-the_Sentinel- 第二十話
-the_Sentinel- 第二十話
閃光弾が洞窟内に投入され洞窟の入り口から強烈な光が吹き上げる。
「突入!」
『帳簿係』の号令一下外人部隊が洞窟内に突入。
「中は迷路みたいになってる。通路は狭くて大人数を展開できない」
『長耳』は内部で各個撃破を狙ってくるはずだ。
現地転生者のヨシュアは紙に書き殴った見取り図を指しながら説明する。
入り口の位置からの最短経路、神器の保管位置、彼の仲間の監禁されてる場所。
これはヨシュアが脱出のために準備していたものだ。
学園の中では比較的優秀だったヨシュアは外敵の排除のために外に出ることをある程度容認されていた。
道に迷ったフリをしながら内部を調べていたのだ。
自分の歩幅を元に縮尺も大まかに合わせて書いている。
「なんだ、まっすぐ行けばいいのか。簡単だな」
『帳簿係』は入り口と神器の位置にまっすぐ線を引く。
「散開!」
転生者達は銃鎧を盾に洞窟を進み、分岐路で散開、互いの背後を守る。
まばらに銃鎧に弾が当たる音。
やはり内部で各個撃破を狙うつもりだ。
「よしお前ら時間を稼げ、道を開くぞ」
ーアクティブスキル:物質召喚
ー基準値指定:決定
ー相対座標:0,0,0
『帳簿係』は右手に防火斧を召喚しつつ振り上げる。
ー重撃破砕
斧が壁にぶつかると衝撃が広がり壁を粉々に粉砕した。
そして開いた壁から銃鎧を装備した前衛が閃光弾を投げつつ前進する。
『帳簿係』が使った斧は衝撃に耐えきれず粉々に砕け散っていた。
「まっすぐ行けばいい、簡単だろ?」
ヨシュアはしれっと言ってのける『帳簿係』と自分が書いた見取り図を見比べる。
「一ヶ月かけたのがバカみてーだ・・・」
「第三防衛ライン!突破!」
『長耳』の悲鳴のような報告を聞きながらもサトーは特に驚きはなかった。
「『中隊』集結、ここで迎え撃つ」
異世界の勇者ならこのくらいは難しくないだろう。
むしろまっすぐ来てくれるなら余計な犠牲を出さずに済む。
ー重撃破砕
「最終防衛ライン突破!」
最後の壁が砕け、煙と閃光の中異世界の勇者が姿を現す。
「「お前が、頭か?」」
前に出た赤い腕の勇者とサトーが同時に放った言葉は奇しくも同じ内容だった。
「外人部隊緋本原支部所属:『赫腕』。この小隊の指揮官をやってるよ」
淀みなく答えた赤い腕の男に対しサトーはなめらかな日本語を返しながら。腰の鞘からサーベルを抜く。
「森林智。会えて光栄だ。軍曹の後継者」
言うが早いかサトーが動いた。
ー突風
室内の空気を圧縮して赤い腕の男に放つ。
「!?」
風圧で足を止め巻き込んだ砂塵で視界を奪いその隙に接近。
右手のサーベルを一閃。
地を這うように薙いだサーベルが狙うのは踵の腱。
ーアクティブスキル:物質召喚
ー基準値指定:決定
ー相対座標:0,-20,0
ー間隔:複写
ー反復回数:4
ガキン!
