-the_Sentinel- 第十八話
少なからぬ犠牲を払い鎧アシラを無力化した『長耳』達の短い安息は集落の周りに発生した土壁により終わりを告げた。
「ひ、ひいいいいい!サトー!サトーを呼べ!」
半狂乱で喚き散らす『長』の醜態を脇目に『長耳』達は対応にかかる。
「サトー、あれはなんだ?耳なしの襲撃か?」
意見を求められたサトーは首肯する。
だがそれだけではない。
『耳なし』これほどの術を使うには大がかりな設備、機械が必要になるはずだ。
この島の中でそれが見つからないとなれば、考えられる可能性は一つ。
「おそらくは、異界の勇者がいる。どうやってか島に揚陸したらしいな」
「馬鹿を言うな!貴様臆病風に吹かれたか!」
『長』の怒号、しかし誰も同調しない。
神器の結界は完全ではない。
『生け贄』の交換時に解除されるし、海底深くには影響を及ぼせない。
事実、『海から来たやつら』が『鉄の魚』を使って海中から物資を輸送しているのを既に『中隊』が確認している。
サトーの言葉は誰もが認める、具体的で実行可能な可能性だった。
「いずれにしても迎撃が必要だ、まず
「総員戻れ!土壁に隠れている耳なしどもを血祭りにしろ!」
サトーの言葉を遮って『長』が島中に展開している『長耳』に招集を掛けた。
『長』はサトーが嫌いだった。
サトーとは本土にいた頃からの付き合いだったが、こいつ、いや、こいつの派閥とはソリが合わなかった。
こいつは本土の『耳なし』どもに媚びを売るクズのようなやつだった。
忌まわしい軍曹に集落を焼き払われ、この野蛮な島に落ち延びた後もこいつは自分を差し置いて仕切りたがった。
口を開けば本土の話ばかりするこのガキに仲間が付き従うことがとにかく不愉快だった。
若い衆などはこいつに心酔して『中隊』などと言う不良グループを作る始末だ。
この男が何か結果を出す度に、この男の影響力が上がっていくことは屈辱でしかなかった。
「『長』!集結中の同胞が攻撃を受けてるぞ!」
見れば周囲の森から火が吹き上がっている。
「空爆だ。恐らく昼間の『兵器』によるものだろう」
『耳なし』を迎撃すべく土壁をよじ登ろうとしたところで捕捉され、機関銃の餌食になっているのだ。
「『長』!次の指示を」
「ひっ!?」
『長耳』達の視線が集まり『長』が怯む。
全員の目が語っている。
この失策はお前のせいだと。
「いや、これは、その・・・」
「集結中の全員散開せよ!『中隊』は第二防衛ラインに集結、そこで迎え撃つ」
『長』が言い訳を考えてる間にサトーは次の指示を出していた。
「この土壁は囮だ。我々の捜索能力を妨害して本体を突入させる算段だろう」
「どうしてそれが分かる?」
「土壁の高さが人間を隠せるだけの高さになっているからな。それに、地面をひっくり返して集落を攻撃するには範囲が広すぎる」
サトーは淡々と敵の動きを分析する。
土壁がある限り森からの狙撃は不可能だ。
そして、これほどの土壁を発生させる術は長く持続はできないだろう。
だから敵は最短で目的地に向かってくるだろう。
「サトーさん、すげー!」
若い『長耳』からの崇拝のまなざし。
「連中の目的は一つ、結界を展開している神器だ。そこに戦力を投入し迎撃する。それまでは戦力の消耗を抑えることを優先してくれ」
サトーは『中隊』に招集を掛けると『中隊』を引き連れて迎撃の準備にかかる。
そして『長』が残された。
外人部隊
「抜けるぞ!集落だ!全員防御陣形!」
『帳簿係』の号令一下併走する転生者達が前に出る。
「銃鎧展開!」
坑道のハーフフットから受領した工兵用装備:銃鎧は傘状の盾と銃眼、車輪が着いた即席の防御陣地だ。
さらには単気筒エンジンにより短距離の移動は自動で行える。「小僧頭を下げろ!戦場では礼儀正しいやつが生き延びるんだ!」
「土壁が持たない!」
若干遅れつつもヨシュアが銃鎧に潜り込む。
地面師から通信、直後土壁が崩れ集落から銃弾の雨が降り注いだ。
想定通り熱烈な歓迎だ。銃鎧がなければ即蜂の巣だ。
「狙撃地点を特定しよう」
『帳簿係』はヨシュアを呼び出す。この小僧は半年近くこの集落にいた。それなりに腕が立つとのことである程度の自由行動が許されてて集落の内部にも通じている。
「天井に当たってる。櫓からの狙撃だ」
櫓の場所は5カ所、集落の四方と中央。
「よし、やるぞ!煙幕を張れ!」
ついで銃鎧の周囲に発煙手榴弾がばら撒かれる。森の中では意味のない攪乱だが、地面師の奇跡によって地形が変わった今なら話は別だ。近くに植物がないためこちらの正確な位置が分からなくなったのか狙撃の音が減る。
「狙撃砲!打ち方はじめ!」
銃鎧の銃眼から小型の火砲を放つ白い煙の中に赤い火柱が吹き上がり、直後に狙撃砲が狙撃され破壊される。だがこれも想定内。
「『帳簿係』!行け!」
狙撃の注意が逸れたと同時『帳簿係』は銃鎧を飛び出し、コート内の手斧を取り出す。
ーアクティブスキル:筋力強化
「うおおおおおおおおおお!」
そして手斧を集落目がけて投擲。
「何やってんだ!?」
