過激派少女反抗期
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これはとても寒い日の事でした。その日はいつも以上に冷え込み、さらにその寒さに拍車をかけるように雪も降っていました。加えて時刻は夜。その寒さは想像を絶するものです。ですがそんな寒さの中、一人の哀れな少女が道を歩いておりました。
雪が降っているというのにもかかわらず、彼女は一切の防雪具を付けていません。さらには靴すらも履いていません。というのも、家を出る時にこっそりと母親の靴を履いて出てきたのですが、大通りを横断する際に猛スピードが少女に迫り、それを避けると同時に靴が脱げてしまったからです。
危うく踏みつぶされそうなところで少女が間一髪で馬車を避けたのですが、脱げ落ちた靴を拾おうと探し回っても、見つかりませんでした。
少し時間が経ち、両足は冷たさのためとても赤く、また青くなっていました。少女は古いエプロンの中にたくさんのマッチを入れ、手にも一束持っていましたが、日がな一日、誰も少女からマッチを買うことはありませんでした。たった一円、僅か一円すらも少女に払う者はいませんでした。
少女は朝から何も食べていません。寒さと空腹で震えながら町を歩き回る姿は、まさに悲惨を絵にしたような様でした。ひらひらと舞い降りる雪が少女の長い金色の髪を覆います。思わず二度見してしまうような美しい髪を持つ彼女でしたが、誰からも声をかけられることはありません。
二つの家が街の一角をなしていました。そのうち片方が前にせり出しています。少女はそこに座って小さくなりました。町中の窓からは優しい蝋燭の明かりが漏れ出し、食欲を刺激する美味しそうな匂いがしています。
少女は今すぐ家に帰りたいと強く思いました。けれど家に帰るなんて冒険はできません。マッチはまったく売れていないし、たったの一円も持って帰れることができないからです。このまま帰ったら、きっとお父さんにぶたれてしまいます。
ですが少女はもう限界でした。彼女の小さな両手はあまりの寒さでかじかんでいます。マッチの束から一本だけ取り出し、それを壁に擦り付けると「シュッ!」という音と共に素晴らしい輝きが生まれました。温かく輝く炎で、その上に手をかざすとまるで太陽のようでした。
その温かさは小さな少女にとって、まるで大きなストーブの前に実際に座っているようでした。炎はまわりに祝福を与えるように、精一杯燃えます。たくさんの喜びで満たすように、炎は辺りを温めました。少女は足も伸ばして温まろうとします。しかし小さな炎は消え、少女の目の前にあったはずのストーブも消えてしまいました。そして残ったのは手の中の燃え尽きたマッチだけでした。
少女はもう一度マッチで火をおこして温まろうとしました。ですがそこで、このままマッチで温まっていても自分には明日が来ない、さっき見えていたストーブは死の前兆の幻だ、という事に気が付きました。少女は自らが生きていくために、全ての元凶である父親を葬り去ろうと思いました。かじかんでいた四肢はマッチで温まったおかげでまだ動きますが、いつ寒さで動かなくなるか分かりません。少女は一刻も早く家に帰ろうと駆け出しました。
先ほどよりも少し雪の降る勢いが強くなり、風も吹く中、少女は自宅へ着きました。玄関の奥からは父親の気持ち良さそうないびきが聞こえてきます。少女はそのいびきを聞き流しながら、静かに家の中に入っていきました。
リビングのテーブルには飲みかけのウイスキーの瓶、さらにはソファで眠る父親の姿がありました。
少女はそのウイスキーを気付かれないように父親の服に染み込ませ、マッチの束で火をおこしました。そして次の瞬間「ぼうっ」という音と共に父親が燃え上がりました。慌てて目を覚まし逃げ惑う父親。しかし少女は間髪入れず余っていたウイスキーを父親に振りかけます。
酷く酔っぱらっていた父親は上手く逃げることができず、みるみるうちに命の灯を燃やしていきます。全身が火で包まれる中、父親は少女に対し声にならない叫びをぶつけます。が、少女には一切届きません。今、少女の心は父親を排除することで染まっていました。
やがて朝が来ました。少女が目を覚ますとそこには父親だったモノが転がっていました。
軽く伸びをしてから窓の外を覗くと、すっかり雪は降り止み、鳥たちのさえずりが朝の訪れを告げています。昨晩の寒さとは打って変わって、少女は温かな日差しに包まれました。すがすがしく冷たい風が少女の髪を優しく撫でます。そして風の冷たさとは対照的に少女の心は不思議と温かさと達成感で満たされておりました。
読了感謝です