赤い腕の男によって召喚された4本の斧が地面に突き刺さりサトーの攻撃を阻む。
「よく読んだ」
「まぐれだよ」
感嘆するサトーに構わず『帳簿係』は振り向きざまに斧をひっつかんで叩きつける。
ー重撃破砕
叩きつけた斧もろともサトーがいた場所が砕け散る。
砕けた地面が砂塵となって舞い上がる。
「それは悪手だな」
砂でサトーを見失った一瞬をサトーは逃がさない。
ホルスターから抜いた六連発銃の弾丸を振り向いた赤い腕の男に叩き込む。
「がっ!?」
赤い腕の男の頭の頭がのけぞる。
「?」
だが赤い腕の男は倒れていない。
ーアクティブスキル:筋力強化
地面にめり込んだ次の斧をひっつかむと腕の力のみで振り回す。
「おっと」
目的を定めず、腕のみの攻撃はでサトーを捕らえることはできない。
サトーは苦もなく回避して斧の射程外に退避。
「!?」
そこでサトーは『帳簿係』の狙いが別にあることに気づいた。『帳簿係』は振り回した斧を勢いのままに投擲、斧が向かう先は部屋の奥の神器、その中心部で神器の燃料として内臓を啜られている異世界人だ。
ー重力斬(重力斬)
ーパッシブスキル:絶対防御
命中する直前で神器の防御機構が発動し、斧が燃料を破壊することは敵わなかった。
なるほど、神器の燃料を奪い結界を無力化する。
最初から狙いはそっちだったか。
神器の防御機構がなければこの時点でこの戦は赤い腕の男に軍配が上がっていた。
「素晴らしい・・・」
サトーは感嘆する。
なんという強さ、なんという機転。
恐るべし、異世界の勇者
恐るべし、軍曹の後継
駆け巡る緊張、煮えたぎる高揚、立ち向かうスリル。
半世紀を超えて巡り会う強敵。
待ち望んだ本土の再来。
「よか、格好よか・・・」
サトーはサーベルに理力を流し込み次の攻撃に備える。
次はどこから攻めようか。
「ぶっ・・・ああ、クソっ」
顔面を貫く寸前に歯で『食い止めた』弾丸を吐き出した『帳簿係』は未だ戦意が衰えない森林智と名乗った『長耳』に毒づく。
まずいぞ、全く勝てる気がしない。
先の二撃ではっきり分かった。自分の動きではあの『長耳』を捉えるのは『技術的に不可能』だ。
自分が一手繰り出す間に二手以上動いてる。
こういうすばしっこい相手は斧を大量に召喚して面で攻撃するのが『赫腕』のセオリーだが、やつはそれより速く自分の喉元に迫る。
ベヒーモスの皮をなめした外套とハットは並の武器や奇跡は防げるが、向こうもそれを的確に把握して防御が薄い場所を的確に狙ってきた。
それに、新たに武器に理力を付与してると言うことは、あの男が狙える範囲は更に広がったと考える他あるまい。
さっきの不意打ちが成功していればあとは逃げるだけだったのに完全にアテが外れた。
「セシリアちゃんがいたらな・・・」
あの『長耳』の動きが速くとも、神童:妖鳥なら追いつけるだろう。
あの子は自分のような有象無象とは出来が違う。
もっとも、妖鳥がここにいればこの島に出張ってくる必要もなかった訳だが。
「ま、しょうがないな」
ーアクティブスキル:物質召喚
ー基準値指定:決定
ー相対座標:0,0,0
右手に小型の手斧を召喚。
うだうだ無い物ねだりしてる間にあの『長耳』が何かしてきても面倒だ。
有象無象は有象無象なりにやるしかない。
神器目がけて斧を振りかぶると同時、森林智も地面を蹴った。
「こっちだ」
ヨシュアは外人部隊3名を引き連れで迷宮を進む。
『帳簿係』を除くと9人いる外人部隊は現在3つに別れて行動している
3人が神器の間正面で増援の妨害
3人がヨシュアに付いて第二目標を目指す
残る3人はヨシュア達への追撃の妨害だ。
「『帳簿係!』こいつら手強いぞ!そっちの援護は出来ない!」
「ああもう!分かったよ!」
あっちが苦戦してるならこっちの責任は重大だ。
ヨシュアが目指す第二目標は、学園の転生者が監禁されている牢獄だ。
神器は転生者の内臓を食って動いている。逆を言えば、内臓を供出できる転生者がいなくなれば神器は停止する。
作戦はこの二段構えだった。
「ここだ」
監獄には学園の仲間が捕らえられていた。
「ひっ!?」
学生達は次の生け贄になるかと身をすくめたあと、『長耳』ではないことに気づき怪訝な顔になり、見知った顔を認めて色めき立った。
「ヨシュア!」
「まじ?あのデブ生きてたの?」
「何でもいいわよ」
「ヨシュア!信じてたわ!愛してる!」
ヨシュアは調子のいい学園生に深くため息をついた。
「小僧、こいつらか?」
「見りゃ分かるだろ」
外人部隊はヨシュアに確認を取ると牢獄内に散開した。
