第5話 サイクロプス
ここから異世界転生モノっぽくダンジョン戦闘に入っていく予定。
序章に出てきた転生者:サイクロプスは金にだらしない以外は優秀な転生者だぞ。
禍福は糾える縄の如し。
不運に見舞われたあとには幸運が訪れるという異世界のことわざだが、今、転生者サイクロプスがおかれている状態は不運が去り幸運が訪れたと言っていいだろう。
外人部隊からサイクロプスへの金銭の貸与が禁止されたことで今月の電気代、水道代、家のローン、その他借金を払うアテを『完全に』失ってしまったのが一ヶ月前。
サイクロプスは外人部隊でも古参であり、自他共に認める実力者、だから安い仕事は受けないつもりでいたが、『ヤクザ』と呼ばれるこの世界のギャングが家にまで取り立てに来たらそうも言っておれず、事務方がどこからかゴミ漁りしてきたゴミ依頼でも受けて小銭を稼ぐしかなくなってしまった。
「ストームさんに頼まれてきました。お手伝いさせていただきますね」
嫁がお目付け役を押し付けてきた。
『ハーピー』の二つ名をもつこの小娘は10歳そこらで転生してきて、20歳にもならないうちにサイクロプスより稼ぐようになった外人部隊の秘蔵っ子だ。
「馬鹿言うな数増えたら分け前が減るだろうが。小娘の助けなんざいらねえよ」
このとき受けた依頼は、まあ田舎の集落同士の小競り合い程度だった。
報酬は安い上に根が深く手離れの悪い案件でよっぽどカネに困ったやつじゃなければまず受けないようなクソ物件。
しかも今回は頼りにならない仲間があと二人。
外人部隊で訓練したがものにならず、二つ名もないまま放り出された奴らだ。
どうもずいぶん文明が遅れた世界の出身らしく、銃声を聞けば腰を抜かし、自動車を見たら鉄の馬と言って泣いて逃げ回るような役立たずども。
個人的には関わり合いになるのも面倒だが、そうもいかなかった。
稼げない転生者が忘れた頃に野盗化してそこらの集落や街道を襲撃する事件が頻発したために、原住民の軍隊、国防隊から『悪質なマッチポンプ』とクレームが入り、ビビった外人部隊上層部から使えないやつでも面倒見ろという通達が来たばかりだからだ。
そして不運は次の不運を呼ぶ。
依頼元の村と対立する隣村が国防隊に告げ口して翌日には近場の旅団が大砲持ってやってきた。
クソ村長め、「この村はどこの旅団の管理下にも入ってないから国防隊の介入はない」だ大ボラ吹きやがって。
こうなったら適当なとこまで粘って旅団に投降するしかない。
「自走砲を破壊してきます。みなさんはそれまで身を守ってください」
「やばくなったら戻って来い。『機導兵』も来てる」
ハーピーを当てにするのは癪だったが国防隊が持ってきた大砲を無力化してくれたおかげでかろうじて命は助かった。
処理しきれないほど大量に砲弾撃ち込まれたらさすがに手練の転生者でも死ぬからこれは今思えば不運が終わってはじめに訪れた幸運かもしれない。
役立たず二人はいつの間にか死んでたが、まあよかろう。
「だじゅげでぐだざい・・ぼぐはまぎごめれだだげなんでず」
そういえば、戦闘中に紛れ込んだ転生者の新入りがいたがそいつも運がいいのか要領がいいのかちゃっかり生き残っていた。
国防隊、緋本原旅団の捕虜になってからは幸運の時間だった。
ハーピーは旅団の少佐に随分気に入られて厚遇されているらしい。
サイクロプスは旅団が管理する鉱脈での採掘作業と、転生する外来種の駆除が言い渡された。
この仕事は正直楽だった。出てくる外来種は大したことないやつらばかりでサイクロプスの敵ではなく、筋トレがてらに処理できた。
「あ、兄貴・・・」
「さすが異人じゃのお」
「これなら予定を前倒して掘れそうだ」
ついでに作業員や村の生き残り、警備の国防隊とも仲良くなった。
一番幸運だったのは水と電気と飯と屋根の心配がなくなったことだろう。
「住居と食餌については旅団で用意させていただきます」
サイクロプスを捕虜にしたトージョーという少佐は若造だが話のわかる男だった。
外人部隊に要請した身代金を働いて旅団に返せという良心的な条件だった。
