-the_Sentinel- 第二十話
僕と愉快な仲間達はCICをめざしひた走る。
「めんどくせー!なんでこの船こんなにでかいんだ!」
「艦載機が揚力を得るために滑走距離が必要だからです」
「道もわかりづれーし、まるで迷路だ!」
「被弾、損傷した際に浸水の拡大を防止する目的で区画を細分化してあるからです」
「階段が、急なのは、なんでだ?」
「船体の、サイズに、納める、ためです」
チビのイワンのぼやきにおっさんが答える。
「いいから早く上れよ!」
ヒイヒイ言いながらもたもたと階段を上るチビとおっさんをせかす。
今の並びは
先頭:シオ
二番目:チビ
三番目:おっさん
しんがり:僕
の順番だ。
敵と鉢合わせしたときまともに戦えるのはシオだけだからシオが先頭なのは確定、そのシオが階段の上にいる状況で後ろから敵が来たら僕は殺される。
ー鷹の目
奇跡で敵の動きを見る。
幸い、まだ敵は追いついていないようだ。
時折光ったり消えたりしている青と赤の光は空挺部隊の大塚大尉と、めっちゃ強い敵のオバハン、井上大佐だろう。
大塚大尉が艦内の敵を足止めしつつ、井上大佐がそれを妨害する。
どうにも、この二人は僕の奇跡から身を隠すことが出来るらしい。
もし味方の大塚大尉が倒されたら僕もおっさんもあのオバハンの接近に気づけないし、気づいたところで誰も勝てない。
おまけに井上大佐の方がやや優勢に見えるときた。
ひたすらスリリングな状況だ全く。
よし二人が上った。こんなところにいつまでもいられるか。
「ひい、ふう」
「はー、はー」
チビとおっさんがへばってる。
全くだらしねえな。
CICまでもうすぐなんだから根性出せ。
「勇者様!」
ー鷹の目
CICの前からワラワラと赤い光が飛び出してきた。敵だ。
待ち伏せだ。そりゃそうだ、ちょっと考えれば分かることだった。
「戦術的撤退!おっさん、チビ!いつまでも休んでんじゃない!シオ!殿は任せた!」
今の戦力で戦っても勝ち目はない。
「逃げるってどこへ!?」
「知らねえよ!」
とにかく敵がいない場所だ。赤い光がないとこを探して、そこに蛇柄スーツのオバハンがいた。
井上大佐だ。終わった。
この間合いでは、自己防衛も発動しない。
後頭部に一撃もらって僕の意識は落ちてしまった。
目が覚めるとなんか広い空間に転がされていた。
両手には手錠が填められている。
「どうやら格納庫のようですよ」
先に起きてたおっさんが説明する。
どうやら僕らは殺されずに済んだみたいだ。
「・・・う・・・」
シオは僕らがあっさりやられた後しばらく頑張ったらしい。
しこたま殴られて苦しそうにうめいている。
色白な顔に出来た痣がひどく目立つ。
少し離れたところには大塚大尉が吊されててその近くに井上大佐がいる。
まずいな、これじゃ打つ手がない。
「暮のネズミが随分わしの艦で暴れてくれたな」
なんだこのおっさん。
スキンヘッド眉なしのデカ男、なんかオレンジのパツパツのシャツに弾丸をたすき掛けにかけてる。
「内海中将、政府軍の所属です」
ジークフリートのおっさんが僕の疑問に答えた。
で、その中将がなんでこんなへんぴな島にいるんだ?
「わしは今機嫌がいい。冥土の土産に見せてやろう」
聞いてないけど種明かししてくれるらしい。
内海中将が合図すると格納庫の奥に張られていた防炎シートが剥がされた。
そこにいたのは
「メカゴジラ?」
なんかでかい機械の恐竜だ。
「機龍三型だ。地方の蛮族どもに裁きを下す政府の鉄槌、ふふふ、恐ろしいか?」
いや、それ見せられても何が凄いのか分からないんだけど。
「レールガンか・・・」
恐竜の肩の大砲を見て大塚大尉が息を呑む。
「この規模だとここから緋本原までが射程に入りますね」
ジークフリートのおっさんがフォローする。
おっさん二人のリアクションに気を良くした内海中将は更に口の滑りが良くなる。
「この機龍三型にはかなりカネをつぎ込んだからな。双脚、水上航行、半潜航、飛行ユニット搭載、陸海空を移動可能で迅速な陣地転換が可能な長距離砲として運用すれば地方蛮族どもの兵站は完全に破壊可能だ!」
めんどくさくなったな、そんなことより僕にはどうやったら助かるかの方が重要だ。
『鷹の目』で外を見てるけど空挺部隊の数が減ってきてるぞ。『鉄乙女』もどっか行ったままだし。
「なるほど、地上からの対空砲火の正体はあれのようですね」
おっさんも乗ってんじゃねえよ。
「あれは予備の砲身を陸用に転用したのだ!」
それらは既に『鉄乙女』が破壊済みだ。
「だが自走して陣地転換されると破壊は困難だ・・・」
おまけに母艦が生成する結界があるから島に接近する時点で困難、まさに難攻不落。
なんか凄いぞ。
「でもよ、じゃあなんで最初にそいつを動かさないんだ?」
ここに来てチビのイワンが話に割り込んできた。
「うっ・・・」
そして内海中将が言いよどんだぞ。
「恐らく、原住民の『結界』によってまとまった運用可能な資材が集まらないのでしょう」
おっさんの言葉にギクッとしてる。図星か。
十分な火力を得る前に発見されたら作戦が破綻するので今の今まで秘匿するしかなかったのだろうとおっさんが耳打ちしてきた。なんか、スケールでかい割に適当だな。
「そいだけじゃなか、あの機械はまだ生きとるばい」
え?
