-the_Sentinel- 第十八.五話
久しぶりの更新
少年サトーとサージの時間に終わりが近づき、平和な日常が終わりを告げる急転直下の過去編
軍曹が来てから5年が経った。
サトーの故郷だった場所は『耳なし』の基地が建ち名護屋と名付けられた。
近郊の探索と開拓も大幅に進み周辺にいた同胞は多くが名護屋へ帰属していった。
『耳なし』は恭順するものには寛大だった。
帰属した『長耳』には住居が与えられ、職が斡旋された。
おもに山岳部の捜索、測量に従事する場合が多かったがこれはなかなかに高給で、最初期から働いていたサトーは懐がかなり潤っていた。
「サトーちゃん」
おかげで家政婦を雇うことができた。
『シマ』という『耳なし』の家政婦のおかげでサトーは赤ん坊のシオを預けて仕事に出ることが出来る。
軍曹の口利きで、名護屋旅団の指揮官『豊島少佐』が親を失ったサトーの境遇を哀れんで探してくれたのだった。
「テレビジョンが届いとるばい」
給料で買ってたものが納品されたらしい。
遠くの映像を映し出せる魔法の箱だ。
使い方は軍曹に教わった。
起動すると白黒の映像が映る。
「#&&%(%(UIY」
「やかましい!」
パーン!
白黒の映像の中では、古くさい衣服に身を包んだ『長耳』が『耳なし』に射殺されていた。
「サトーちゃんの知り合い?」
「いや、ただのアホたい」
ここ一ヶ月にわたり名護屋旅団の輸送隊を襲撃していた蛮族の拠点を捜索隊が突き止め一網打尽。
画面下のテロップに日本語でそう書かれている。
バカなやつらだ。
名護屋に来ればこんな山賊まがいの生活をしなくて済んだのに。
『長耳』の中にはくだらない意地を張って名護屋に恭順しない連中がいる。こないだ軍曹がやっつけたやつらもその一つだ。
そういう連中は敵対しなければ捨て置かれるが、危害を加えてきたら『耳なし』は容赦がなかった。
テレビジョンは逃げ惑う『長耳』を機関銃で撃ち殺す画像を流し続ける。
追い立てられ、洞窟に逃げ込んだ『長耳』を『耳なし』は追い詰める。
洞窟の入り口から化学戦部隊が火炎放射器を噴射、黒煙の中から転がり出てきた人型の炭を機関銃で砕く。
「こちらは名護屋旅団。皆様ご安心ください。『駆除』が完了しました。街道の安全は無事確保されました」
「きゃっきゃ!」
機関銃の音にシオがはしゃぐ。
近郊の開拓任務はここ最近で落ち着きつつある。
本来であれば、『長耳』の捜索にはサトーのような『長耳』の斥候があてがわれるが、斥候を雇うような案件は目に見えて減ってきている。だからこうしてテレビジョンを見ていられるわけだ。
「サトーちゃん」
シマがサトーに書類を持ってきた。
「これは?」
「定時制に通ってみん?」
最近建った『耳なし』の学校に通うための願書だそうだ。
「軍曹ちゃん、サトーちゃんに期待しとるとよ」
本来なら『長耳』のサトーは入学出来ないところを、これまでの協力と貢献を評価した軍曹が動いて特別に願書を取り寄せてくれたのだ。
身元の引受人にはシマの署名と、書類の承認欄には豊島少佐の印鑑が押印されていた。
「ありがとう。何から何まで」
シマに背中を向け、窓の外を見る。
双発の輸送機が頭上を飛び越えていった。
「軍曹・・・」
あの輸送機に乗って軍曹は次の開拓地の偵察に向かうらしい。
正確な日時は未定だが名護屋の平定が終われば次の戦場へ行く、これは確定だった。
ー僕も軍曹と行きたい。
ーアホか!ガキは学校に通うもんや!学を付けえ学を!