小僧が絶叫する。櫓は5つ、投げた斧は一本、これでは有効打にならない。
「まあ見てろ」
ーアクティブスキル:物質召喚
ー相対座標
ー基準値指定:決定
ー間隔:複写
ー反復:10000
『帳簿係』の奇跡発動。
これは特定の場所に保管してある無生物を任意の座標に召喚する奇跡だ。
転生して10年、それなりに強くなった『帳簿係』の力を並の武器で受け止めることは困難となっていた。
だから、壊れたらすぐ次の武器に持ち替える必要が生じたために取得した奇跡だったが、存外役に立つ。
投げた手斧の周囲に召喚された無数の手斧は一瞬にして空間を埋め尽くし、集落全体に降り注ぐ。
ー重力斬
追加の奇跡により威力を増した手斧の雨は集落を構成する全てを叩き潰した。
『長』
「撃ちまくれ!耳なしを皆殺しにしろ!」
『櫓の上から『長』の怒号。
「サトーは後退しろって言ってるぞ!」
櫓の『長耳』達は指示通りに煙幕を展開する『耳なし』を狙撃しながら明確に反発する。
「貴様ら、臆病風に吹かれやがったらわしが殺してやるぞ」
狙撃を続ける手下を散弾銃で脅す。
どいつもこいつも、サトーサトーと。
不愉快だ。何もかもが不愉快だ。
こうなったのも全てあの『耳なし』:軍曹のせいだ。あいつのせいで今の苦境があるのだ。
だから軍曹の仲間も軍曹に取り入るサトーも不愉快だ。
「斧?」
「なんだぁ!?」
手下の間抜けな物言いに釣られ上を見る。
斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧斧
ぐらぐらと煮えたぎる『長』の怒りは空を埋め尽くす斧に塗りつぶされた。
「な、なんだ?」
「退避!総員退避!」
『長』の指示を待たず『長耳』達は一斉に逃げ出す。
ー重力斬
『耳なし』の術によって威力を増した斧の雨が全てを押しつぶしていく。
外敵に備えるために作った櫓も、臆病者を逃がさないための柵も。
手下どもを飼うための家も、いつか軍曹を捕らえてむごたらしく殺すために作った闘技場も全てが斧に埋め尽くされ崩れ去っていく。
『長』は崩れる櫓の中でその光景を眺めることしかできなかった。
「よし、こんなもんか」
集落破壊と同時、すぐさま銃鎧に身を隠した『帳簿係』は鏡を使い反撃が来ないことを確認する。
「『帳簿係』、残敵の掃討に入るぞ」
「気を付けろよ」
『帳簿係』の周囲に展開していた銃鎧が散開する。
既に勝負は決していたが、任務は勝負ではない。
そのことを転生者達はよく理解していた。
たとえ勝負に勝っても流れ弾で死ねば任務では負けだ。
動くものは全て撃つ。
それができる者だけが外人部隊で生きることを許される。
なおも抵抗するものは斧で叩き殺し命乞いするものは機関銃で撃ち殺し瓦礫に埋もれて身動きできないものは黄燐弾で焼き殺す。
自分の命のためなら他人の命を惜しんではならない。
ましてそれが害獣の命ならためらう理由などありはしないのだ。
崩れた櫓の下から『長』は『耳なし』が同胞を殺していく様を眺めていた。
「ちくしょう!お前のせいだ!サトーの言うとおりにしてれば!ちくしょう!ちくしょう!」
『長』に呪いを吐く同胞が斧を持った赤い腕の『耳なし』に叩き殺された。
見つかったら殺される。
これまでくすぶっていた怒りは純粋な恐怖に塗りつぶされた。『長』にできることはただ祈ることだった。
気づかないでくれ、見逃してくれ、死にたくない。
その願いは誰にも届かなかった。
『耳なし』の一人が気づいた。
「ひっ!?」
こいつは知ってる。
この島に転生した勇者の片割れ、どさくさに紛れて逃げ出したやつらの一人だ。
そいつと目が合った。
「あ、あ、、あ」
悲鳴は出ない。恐怖で息ができない。股ぐらから暖かいものが漏れ出す。
「おい、そっちはどうだ?」
勇者の片割れに赤い腕の『耳なし』が近づいてきた。
もうだめだ。
こいつは『耳なし』の中でも別格に強い。身動きできない状態では逃げることもできない。
終わった。
ー火炎弾
勇者の片割れが火球を放つ。
『長』は逃げることもできない。
爆発。
「全員死んだ」
「そうか、行くぞ」
「神器はあっちだ。危険だからって集落からは離れたとこにあるんだ」
掃討を終えた外人部隊は部隊を招集し、神器へ向けて移動を再開した。
静寂の中、櫓だった瓦礫の中から這い出したのは『長』だった。
勇者の片割れが放った火球は『長』に当たらなかった。
周辺の瓦礫が吹き飛んだことで這い出ることができるようになったのだ。
「ちくしょう…」
だが『長』には安堵はなかった。
最後に見せた『耳なし』の目が気に入らない。
あれは弱い者を見る哀れみの目だ。
殺す価値もないと、敵とすら見ないのかっ。
わしに向かって、『耳なし』に分際で、あいつがそうしたように、哀れみをっ!
「ちくしょう、ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
集落に残った最後の命から放たれた慟哭は、しかし誰の耳にも届くことはなかった。
to_be_continued