シオ、今なんて言った?
「教えてやろう!」
「いや別にいいです」
なんかやけくそ気味になった内海中将の解説。
「機龍三型の製造には10年前に出現した外来種『八龍』の一体を生体ユニットとして使用しておるのだ!これにより通常兵器の100倍を超える航続距離および機関出力を実現しておる!だがわしも予想外だった。まさか骨だけになっても生命活動を継続するとは夢にも思わなかったぞ」
つまり、体にしか興味なかった『八龍』が生きてて、この中将に懐いてないから言うこと聞かない訳か。
視界の端の青い点を追いながらそんなことを考える。
「だがしかし、今や『八龍』調伏は時間の問題だ!大佐!」
大塚大尉をサンドバッグにしてボコっていた井上大佐がするりとこっちに接近してきた。
「ひっ、放せ!放せよ!」
大佐はチビのイワンを片手で持ち上げると機龍三型の足下に連れて行く。
「貴様の奇跡で調伏しろ。貴様が外来種を手懐ける奇跡を持っていることは井上大佐が確認しておる」
「へぶっ!?」
床に転がされたチビに井上大佐が銃口を向ける。
「大佐!見損なったぞ!昔のあんたは子供に銃を向けるような人じゃなかった!」
大塚大尉が叫び、井上大佐が少し悲しそうな顔をする。
この二人に何があったのかは知らないが僕が言うべきことは一つだ。
「いいかチビ!言うとおりにするなよ!」
こう言うのは用済みになったら殺されると相場が決まってるんだ。
逆を言えばごねてる間は殺されない。
「その強がりがいつまで持つかな?」
内海中将はおもむろに拳銃のようなものを取り出すとケーブルの付いた弾をシオに撃ち込んだ。
「うぎゃあああっ!?が、あがあああああ!?」
マジかよ!?
電流を流されたシオが悶絶する。
「や、やめろよ!」
イワンが叫ぶ。
内海中将は構わず電流の勢いを強めた。
「あがっ、うああああ!?」
シオは陸に上がったブラックバスのようにのたうつ。
その動きが徐々に弱くなっていくが内海中将は手を緩めない。「う、あ・・・」
ついにシオの動きが止まる。
ピクピクと僅かな痙攣と途切れがちな呼吸が残るだけだ。
次やられたら死ぬかもしれない。
「おい小僧」
内海中将は泣きべそかいてるチビに向き直り、電源のスイッチを弄ぶ。
「いいか!絶対に言うとおりにするなよ!」
内海中将はシオを痛めつければチビが言うとおりにすると思ってる。
だから殺す寸前でとどめているんだ。
おいそれとは殺さないはずだ。
内海中将は一瞬思案。
「井上大佐。あの渡来人の目を抉れ!」
「チビ!直ちに中将の言うとおりにするんだ!」
ターゲットを僕に変えるんじゃない!
「お前それでいいのかよ!」
「いいに決まってんだろ!」
誰だって自分が一番大事に決まってる。
チビは納得出来ないと言う風に機龍三型に向き直る。
「最初から
「プッ!」
同時、シオが僕に向けて何かを吹き出した。
口の中に隠し持っていたライフルの弾だ。
ー火炎弾
受け取ったそれに火球をぶつけて点火、手錠を破壊したぞ。
「右舷へ!」
ジークフリートのおっさんが叫び僕が走る。
「逃がさん!」
内海中将はノータイムで僕に電機が流れる銃を向けてきた。
さすがだ、おっさんやシオに銃を向けたらその隙に逃げようと思ってたのをあっさり見破られた。
ーパッシブスキル:自己防衛
ケーブルを回避。
次いで今度は井上大佐が僕を追撃にかかる。
「大佐ううううううううう!」
それを、ちゃっかり拘束を脱した大塚大尉が迎撃する。
進路クリア!
