Prinz_Eugen _1
センチネル編終わったので次の話、
「僕」が北千練島で戦っている間に内地で起こった話になります。
Prinz_Eugen _1
ー異世界
ここ緋ノ本においてその存在を疑うものはいない。
緋ノ本にはその存在の証明となる人間が頻繁に出現している。
渡来人と呼ばれる彼らは敵対するもの、恭順し共存を望むものと多様であるが、その存在によって緋ノ本の文明が大きな影響を受けていることは周知の事実である。
火薬、メートル法、内燃機関の知識を持った渡来人は死後銅像が建ち、ヤードポンド法を操り鰻をゼリーで寄せる蛮族は口に鉛を流し込まれた。
この世界の文明は異世界の有用な技術、文化を取り入れることで発展したと言っても過言ではあるまい。
なんなら公用語となっている言語も日本という異世界の言語がベースになっている。
このように、緋ノ本は渡来人の来訪によって多大な影響を受けている。
ー渡来人が有益な文明を持っているなら、来るのを待つのではなくこちらから出向けばいいのでは?
短からぬ緋ノ本の歴史において、こう考えるものが出たのは必然だった。
ー世界渡り
言い出しっぺが誰なのかもはや分からないほど昔に発案されたこの計画は幾度の挫折と凍結を乗り越え現在も各所で研究されている。
「というわけでこの度我がベルンハルト財団が研究していた試作一号機『フレズベルク』が完成しましたこのユニットは現在運用中の機動祭壇と同一のプラットフォームを使用しており部品の共通化を図ることでコストダウンを実現していますまあ実情を言えば完成すると思われてなかったので修理で回収された機体から部品を抜き取って段階的に作っていっただけなんですがねいやはや予算がないのは世知辛いですねそうそう
「ごほん!と、東城少佐、は、早く本題に移ってくれんかね?」
緋本原旅団司令部
駒野中佐以下旅団の主要メンバーが『世界渡り』の第一歩を踏み出そうとしていた。
話を遮られた東城護は不満も露わにスライドのページをめくる。
「世界渡りを敢行するにあたって重要となる要素は大きく分けて三つありますまずは
「少佐、す、すまんがく、句読点を今の倍入れて喋ってくれ、大半のものがついて行けてない」
「チッ、うっしゃーのぉ」
態度わりーなこいつ。
緋本原旅団の士官はそう思ったが口には出さなかった。
かつて西方進出要衝として栄えた緋本原は今は昔の物語、協力関係にあった企業が資源を求めて西へ南へ散っていき、旅団は縮小傾向にある。
だから通常は旅団の指揮を『大佐』が執るところ、緋本原は中央から左遷された『駒野』中佐が臨時で指揮を執っているという事情がある。
そして、政府の介入を許すことは旅団にとって非常に重い状況だった。
ー三重行政
緋ノ本の地方における状況はこれに尽きる。
・版図の拡大を悲願とする『旅団』
・『旅団』を制御下に置き、不拡大政策を進める『政府』
・利潤を追求する『企業』
この三者が同じ空間で頭を取り合っている状況だ。
緋本原『旅団』は10年前の厄災によって受けた被害と前線の移動による企業の撤退の煽りで大幅な勢力の縮小を受けた。
『政府』はその機を逃さず、『復興支援』の名目で人員を送り込んだ。
体のいい乗っ取り、事実上の改易とも言える状況だった。
不拡大政策を進める政府は金払いが悪い。
金払いが悪い政府が介入したとなると、利潤の追求を至上とする企業は次々に離散していく。
これまで協力関係があってもお構いなしだ。
そうなると余計に『旅団』は寂れていく。
寂れていくから政府が介入する。
政府が介入するから更に寂れる。
その状況下で、今も『旅団』との協力関係を維持している企業、『ベルンハルト財団』の存在は大きいものとなる。
そして、その『ベルンハルト財団』から出向してきた人員がこの態度の悪い東城少佐というわけだ。
不本意ではあるが、『旅団』にはこの男の機嫌を取らねばならない理由があるのだ。
「では始めましょう。世界渡りをするために必要な要素は三つ。
