-the_Sentinel- 第十九話
-the_Sentinel- 第十九話
「集落組は突入したようですね」
集落の『長耳』が戦闘態勢に入ったのか敵を示す赤い光点が増えた。
「こっちも急ぐか」
大塚大尉率いる空挺部隊に付いて森の中を進む僕らの前方にも赤い光点が灯る。
フェイスマスクが見張りに立っているようだ。
見張りがいるってことは目的地の空母は近いと言うことか。
「もう見えとるとよ」
マジかよ、でかい鉄の壁だと思ってた。
「どうやって侵入します?」
おっさんが大塚大尉に耳打ち。
「そうだな、まずはやつらの装備を奪う。その後空挺部隊とそこの熊で騒ぎを起こして注意を逸らし、突入部隊が内部に侵入する」
その突入部隊のメンバーは大塚大尉、おっさん、チビ、シオ、そして僕だ。
「5人分の装備を入手しないとな」
装備を奪うのはシオと空挺部隊だ。シオはライフルの銃口に筒を取り付けると森に踏み込んだフェイスマスクを狙撃。
さらに、帰りが遅いのを怪しんで入り込んだフェイスマスクを空挺部隊が手早く片付ける。
「よし、装備を奪うぞ」
装備を着替える僕らの上空が明るく照らされた。
あれは、戦闘ヘリじゃねーか!
「オニヤンマですね。探照灯で照らされたら一発で見つかりますよ」
冷静な分析をどうも。あとは見つからない方法を教えてくれよ。
探照灯を撃とうとするシオを大塚大尉が止める。
探照灯を撃てば自分たちは見つからないだろうけど自分たちがいることは悟られてしまう。
「どうすると?」
「あいつを使う」
あいつというのはチビが連れてきた熊だ。
熊のセルゲイは上空を飛ぶ攻撃ヘリとチビを見比べるとのそのそと離れていった。
それからしばらくして。奪ったフェイスマスクの無線機から切羽詰まった通信。
「侵略的外来種出現!防御態勢!」
「オニヤンマを呼び戻せ!空爆で仕留めろ!」
あ、探照灯がどっか行った。
「煙幕だ!敵は外来種だけじゃない!」
空挺部隊も陽動を開始したようだ。
「よし、行くぞ!」
手早く装備を着替えた大塚大尉の号令とともに僕らはセルゲイ&空挺部隊とは逆方向から空母に接近する。
逆サイドでは激しい砲爆撃が繰り広げられる中、僕らは空母の横の切り欠きに付いたエレベーターからまんまと中に侵入することに成功した。
まんまと空母内に侵入した僕らは次の目的地を目指す。
「空母が展開している『結界』は『強暴領域
』、海洋性外来種を凶暴化させる効果があります」
お祭り騒ぎの格納庫を抜けるとおっさんが『制地』の奇跡で内部のレイアウトを掴み、僕の『鷹の目』で安全な場所を見つけて艦内のコンピューターで得た情報だ。
「結界を解除する方法は二つ、CICで術式を解除するか動力を停止させるかですね」
「CICに一票」
僕は即答する。この空母の動力は核、つまり原子炉だ。
ミスったらチリも残らなくなるから僕はそっちには近づきたくない。
「よし、CICを目指すぞ」
即決。
CICを目指し艦内を進む僕らの前にまた新手が現れた。
なんか蛇皮みたいなスーツを着た外人顔のオバハンがナイフ片手に立っている。
「井上大佐!」
この新手に一番衝撃を受けているのは大塚大尉だ。
「え、何?知り合い?」
ここに来て新しい設定!?
「久しぶりね新兵」
「井上大佐、なぜ裏切ったっ!」
「全ては祖国のため」
「その祖国にあなたは銃口を向けているんだ!」
状況が分からない僕を置き去りに大塚大尉と井上大佐は勝手に話を進める。
ナイフを構える井上大佐を油断なく銃口で睨む大塚大尉。
いや、その、僕ら凄く場違いな感じになってない?
「撃てばよか」
空気を読まないシオが間合いに入る前にライフルの狙撃を試みる。
ーパッシブスキル:自己防衛
て、速っ!
今の一瞬で僕らの近くまで井上大佐が近づいてる。
自己防衛がなかったら一瞬で喉を掻き切られてた。
全自動で盾にした自動小銃は喉を撫でた一瞬で弾を抜き取られてる。
「く!?」
しかももう次の瞬間には既にシオの間合いに近づいている。
射撃は間に合わない。
シオは銃身を返しストックによる反撃を試みるもそれも防がれる。
シオは続いて腰の銃剣を抜いて井上大佐を狙う。
その腕に井上大佐の腕が、巻き付いた。
バキン!
直後にシオの腕が本来曲がらない方向に折れ曲がる。
「うがあああああああ!」
骨を砕かれた激痛にうめくシオに井上大佐は攻撃の手を緩めない。
折れた腕を庇ったことでがら空きになった鳩尾に重い追撃を食らってしまう。
「ごぶっ!?」
呼吸が止まり前に折れ曲がったシオの延髄に手刀が叩き込まれシオは地面に沈められた。
「接近戦ではナイフの方が速い」
さっきの一瞬で抜き取ったシオのライフルの部品を捨てるとうずくまり悶絶するシオを井上大佐が悠然と見下ろす。
「う、あが、っ」
ダメージが大きすぎて動けないシオに井上大佐がとどめのナイフを向ける。
「ボスううう!」
それより一瞬速く大塚大尉の銃撃が妨害。
井上大佐は柳の枝みたいに銃を躱すと次の目標を大塚大尉に定めた。
大塚大尉は銃をナイフに素早く持ち替える。
すさまじい速度で繰り出されるナイフを大塚大尉のナイフが迎撃。
「やるようになったな」
「機関室へ行け!」
「言われなくてもそうするよ!」
これ以上こんなバケモンみたいなオバハンに関わってられるか!
