野郎
最近、隣とあまり会話していない。
倦怠期か、はたまた3年目の浮気か。
色々と愛想をつかされてしまったのかもしれない。
と思っていると、隣から声を掛けられる。
隣は何だかもじもじしている。
まるでメルヘンの国のお天気の神様のようだ。
「…あのさ ぇっとさ、Y君、最近、お弁当じゃないよね」
「え? ああ…」
「ぁっと… そのさ、この前、結構すごいお弁当、
…食べていたよね?」
「あ、うーーん やっぱあれは 不幸な事故というか…
二段階で右折しなかったというか…」
「……じゃあさ、お弁当、つくってくれる人、
今はいない…って感じかな…?」
「あー …探せばいるかも…いやおらんわ」
「ぅふふふっ やっぱ面白いね、Y君。」
だいぶアレなこの作品らしからぬ甘酸っぱいやり取りがなされている。
路線変更だろうか。
しかし何となく嬉しそうになった小柄な生徒と、相変わらず無表情である
だいぶアレな主人公の間の会話は、あっさりと終わる。
「ぉう るーこ、ちょっといいか?」
「あ、宮原先輩。 どうしたんですか?」
隣がおそらく部活の先輩であろう人と話し始めた。
個人的には、自分のクラスではない教室に、物怖じすることなく
入り込めるかどうかが、その人のレベル的なものを示していると思う。
隣は吹奏楽に入ったようだ。
このロリも、色々と軽い先輩と交じり合って、あっさりと膜を散らして
しまったのだろうか。
先輩にやられるというのも、なかなか考察のしがいがある
シチュエーションであるだろう。
いわゆるNTRだろうか。 いや、そもそも寝ていないが。
別にこのロリを犯すことに然したる抵抗はないが、きちんと自分のモノが
反応できるか、やや心配である。
やはり、ロリコンへの道は一日では成らない。
そういえばこの隣は、夜な夜な汚いオッサンを相手にしているのだった。
なら、軽い先輩の一人や二人、訳ないだろう。
口に出したら犯罪レベルのことを考えているYの席にも
来客が訪れる。
「よおーーー Y! 元気かーー 」
「ぉあ? なんだあんたか」
「つめてーなマジで あー悪いんだけど、数学のノート貸してくんない?」
「…ああ いいよ別に」
「あんがとー じゃついでに教科書もいーかんじ?」
「忘れすぎだろ ほら、早く返せよ」
「ほんま助かるわー んじゃすぐ返すから サンキュー!」
「…」
あっという間に数学の教科書とノートを持っていかれてしまった。
今俺の席にきた茶髪野郎は、俺と同じ部活のやつだ。
世渡り上手ってタイプの男だ。
テキトーをやっているように見せかけて、緻密な計算をしていやがる。
今俺の席に来たのも、俺が比較的数学を得意としていることを
知った上でやっているに違いない。
さらにろくに練習もせずに、俺より良いタイムを叩き出すのだから
大したものである。
おそらく真面目な若妻をNTってしまう側の人間だ。
若干妬ましい気もするが、少なくとも俺にはできないことができるので
その点については納得である。
Yのクラスにも、数学の時間が訪れる。
あの茶髪野郎。 遅い。
ノートと教科書が返ってこない。
たしか、次の数学では、宿題が出ていたはずだ。
あてられたらマズい。
あたらなければどうということはない という気もするが
やはり落ち着かないものである。
「ごめーーん 遅くなった! はいこれ」
「あー 間に合ったからいいわ」
「いやー持つべきものは親友だねぇ じゃ!」
「…」
心にもないことを言いよる。
ともあれ、無事に戻ってきた。
俺はなぜか数学はできるので、これさえあれば仮に被弾しても
対応できる。
ハゲが教室に入ってくる。数学の教師だ。
安心しきっているYは、異変に気付いてしまう。
1年E組 15番 加西 魅妃
加 西 魅 妃 だ と ?
俺はいつ改名したのか。 性別も違う気がする。
そんなわけねーだろバカヤロー 誰だよ加西って
これ、俺のノートじゃねーじゃねーか。
おまけにこれ古典のノートだ畜生が。 なにが係り結びだアホンダラ
てゆうか、女子からもノート借りてやがるのかあの茶髪野郎が。
落ち着こう。ノートが無くても、教科書さえあればなんとかなる。
くどいようだが、俺は数学が得意だ。
俺は自分の力を、信じている。
が しかし
数学A
やられた。
これ、数学Aの教科書である。
これから始まる授業は、数学Ⅰである。
いくら俺でも、問題までは記憶していない。
これは、本格的にあてられないことを祈るしかない
かもしれない。
いや、隣に頼めば教科書ぐらい見せてくれるはずだ。
きっとそうだ。何もパンツをみせてくれという訳ではない。
多分、隣は白系を穿いていると、個人的には思う。
Yが早急な対策を検討していると、老教師が授業を開始する。
「皆さんこんにちは。 それでは始めます。」
Yは、なるべく息を潜める。老教師が続ける。
「た し か ねぇ 宿題があったなぁ。
じゃあ、出席とりながら、あてていきますね。」
なお
「ん、じゃーね。今日はね Y君! 前にでてお願いね。」
数学の老教師は、Yを指名する。
Yは、深く息を吐いて、老教師を見つめた。