「よし、全員殺せ」
牢獄内に機関銃の轟音と金属音、学園生の悲鳴が響き渡った。「ちょっとヨシュア!どういうこと!?」
「なんで?助けが来たんじゃないの!?」
「出して!ここから出して!?」
これは突入前に決まっていたことだ。
ここを目指した目的は神器の燃料供給の遮断だった。
学園生の生死は目的に関係はなく、足手まといを庇いながら『長耳』と戦うのは外人部隊に取ってリスクでしかなかった。
ーあそこにいるやつらは救出しても戦力にならないよ。そう思われたからあそこに閉じ込められたわけだし、やる気もないし、都合が悪くなると裏切るやつらだから。
ヨシュアもこのことは承知で案内している。学園が島に流れ着いたとき、自分を『長耳』に売り渡したやつらだ。
それに、こいつらは幼馴染みが学園の仲間を救うといって反対を押し切って軍曹に挑み、力及ばず命を落としたときもヘラヘラと髪いじりにかまけていたし、裏で『長耳』に腰を振って自分だけ助かろうとしていたやつらで、ヨシュアにとってはおぞましいゴミでしかない。
もっとも、そのおかげでヨシュアはある程度行動の自由が生まれ、逃げ出す隙が出来たわけだ。
「ヨシュア!てめえ何してんだ助けろボケ!」
「ボケッとすんなこのデブ!」
「なんであたしがこんな目に!」
ー火炎弾
恥も外聞もなく喚き散らす学園生にヨシュアは自ら手を下す。「助けて欲しかったらイリーナちゃんくらい愛想良くするんだったな」
別行動で空母に向かった赤毛の娘に思いを馳せながら、ヨシュアは外人部隊の任務に加わった。
『帳簿係』とサトーの戦いも佳境にさしかかる。
幾度もの斬撃で『帳簿係』の防具は短冊のように切れていた。切れて開いた穴を狙うサトーの刺突を『帳簿係』は腕で受ける。
「!?」
抜こうとしたサーベルを骨に引っかけ、筋肉を締めて食い止める。
ーアクティブスキル:筋力強化
その隙にもう一本の腕で手斧を神器に向けて投げる。
ーパッシブスキル:絶対防
攻撃を試みること18回。
ここに来て、神器の燃料が切れた。
不十分な防御機構は『帳簿係』の斧の侵入を許し、燃料となっていた転生者の頭を叩き潰した。
一瞬遅れて、サーベルを手放したサトーが『帳簿係』の外套をひっつかんだ。
ー山嵐
日本、軍曹が生まれた国の柔道と呼ばれる殺人術。
サトーの狙いはこれだった。
赤い腕の男に斬撃による攻撃を十分印象づけた上で、必殺の間合いに持ち込み、必殺の技術で仕留める。
だが、それも覚悟の上で赤い腕の男は結界を解除してのけた。
恐るべし、『赫腕』
恐るべし、軍曹の後継
『帳簿係』の体を浮かせたところで、『帳簿係』の外套が限界を迎えた。
幸運にも外套が破れたことで技は完全に決まり切らず、『帳簿係』は背中から地面にぶつかった。
「よか・・・」
サトーは横たわる『帳簿係』に右手を差し出す。
これほど気持ちのいい負けは初めてだ。勝者への敬意を示すほかない。
「どうも・・・」
背中の痛みに軋む『帳簿係』も右手を出す。
このまま続けたら確実に死んでた。『長耳』の意図は知らないが命が助かるならそれに越したことはない。
「さとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
なんかいいムードになってたところに空気を読めないやつが乱入してきた。
神器の間の入り口ではない、壁をぶち壊して現れたのは
「『長』?」
「なんだ?あのでかいの」
集落から生き延びた『長』と高齢雌の鎧アシラだ。
「どいつもこいつも、わしをコケにしやがって・・・お前ら全員皆ご
『長』が叫ぶ前に鎧アシラが『長』の上半身を食いちぎった。
鎧アシラは『長』の制御下にはない。ただ、餌に餌の場所に案内させただけだ。
だが、餌を求めていたのは鎧アシラだけではなかった。
生け贄を失って機能を停止していた神器が飛び散った『長』の血と内臓で息を吹き返す。
そして見つけた。
次の燃料を。
神器はその丸い躯体を開くと中から無数の金属の触手で鎧アシラを捕まえる。
鎧アシラもまた神器を燃料に定める。
互いが互いを捕食しながら二つが一つになっていく。
「これまずくない?」
「どうもそのようだ」
サトーと『帳簿係』はここに来て意気投合した。
「「非常事態発生!総員退避!」」
神器を取り込んだ鎧アシラ、鎧アシラを取り込んだ神器。
外来種:暴虐獣神 出現
猛る黄金の獣に反し激戦を経た二人の戦意は低かった。
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