正直、住むとこの心配をしなくていいなら定年までいてもいいと思っていたので願ったり叶ったりだった。
「おどりゃ異人があ!」「借りたもんは返せいうて親に教わらんかったんかワレぇ!」
「ここは立入禁止じゃ!いね!」
どうやってか所在を知ったヤクザが借金の取り立てに来たが、警備の国防隊が火炎放射器で鉄砲玉を焼き殺してからは取り立ては来なくなった。
旅団が後ろについているとなれば、さしものヤクザも手が出せないと見え、借金の大半は踏み倒せた形になった。
これまでが不運の時間なら今はまさに幸運の時間なのだと言う確信が確かにあった。
「あ、兄貴!」
鉱脈の奥から作業員が真っ青になって逃げてきた。
依頼主だった治田村の青年団の生き残りの若衆だ。
「おお、ヤスゥ、どうした」
青年団の生き残りははじめのうちこそ元いた作業員と乱闘騒ぎを起こしていたが、サイクロプスの仲裁で今はおとなしくしている。
だから鉱脈内でサイクロプスに泣きつく要件といえばおおよその予想はつく。
「渡来人の旦那、外来種の出現だ!作業員が対比するまで食い止めてくれ」
通信機から警備の国防隊の通信が入ってきた。まあ予想通りだ。
「一つ確認だが、別に駆除しても構わんだろ?」
「大丈夫だ、問題ない」
よし、分かりやすくていいぞ。時々トージョーの若造が『サンプルのために生け捕りにしてほしい』という要望を言ってくることがあるから確認は大事だ。
言うとおりに生け捕りにすれば追加報酬が出るからな。
そうでなければ駆除したほうが手っ取り早い。
サイクロプスは逃げてくる作業員の流れを押しのけダイナマイトの爆音が渦巻く鉱脈の奥へ歩を進めていく。
しばらく進むと目的の外来種鉱脈を掘り進んでサイクロプスの眼前に現れた。
作業員が発破で天井を崩して足止めしたようだが文字通り足止めにしかならなかったようだ。
今までここで見た外来種とは違うな。
「HQ、こいつの情報なんかねえか?」
通信機からの返事はない。奥まで来すぎて電波が届かないのか。
まあよかろう。
外来種は目も手足もないずんぐりした体をくねらせてサイクロプスに突進してくる。
正面にはポッカリと空いた巨大な口、これが唯一にして最大の武器ということか。
「オラァ!」
迫る外来種の巨体はサイクロプスが打ち込んが拳の一撃で、打ち返された。
祝福:身体強化によって生み出された打撃力は、外来種の重さと速度を相殺、反作用で後退したサイクロプスは前方に跳躍して一気に間合いを詰めると拳の連打を叩き込む。
鉱脈を埋め尽くす程の巨体だ、目をつぶっていても当たる。
当たるたびに外来種は後ろに逃げ、奥の空洞まで押し返された。
「おいおい、まさかこれで終わりじゃねえよなぁ」
外来種は人間の言葉を解しない。
だが、この外来種は目がない分音には敏感だろうとサイクロプスは踏んでいた。
あえて自分の場所を教えてやることで注意を向けさせようというのだ。
見ればその外来種は正面?をこちらに向けている。口があるから多分正面だと思う。
まだこの外来種は戦意を失ってはいないということだ。
「いいねえ、次は何してくれるんだ?」
サイクロプスの挑発に乗る形で外来種は口を開く。
開いた口から無数の触手が飛び出す。
「む?」
飛び出した触手はサイクロプスが放った拳を絡め取ると両腕の動きを封じる。
「やるじゃない」
並の転生者であればこれで優位を失い、外来種の餌になるところだが、サイクロプスは違う。こういう状況をくぐり抜ける手立てはいくつもあり、そのうちの一つを行使する。
「光波斬!」
サイクロプスの隻眼から放たれた光線が絡み付いた触手をまとめて切断した。
「ぐおおおおおおおおお!」
どうやら触手には神経がつながっているらしく。断面から青い血を吹き出しながら外来種がのたうち回る。
「残念だったな、今日のオレ様は運が向いてんだ」
外来種には言葉は分からんだろうが自慢しておいてやろう。
自慢が終われば駆除の時間だ。
悶絶する外来種に止めをさすべく距離を詰める。
どうやって止めをさすか、打撃で脳を破壊するか?しかし脳みそはどこだ?