別れの時は近くまで迫っていた。
軍曹が飛び立った翌日、名護屋の夜が炎に照らされた。
火の手が上がったのは城下市街地、『長耳』達の居住区だ。
「森林上等兵!先に戻れ!」
旅団の兵士から借りた四起を走らせて居住区へ。
路上に大量の『長耳』が転がっている。
見慣れた顔の中に見慣れない顔ぶれの死体。
「何があった?」
「は・・・はn・・ら・」
かろうじて生きていた一人から聞き出した。
叛乱
『長耳』の一部が外部の『長耳』と結託して叛乱を企てた。
見慣れない顔ぶれは内通者が外部から引き入れたのだという。今話している男は旅団最初期からの古参、サトーの父の部下だった男だ。
叛乱を諫めようとして交戦、相打ちになったとのことだ。
「い・・・いそ・・・げ・・・」
叛乱派は詩緒を探している。
しかし場所はまだ把握していない。
先に詩緒を保護して脱出しろ。
そこまで言って男は事切れた。
死体と瓦礫で四起で進むのは困難だ。
四起を乗り捨てて家に着くと既に叛乱派がたどり着いていた。「クソ!あの『耳なし』がぁ!」
「なんだありゃあ!もう三人殺されたぞ!」
「早くしないと『腕なし』が戻ってくるぞ!」
「遠巻きにしろ!飛び道具を使え!」
『長耳』の怒号の直後連続した発砲音。
遅れて家に飛び込むと6人の『長耳』、その先には
「シマさん!」
家政婦のシマが銃弾を浴びて倒れていた。
5人は一瞬身を震わせるがサトーを見て余裕を取り戻した。
「なんだぁ?このガキィ」
「脅かしやがって」
子供のサトーを見てライフルの銃身を足下に向け侮りを隠そうともしない。
「ぶっ殺す!」
サトーの動きは速かった。
腰のホルスターから抜いた六連発銃をぶっ放す。一番前の『長耳』の膝を銃弾が叩き潰した。
「がぎゃああああああ!?」
汚い悲鳴とともに見当違いの射撃。
崩れたバランスを保とうとこわばった筋肉が無駄玉を撃たせたのだ。
「ひ、ひいいいいいい!?」
どこかで見た若い『長耳』が二階へ逃げていく。
残る『長耳』は無駄玉からの回避行動で動きが遅れている。
「これを・・・」
その隙にサトーはシマが投げ渡したサーベルを受け取ると膝を打ち抜かれて動けない『長耳』の太ももに突き刺し、捻る。
「うがああああああああ!?」
太い血管を巻き込んで出血とともに悶絶する『長耳』を体当たりで突き飛ばし残る三人からの盾に、そこから六連発銃を撃ち込む。
大人は的がでかい。3発のうち一発が一人の胸部に命中した
「いてえ、いてえよ・・・こいつ撃ちやがった」
「おい、お前、しっかり、死んでる!?」
絶命した『長耳』とみっともなく泣きわめく『長耳』に残りのメンバーが怯む。
「そこまでじゃ!」
サトーの優勢はここで覆された。
先ほど逃げ出した若い『長耳』が右手を挙げて見せびらかしたのは詩緒だった。
何が起こってるのか薄々分かるらしく、暴れる詩緒んい短剣を突きつける。
「この野郎!」
サトーの動きが止まったことで『長耳』達は人質が有効だと悟ったようだ。
「このガキが・・・手こずらせやがって・・・」
若い『長耳』が合図すると取り巻きが銃床でサトーの頭を殴る。
サトーがにらみ返したことで一瞬怯むも、詩緒を捕まえていれば反撃はしてこないことを確認すると残りの取り巻きも優位を確信して殴打に加わった。
「よーし、わしは先に引き上げるぞ!そのガキは任せた」
若い『長耳』は詩緒を盾にじりじりと下がっていく。
「この野郎!待て!」
飛びかかろうとしたサトーが再び銃床で殴られて地面に沈む。「このガキが、二人も殺しやがって・・楽に死ねると思うな」
どれだけ殴られたのか、血がまぶたで固まってよく前が見えない。
全身痣だらけで転がっただけで痛みがする。
それでも手足はまだ動かせる。どうにか反撃して詩緒を追いかけないと。