まず始めに『術式』
これは現世の摂理を破壊し一時的に世界を隔てている障壁を排除するために必要なものになりますこの度完成した『フレズベルク』はそのための術式を展開するためのユニットとなります。機動祭壇相当の車両を4輌1組で運用します」
今度は区切った。
態度は悪いが言えば聞くところはこの男の美徳と呼んでもいいかもしれない。
「次に必要になるのが『出力』。
これは『術式』を起動するのに必要な『理力』になります。これは渡来人が奇跡の発動に使用するものと同一ですが世界渡りをするには使用量が膨大になります。
神器およびそれに準じる装備、それを行きと帰りで2つ分、こちらが今回入手できたので今回の計画が持ち上がった次第です。」
スライドをめくる。
そこには二つの武器、機械の薙刀と異世界の意匠の剣。
まずは薙刀にレーザーポインターが当たる。
「小職麾下の機導兵、敷島少尉および兵装から理力を抽出し転用して片道分そしてもう一つがこちら」
続いて剣のイラストにレーザーポインターが向く。
「先日外人部隊から接収した神器、蒼空剣セレナリア、こちらをもう片道に使用します。こちらは現在休眠中になりますが理力は十分蓄えられています」
これは捕虜にした渡来人が持っていたものだ。
現在は身代金と引き換えに担保として接収している。
休眠中ということで外的に稼働させることができず、持っていても使い道がないので『旅団』としては反対する理由がない。
「最後に『座標』。
こちらは異世界の場所を特定するために必要になります異世界がない場所に術式で穴を開けても異世界にたどり着けないばかりか境界を漂流することになりますからねしかしながら現時点で異世界の座標を特定する技術および航法は残念ながら確立されていないんですよではどうやって正確に異世界に向かうかというとこちらになります」
スライドをめくると鳩の動画が映った。
手紙を足にくくりつけた鳩が長距離を飛んで目的の場所に手紙を届ける。
感動の動画だ。受取人のヒロインが微妙なことを除けば。
「ああこちらで演じているのは財団の研究員でして元々緋本原に出向予定だったんですよしかし人事が発表された翌日に消息不明になったため小職が出向してきた次第ですね」
凄まじくどうでもいい。
ベルンハルト財団はろくな人材がいないじゃないかどうなってるんだ。
「そうそうこの動画を通して小職が言いたいのは異世界からやってきた神器にはどうやら帰巣本能およびそれに類する機能が備わっていることが昨今の研究で判明したんですよそこでこちらの蒼空剣セレナリアですがこちらは10年前に緋ノ本に漂着した神器であることが判明していますつまり『フレズベルク』を用いてセレナリアから所属していた世界の座標を抽出することで元いた世界への座標を固着できるというわけですね」
「じ、実績はあるのか?」
「あるわけないですよあればここに皆さんを集めるわけないでしょ」
駒野中佐の恐る恐るの質問に東城少佐は即答。
つまりこういうことだ。
ベルンハルト財団はこの怪しい発明の成果を確認するために、緋本原旅団から人員を出せ、といいたいのだ。
「『フレズベルク』および我々の護衛、あとは現地での偵察、調査、陣地構築を行うための人員一個中隊ほど貸与いただきたい返却は保証しかねますが成否に関わらず謝礼は支払います」
だから『旅団』の中から決死隊を募れ。
東城少佐は言い放つ。
金を払うと言われたら金がない緋本原に断る選択はありはしない。
駒野中佐は一同を見渡した後一番言いやすい相手を選抜。
『旅団』メンバーは地元民の寄り合い所帯だ。
それ故誰も後々禍根が残りかねない決断をしたがらない傾向がある。
だからこういう時、嫌われ者の政府出向者である駒野中佐のような人間が必要になることを中佐は理解していた。
「では楠大尉、準備にかかってくれ」
「はっ」
命令を受けた楠大尉は考える。
息子の学芸会までに帰ってこれるだろうか?
to_be_continued