それとも光波斬で切り刻むか?ミミズみたいに切ったら分裂したりしねえよな?
思案のために一瞬注意がそれたのを外来種はチャンスと見たのか大口をサイクロプスに向け直す。
「お、やる気か?」
サイクロプスはすでに迎撃可能な体勢だ。
「ゴバァ!」
外来種は新たね手段を講じてきた。大口の中から黒い粉塵を吹きかける。
煙幕か?いや、それにしては粒が粗いこれは?
答え合わせと言わんばかりに外来種は口の中の歯のように見える器官を擦り合わせ、火花を生み出した。
「炭塵か!?」
発生した火花は瞬時に周りの炭塵を巻き込んで連鎖燃焼する。
「旋風!」
炎がサイクロプスを包む直前、サイクロプスは風を起こし、炭塵を散らせる。
直接的なダメージは受けなかったが外来種を見失った。
次はどう来る?どこから来る?
外来種はまだやる気だ。そう思って迎撃を考えたのは判断ミスだった。
炎が収まってサイクロプスが見たのはもと来た鉱脈を逃走する外来種の尻だった。
「やるじゃない」
言葉もわからねえ分際で人間様を出し抜くとは。
「待ちやがれ!」
感心するのもそこそこに直ちに追撃に入るが、外来種は尻から飲み込んでいた岩と砂礫を吹き出して穴を塞いでしまった。
「うわ、きったねえな・・・」
外来種の尻から出た排泄物は謎の消化液でガッチリロウ付けされて壊すのは難しそうだ。
これではこれ以上の追跡は不可能。
「だと思ったか?」
それは並の転生者の話だ。
サイクロプスは片目に着けていた眼帯を外す。
神器:ユミルの瞳。
元の世界で失った片目の代わりにベルンハルト財団が埋め込んだこの神器は理力と光を増幅する。
これは光を生み出すサイクロプスの能力と相性が良かった。
威力が強くなりすぎるので普段は封じているが、今日のオレ様は運がいい。
10年以上前、金欠になってベルンハルト財団に身売りして実験台になった不運がここに来て役に立っているのがその証拠だ。
外来種は逃げおおせる気でいるだろうが、これから使う奇跡に貫けないものは存在しない。
全身の理力をかつて目があった場所に収束させる。
鉱脈内に満ちた光がユミルの瞳に集まる。
準備よし。
「極大殲滅烈光覇!!!」
想像を絶する一撃。
祝福:光量増幅
祝福:収束
祝福:射程無限
祝福:理力増幅
懲罰:耐性無効
放たれた光の柱は射線上のすべてを穿つ。
穿たれた穴の出口からは星が見えた。
「・・・ひ・・・・よ・・・・」
外とつながったことで通信機から通信が入ってきた。
「おう、どうした?」
「総員退避せよ!総員退避せよ!」
なんかすげー不吉な通信の内容だ。
「なんかあったか?」
「揚水設備が破壊された!水没するぞ!退避せよ!退避せよ!」
何か重くて大きいものが倒れた衝撃が走り、何やら水の音が聞こえて来た。
「やべ・・・」
禍福は糾える縄の如し。
サイクロプスに訪れた幸運の縄は、どうやらここが終点らしかった。
To_be_Continued.