「しぶといガキだぜ全く・・・」
『長耳』の一人が左手でサトーを釣り上げる。
「おい、そろそろ逃げた方が・・・」
「さっさと始末しちまおうぜ・・・」
仲間が弱気なことを言い出した。
今回の叛乱の目的は『耳なし』に不当に奪われた故郷の奪還だった。
当初の計画では『武器庫』『食料庫』『飛行場』を破壊し、軍を無力化していないといけないはずなのだ。
にもかかわらず同調する同志は思いのほか少なく、さらには抵抗するものまで現れる始末だ。
おかげでそのいずれも達成出来ていない。
『耳なし』が体勢を立て直し、鎮圧に向かっているのが遠目に分かる。
叛乱は絵に描いたような失敗。こうなれば一刻も早く逃げねばならない。
そこにあの若造が、『姫』を救出すると言い出した。
自分は逃げたかったが、それを言い出せる空気ではなかったせいで今も危険な場所にいる。
仲間の言うことは正しい。今このとき、時間は何よりも貴重なのだ。
だが女子供にコケにされて尻尾巻いて逃げるのはプライドが許さなかった。
せめてこのガキは叩きのめさないと気が済まない。
元々いた仲間は9人、家に乗り込んだとき『耳なし』の女が襲ってきて瞬く間に『姫』を救うと息巻いていた3人が斬り殺された。
受けた刀ごと頭をたたき割られる瞬間が頭から離れない。
飛び道具で『耳なし』を仕留めた後はガキが現れて一人を射殺もう一人は出血多量で死んだ。
そしてあの若造が逃げたことで残りは4人。
「え?」
9-3ー2-1=4
おかしい、数が合わない。
瞬間、釣り上げていたガキが落下した。
いや、違う。ガキを持ってた手の感覚がない。
答え合わせをするように、左腕から鮮血が吹き出した。
「腕が、俺のうでがああああああああ!」
仲間だと思っていたやつの一人が放った斬撃で腕をきりとばされた!?
ー変化
腕を切り飛ばした仲間の一人の姿が『耳なし』に変わった。
その姿は、片腕。
「『腕なし』だああああああああああああ!ごっ!」
状況を理解して悲鳴を上げた一人が天地が反転し首を折って絶命した。
『腕なし』
同胞をことごとく虐殺したと言われる化け物だ。まさか実在したとは。
「うわああああああ!」
『腕なし』は逃げようとしたもう一人の進路に既に割り込んでいる。
「ひっ」
命乞いしようとした仲間は喉を裂かれ言葉の代わりに鮮血を吹き出した。
「あ、あ・・・」
だめだ、こいつは、人智を超えている。
先に逃げた若造が酷く怯えていたのを鼻で笑った一刻前の自分が憎い。
いや、叛乱すると言われたとき、特に考えずに話に乗った自分が一番悪い。
今の俺は悪くない。こんなことになるならこんなことはしてない。
だから助けて殺さないで命だけは。
そして、『耳なし』は反転し地面に口づけして首を折って絶命した。
解放されたサトーは軍曹に駆け寄る。
「軍曹!どうしてここに!?」
軍曹は偵察任務で名護屋を離れたはずだ。
軍曹はサトーの質問には答えない。
「森林上等兵!」
号令に姿勢を正す。この名前で軍曹がサトーを呼ぶときはのっぴきならないときだ。
そこに鍵が投げられた。
「戦闘はまだ終わっとらんぞ上等兵直ちに追撃し誘拐された詩緒を奪還せなあかん分かったか!」
「はっ!」
「外人部隊より連中が海に逃げたと報告を受けた外のオートバイを使え!復唱!」
「賊は海に移動中!直ちに追撃に移ります!オートバイはお借りします!」
「よし行け!」
横たわるシマを一瞥、軍曹はここは任せろと手を払う。
サトーはオートバイにまたがるとスロットルを全開して南を目指す。
「森林上等兵、武運長久を・・・」
夜の闇に消えていくサトーにかけた軍曹のつぶやきはサトーに追いつくことはなかった。
to_be_continued