僕は壁にあるエレベーターのスイッチに手をかけた。
これで外に逃げるぞ。
「え、いや、遅!?」
壁と一体化したエレベーターがゆっくりと下がってくる。
いや、ちょっと待って、これが降りてくるまで待ってたら殺されるんだけど。
「何をするかと思えば、最後に月見でもするつもりか?」
え、うん・・・。
「月が見えるまで待ってくれます?」
「いやだね、わしは待つのが嫌いだ」
内海中将がたすき掛けにしていた弾丸を取り出すとデコピンの要領で弾いた。
ーパッシブスキル:自己防衛
ーパッシブスキル:自己防衛
ーパッシブスキル:自己防衛
「ひいいいいいい!?」
飛んできた弾丸を必死で躱す。
関節が痛い。
「ふん!」
「ぎゃ!?」
無理な体勢で回避したせいで中将のパンチはよけられなかった。
床をゴロゴロ転がされる。
痛え、口の中切れた。
目がチカチカする。
青い光ががちらつく。
ーパッシブスキル:自己防衛
「いでででで!?」
追撃の弾丸をコンピューターで作った人間には出来ない動きで躱す。
生命への冒涜。
こんなの続けたら関節がねじ切れる。
「ふふふ・・・まだやるか?」
機嫌良くシャドーボクシングを決める内海中将と膝ガクガクの僕との対比。
「ハンデください・・・できれば飛び道具はなしで」
「良かろう」
あのガタイとシャドーボクシングから内海中将はどうやら接近戦にも自信があるようだ。
もしかしたらと思ったけど言ってみるもんだな。
これで僕が勝てるわけではないけど多少勝率は上がりそうだ。「では、行くぞ!」
「よし、来い!」
内海中将が突進、あっという間に間合いを詰められた。
「ふん!」
ーパッシブスキル:自己防衛
僕は繰り出されたぶっとい腕に、思いっきりしがみついた。
「が、はっ!?」
やばい、直撃じゃなくても衝撃で息が詰まった。
「こしゃくな・・・」
振りほどこうとする内海中将に抵抗しながら息を整える。
「僕を撃て!」
叫ぶと同時、体に電流が走る。
ーパッシブスキル:自己防衛
ーCopy.
全自動で手が離れると同時に左ストレートで僕の体は吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。
めっちゃ痛え。
生きてるのが嫌になる。
チカチカする頭を揺すって起き上がると内海中将を見る。
内海中将は上半身を真っ赤に染めて二三歩歩いた後、そのまま後ろに倒れた。
「Hit.第一波攻撃命中」
ようやく降りてきたエレベーター、その後ろにはバルカン砲の硝煙を纏った『鉄乙女』がいた。
種明かしをすると、僕は捕まった時から『鉄乙女』の場所を探っていた。
自力での脱出はどうやっても不可能っぽかったしな。
抜け目がないおっさんは『制地』の奇跡で戻ってきた『鉄乙女』を艦内に入れるためにエレベーターを調べていた。
『鉄乙女』は艦内の様子が分からない。
ただ、僕らには発信器が取り付けられていて『鉄乙女』は艦内の様子は分からなくとも僕らの場所は分かる。
だからエレベーターの隙間から自分の場所を撃つように指示すれば、狙ったところに当たると言うわけだ。
そして僕は『鉄乙女』の場所を把握していれば『自己防衛』で退避出来る。
うまく行って良かった。
艦内に入った『鉄乙女』は格納庫にいたフェイスマスクをバルカン砲でミンチに変えた。
「大佐・・・」
おっかねー井上大佐は撤退したらしい。
目的は不明のままだけど内海中将を倒したことで戦闘を切り上げて閃光弾と入れ替わりで消えていった。
「艦は制圧出来そうですね」
空挺部隊も半分くらいに減ってたけど全滅は免れたようだ。
「セルゲイ!よかった!」
この熊もしぶといな。
「あとはCICで結界を解除しましょう」
CICで結界の解除を行う。
「プロテクトを解除します。少々お待ちを」
おっさんがコンソールに、大塚大尉が通信機に取り付く。
「大塚大尉だ。艦を制圧した」
通信に対し返信。
「そりゃいーや」
チビマッチョの親玉、金剛と
「こっちは結界を解除した」
『帳簿係』だ。
なんだなんだ、いい調子じゃないか。
「ただちょっと別の問題が発生した」
なんだぁ?てめえ!?
どうやら、島からの脱出はもうしばらく先のようだ。
-to_be_continued