僕は自分の配置に戻るぞ。
「行きますよイワン君」
おっさんがチビを引きずってCICに向かう。
僕は悶絶するシオを担ぐと煙幕を張って斬り合う大塚大尉と井上大佐が煙の中に消えるのを尻目にその場を離脱した。
「なんなんだあのオバハン!」
「井上大佐、元佐瀬穂旅団所属、空挺部隊の教官のようです。書類上は3年前に戦死しているようですね」
「なんで死んだやつがここにいてあんなに強いんだよ!?」
冗談じゃないぞ。
あんなリビングデッドから逃げ回りながらCICを目指さないといけないなんて。
逃げる時に大塚大尉が打った一芝居に引っかかって機関室に向かってくれるといいけど望み薄だな。
「それより厄介なのは、我々が接近を察知できなかったことです」
あのリビングデッドの存在は僕らが肉眼で見るまで分からなかった。
おっさんの『制地』は地面で接している全ての情報を得ることができる。
そして僕の『鷹の目』は壁越しでも敵の接近が分かる。
この二つの奇跡をあの大佐はどうやってかかいくぐることができるということだ。
何よりこれが厄介だ。
「大塚大尉がどれほど抑えていられるか・・・」
あるいは倒してくれれば大助かりだけどさっき見た感じだと押され気味だったし、そっちも余り期待できそうにないな。
僕らは今食料庫の冷蔵庫に隠れてる。
窓がなくても僕らは外の様子が分かるからな。
フェイスマスクどもは真面目なのかつまみ食いしに来るやつがいない。
しばらく安全そうだ。
「お、おい、だいじょうぶかよ」
チビのイワンが苦しんでるシオを揺さぶる。
「やめろバカ」
僕はチビの頭を小突くと注射を出す。『帳簿係』から追加で支給された回復用の薬だ。
自分が危なくなった時のために取っておきたかったけど、今最高戦力のシオを失うと僕、貧弱な中年、貧弱なチビの3人ではそこらのフェイスマスクにも勝ち目がないからこれを使ってシオを復帰させないとどうしようもない。
「よしやるぞ」
治療の前にシオの服を脱がせる。
体は小さくとも健康的な肌を『鷹の目』で見る。
腕の骨を砕かれて内臓も傷ついてるのか黒ずんだ血を吐いてる。
ちゃんと直すには適切に打ち込む必要があるぞ。
『龍脈』に打たないと効果が十分発揮されないからな。
それにしても太い『龍脈』だ。僕らのようなパンピーより強力な奇跡が使えるのも納得だな。
「腕を固定します」
おっさんが包帯と板で折られた腕を固定する。
「わ、悪く思うなよ・・・」
次いでチビがシオの口を縛る。
急速な治癒の激痛で暴れて舌を噛まないようにするためだ。
『龍脈』が集まる場所、細身ながらちゃんと肉のついた背中の中心に集まってる。
そこに注射を注入。
「よし、みんな押さえろ!」
同時じシオの全身の『龍脈』が活性化して光り始める。
「~~~~~~~~~~~っ!?」
損傷した骨と筋肉、内臓が活性化した祝福によって修復。
傷が治る時はダメージ受けたときの状態を逆再生してる感覚になるからめちゃくちゃ痛い。自分も味わったことがあるからよく分かる。
「っ!?ふぉpふpふ!」
激痛で暴れるシオを三人で押さえる。
「うわ!?」「ぎゃ!?」
訂正、僕一人だ。貧弱二人は一瞬で跳ね飛ばされた。
なんて力だ。
背中から羽交い締めにしてるけど振り落とされそうだ。
前に回した手にある柔らかい感触を楽しむ余裕もない。
「ご、ごぼ!?」
内臓が修復したことで中に溜まっていた血が口から噴き出した。
もう少しだ。
「ふー、ふー」
格闘すること体感一時間くらいでシオはおとなしくなった。
「はー疲れた・・・」
床に寝転んだ僕を回復したシオが見下ろす。
「治ったばい」
シオは骨折が治った腕で血で真っ黒になった猿ぐつわを取り外した。
とりあえず薬は無駄にならずに済んだ。
「よし、行くぞ」
シオの回復を確認した僕らは冷蔵庫から這い出してCICを目指す。
ー『鷹の目』
ー『制地』
敵に会わずに済むルートを探す。
「大塚大尉とオバハンは?」
「どちらも発見できませんね」
ここで注意しないといけないのが蛇柄のオバハンだ。
あのオバハンは僕らの奇跡をどうやってかかいくぐるからな。
「大塚大尉が抑えてるようですね」
「なんでそう思うんだよ?」
「大尉が敗れれば大尉の死体が見つかるからです」
おそらく両者は潜伏し互いの隙をうかがう膠着状態に入ったのだとおっさんは分析する。
「違ったらどうすんだよ」
チビのイワンが不安も露わにおっさんに詰め寄る。
「そうなったら死ぬだけですよ」
そうそう、対策できないことをうだうだ考えてもしょうがない。
「チビ」
僕はなおも文句言いたそうなチビが持ってる自動小銃をシオに渡すように指示する。
こいつが持ってるよりシオに使わせた方がいい。
シオは受け取った自動小銃の使い方を確かめ、銃床の長さを合わせる。
「頼むぞシオ、君がいないとCICを制圧できないからな」
「よかとよ、勇者様」
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