第5話 決着
玲奈からそう言われると美咲は俺の方に顔を向ける。
「出来ますわよね?海斗。」
拒否権は無く、出来ることが前提の話し方だ。ここで出来ないと言ってみたいがそんな雰囲気では無いことは理解している。だから小さく俺は頷いた。すると美咲は明るい笑顔でこちらを見る。
「俺は1分間逃げ切るように頑張るがそれでいいよな?」
「えぇ別に問題はないわ。」
俺は玲奈を見てそういうと問題ないと了承される。だがさっきの回し蹴りで分かったがこいつは強い。弱く見せながら勝てる相手じゃないのは分かってるのだが、あの路地裏で過ごした経験からあまり自分の強さを表に出したくないと思ってしまう………まあ頑張って逃げればいいやと心の中で決意した。そして玲奈からルールの説明を受ける。
ルールは1分間玲奈から逃げ切るか、玲奈を倒すこと。指定された場所から出ると失格。
場所は庭でやることになった。
そして玲奈と俺は玄関から出てこの家の庭に移動した。美咲、その他の奴らも1階のテラスという所で俺たちの戦いを見るらしい。多分だが俺の負ける姿が見たいのだろう。だってまあ美咲と俺が会話してる時の視線が痛すぎるのだ。美咲の専属執事である竜二さんだったらともかく、その他のメイドや執事は俺をめっちゃくちゃ睨んでいたからな。まあ俺にとってそんなことはどうでもいい。そして到着した庭は驚くべき広さである。正確な広さは分からないが学校の校庭よりは広そうなぐらいだ。
(いや、普通庭ってこんな広いのか?)
という疑問まで頭の中に出てきたが金持ちならこれが普通と現実逃避し気持ちを切り替えた。
目の前では玲奈が戦う場所の広さを決めていた。その広さは縦25m、横25mであるらしい。広さ指定の時に細長い1mぐらいの鉄の棒を持ってきて正方形になるように地面にその鉄の棒刺していたがどこから持ってきた?という疑問は心の中に閉まっておいた。
「もう始めるわよ。」
冷たい声でそう告げる玲奈に俺はハイハイと言ってそのバトル場に入る。玲奈の姿はさっきと変わっておらず動きにくそうなメイド服である。対して俺は汚い服を脱ぎ、動きやすいTシャツとジーンズに着替えたさせてもらっている。まずそこから俺は舐められているんだなと思ったがまあそこら辺は甘えようと思った。
そして両者構える。玲奈の構えは完全に武術を扱えるような構えである。それに対して俺は構えなんてない。その自然体が1番動きやすいと思っているからだ。そして両者がぶつかり合った。
私は今、海斗と玲奈の戦いを見ていますわ。そして分かることはただ1つ。
(本当に海斗、逃げだけに徹してますわね。)
そう思っていますわ。だって玲奈の攻撃を躱すだけですから。まあ玲奈の攻撃は速いですし、攻撃したらすぐにカウンターを食らうだけですので逃げだけに徹しているのは間違いないと思いますが何と言うかもうちょっと頑張れないの?と思ってしまうのはしょうがないのでしょう。玲奈は私が選び抜いたメイドであり、私専属のメイドですの。この家のメイド達を束ねるメイド長という役割がありますわ。ちなみにじいやは執事長という役割を持っていますわ。玲奈は武術にも長けており、並のボディーガードでは一瞬で敗北しますの。それだけの強さと家事全般出来てしまう言うなれば完璧超人なんですの。でも、私唯一の専属ボディーガード、海斗なら何故かこの勝負勝てるとそう確信している自分がいますわ。でもそれはあくまで自分の思い、隣にいるじいやにも聞いてみますと、
「私も海斗殿が勝つと思いますよ。ホッホッホ」
と言ってくれた。周りにいたメイドや執事は驚きの表情を見せていた。ですけれどじいやの表情は変わらず
「100対0で海斗殿が勝つ未来が私には見えていますよ」
と自信満々に豪語するじいやを見て安心してこの試合を見ていられた。
目の前の男には会った瞬間からおかしな雰囲気を感じていた。その雰囲気がどういうものなのかと詳しく聞かれれば分からないが簡単になら言える。それは異様な雰囲気ということだ。だがその雰囲気=強さでは無い。戦ってみて分かったが強さは普通程度。逃げることだけは上手いがそれ以外は全て軟弱だった。だからもう手加減はやめてこの戦いを終わらそうと心の中で思い、それを行動に移した。
「はぁ!!」
今までとは比にならないスピードで目の前の海斗と呼ばれた男を殴る。それでこの勝負は勝ちだと私は確信しただが現実はそうはならなかった。何と海斗は私のパンチをギリギリの所で避け、その上、カウンターまで決めてきた。速度はなかったため軽く避けれたが私のパンチをギリギリで避けて見せたのである。それが偶然かまたまた必然なのかは分からないが油断してはいけない相手だと評価を改める。だが言ってしまえばそれがそいつの底なのだ。今の時間は40秒が経過しており、もう少しコイツが逃げれば条件達成だが私の体力は有り余っており、海斗の体力はもうない。ほとんどの人から見ても肩で息をしている状態と言われるレベルだった。息を切らしながらそいつは嫌味を言う
「どうした……表情…変わったが何か……不思議なこと……でもあった…か?」
本当に揚げ足を取るのが好きな男だがもう終わりである。私の本気の一撃を受け、コイツは負けるのだ。
━━━━戦闘をしている最中何故ここまでコイツが嫌いなのか自分で考えた。そして考えついた結果が嫉妬なのだと悟った。お嬢様に好かれている海斗が心底気に食わなかったのだと、だから私はコイツをボディーガードにするなら条件を付けると言ったのだと分かった。普段、お嬢様の決めたことは絶対であったはずなのに私はそれを認めなかった認めたくなかった。お嬢様が私からそっぽを向いてしまうと思ったから。だから海斗が悪いんだ。海斗がいなかったら!!!。
私は心の中でそう言い聞かせその男を殴ろうとしたのだが、私はその手を止めてしまった。圧倒的な恐怖を感じたから。私は人に対して恐怖を感じたことはあまりない。だが私にたった1人だけ恐怖という物を感じさせた人がいた。竜二さんだった。恐怖の化身。その言葉1番合う人である。1回だけ稽古をお願いしたがあの人は普通じゃなかった。私の本気のパンチを軽く凪いで、カウンターで首に1発それで終わりだった。何より戦闘中の気配が別物だったのだ。いつもの優しそうな顔とは反面、冷酷なその瞳は私に恐怖を覚えさせ、身動きを制限されるそんな感じだった。
それを今、目の前の海斗から味わっている。恐怖で身動きが取れず、ただ呆然と立ち尽くしてしまった。その恐怖の根源はどこなのかそれは海斗の顔からだった。邪悪な笑みを浮かべ殺気を込めた目で私を見る。その殺気は恐怖へと還元された結果からだった。
そしてテラスに居たお嬢様はこちらに走ってきている。そして私は理解した。
自分が負けたことを………。