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第11 豆腐屋の息子

なにやら銭湯の主と、近所の豆腐屋がもめている。 


もう一人いるのは、たしか豆腐屋の息子であったか。 


まったく なんの騒ぎだろうか。 


神聖なる銭湯で、ハッスルしないでもらいたいものである。 

 


「ほんの出来心なんです! 二度としないように、言い聞かせます。 


おいコラなに黙ってんだデコすけ野郎!」 


「…」 


「う~ん 弱ったねぇこれは…   …あ! あんちゃん!」 

 


もめている二人と、もう一人が、なぜかこっちを見てくる。 何だ一体。 


そして近づいてくる。いやほんと何なんだマジで。 

 

流れ弾に当たるのは勘弁だ。



「いやーーーー あんちゃんさ、どう思うよ。 


いやさ 俺、こういうのはよくわかんねぇんだわ」 


「本当に申し訳ございません! どうか、どうかお願いします… 


 お前も謝れこのステレンキョーが!」 


「……ごめんなさい。」 



いや、なんだこの状況は。 銭湯の主は、なんだか気まずそうである。 


そして、俺は、豆腐屋と豆腐屋の息子の二人から、頭を下げられている。 

 


これはドッキリだろうか。どうせやられるなら、美人か美少女から 


ねっとりと念入りに仕掛けられたいものである。 


 

「なかなかあれだよねぇ いやあんちゃんさ、盗撮よ、盗撮。 


いやーーー まいったねこれは  どうする? あんちゃん」 


「はあ  そうなんですか」 



盗撮か。豆腐屋の息子は熟女好きなのだろうか。 


熟しているというよりは、既に枯れているような気もするが。 


しかしながら、俺はこの話題において部外者である。 


俺が陰ながら密告するとでも思われているのか。さながらかつての 

 

東ド○ツである。 



いや、おそらく俺に求められているのは、客観的かつ公正な視点だ。 


これは、豆腐屋、そして豆腐屋の息子の人生がかかった問題である。 


よって俺は、今、その良心に従い独立してその職権を行うべきなのだ と 


解するのが相当である。  




「あーーーー やっぱり盗撮はあれですけど、人間のリビドーというか 


みたいしりたいさわりたいというか、自分もそんなことばかりですし。 


でもやっぱり盗撮は盗撮ですよね、これは  はい 」 


自分でもわけわからんことを言っていると思う。 


これはむしろ事態を悪化させているのではなかろうか。 

 


「じゃあ、あれかい? あんちゃん的には、問題なしってかんじかい?」 


「まぁそうですね そもそもなんで自分がこんな会話しているのか 

 

わかりませんし はい 」 

 

 

「……じゃああれだね  あんちゃんも別に良いっていってくれてるし 


でも 二度めはないからね あんたたち」 


「ありがとうございます! もう二度と、こんなことはさせません。 


記録も全部消します。現像したやつは、お返しします。 


こら お前、反省してるのかこの大バカ野郎! 」


「……二度としません。本当に申し訳ありませんでした…」  



二人は銭湯を立ち去っていった。 


なんだか知らんが、一件落着のようだ。 


俺には、裁判官の素質が眠っているのかもしれない。

 


「あははは あんちゃん、なんだか悪いことしちまったなぁ 


お詫びにこれ、回数券あげとくよ ほんとごめんねぇ」 


「あ いや そんなこと …ありがとうございます。」  




「あ、そうだ これ、返しとくよ 俺、こういうのは専門外でねぇ」 


「? はあ ありがとうございます。」 


 

何やら銭湯の主からファイルを渡された。   なんだこれ  


回数券だけではなさそうだ。 


 


なんだか気まずいので、すぐに銭湯を後にする。 


歩きながら、ファイルの中身を確認することにした。

 


「………これは…」 

 


予想外だった。 


ファイルの中にあったのは、男の裸体の写真であった。 そして 





それは、すべて、俺の写真だった。 




 

豆腐屋の息子は、俺を盗撮していたのである。 


ここにきて、自分が感じていた違和感の正体が判明してしまった。 


 

まったく気付かなかった。一体、どうやったのか。 

 

いやそれよりも、自分はどうすればよかったのか。 


豆腐屋の息子の気持ちにこたえるべきだったのか。 


いや、別に特別な感情はなく、専ら劣情の捌け口としていたのかもしれない。 


てゆうか、なんでバレたんだ。てか、いつからやっていやがった。 


いやむしろ、豆腐屋も銭湯も共犯だったのではないか。意思の連絡だ。 

 


これは、今まで体験したことのない気分だ。 



違う。 

  


これは、そんな小さな問題ではない。  


性的欲求、リビドー、いやアガペーの問題だ。 


死に至る病というやつだ。


自分自身、あらゆる人、時にはものを慰みものとしてきたではないか。 


今まで自分は、そうされる側の事情を考慮してこなかった。 


そうされることを、更なる興奮へと昇華させることができれば 


さして問題とはならないだろう。 

 

しかし、いわゆる他人のおかずとなることは、人によっては 


相応の心理的、肉体的負担となりかねない。 


弱肉強食、そして食物連鎖は、食欲だけの話ではないのだ。 



俺は、様々な意味において、配慮に欠けていたのだ。 


なんということだ。  


豆腐屋の息子との一件が無ければ、気付くことはできなかった。

 

 



我に返ると、喉の渇きを思い出す。


銭湯で飲み物を飲み忘れたので、道端の自販機の前に立つ。 


サイダーか、コカ○ーラの気分だったが、ある商品が目に留まる。 




新発売   レインボー・ダイバーシティ Ver2.00  




大変興味深い商品名である。 

 

その味の見当はつかないが、おそらく今の俺の気分には合っているだろう。 

 


 



 

胃に、虹色の多様性を流し込みながら、やや足早に帰る。 


得られたものは、回数券だけではなかった。


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