-the_Sentinel- 第十七話
-the_Sentinel- 第十七話
19:55 北千練島
Side:空母組
「Attention.」
ギリギリまで缶詰の魚を掻き込んでた僕を『鉄乙女』が振り向かせる。
「いででででででえでで!?首もげる首!?」
なんて馬鹿力だ。
こんなの相手にしてたら命がいくつあっても足りないぞ!?
「手短に頼むよ」
あと缶詰三つは食いたいからな。
「Take_this.」
僕、おっさん、チビ、シオに何かのカプセルが渡された。
なんだこれ、予防接種か?
「小型発信器だ。脱走、叛乱防止のために作戦前に服用する。味はしない」
大塚大尉が説明を引き継いだ。
なるほど?僕らが逃げると思ってるのか?見くびられたものだ。できるんだったらとっくにやってるよ。
逃げたとしても僕みたいなパンピーが外来種と蛮族ひしめく島で生存出来るわけないだろ。
「味がせんと」
シオはノータイムでカプセルを飲んだ。僕らと違って島の地理に詳しいシオはごねると思ってたから意外だ。
「敵は同じたい」
これから戦う相手はシオ達『長耳』にとっても共通の敵だから協力は惜しまないらしい。
坑道からは森伝いに空母に接近することになるけど、道案内と露払いをしてくれるそうだ。
「そりゃどうも」
無味無臭のカプセルを缶詰の出汁で流し込む。
この塩味、米が欲しくなる。
「梅干し綾子ならあるぞ」
「いらねえよ!」
気が利かねえチビだ。
「集落組から入電、まもなく作戦を開始するそうです」
「よし、やつらがナガミミザルをおびき寄せたら坑道を出て作戦開始だ」
19:58
Side:集落組
『帳簿係』は坑道の出口を見る。夜空には星、月は見えない。空挺部隊の機導兵:『鉄乙女』が言うにはナガミミザルは森林地帯での索敵能力が極めて高い。
坑道を出たら四方八方から狙撃を受けるのは確定と言うことだ。
「さすがだな」
旅団所属の戦闘特化兵器:機導兵、それも初期から活動している個体はいずれもインテリだ。知識として知ってはいたが実際目の当たりにすると衝撃がある。
近年、この強く賢い兵器が各地の旅団に急速に配備が進んでいることは外人部隊にとってはあまり面白い状況ではない。
現在、機導兵と同等の知能と奇跡を持ち合わせた転生者はほとんどおらず、同等の戦力まで育てるにも相当な投資が必要となり、その過程で大半が脱落する。
そして、数少ない機導兵と同等に戦える戦力がこの間拘束されてしまった。
妖鳥
9歳という若年でこの世界にリスポーンして10年で第三位(銀等級)までのし上がった神童。
彼女とは同時期の転生になるが、自分とは僻む気も起きないほどの圧倒的な才能の差があった。
そして、問題は多いが優秀な師を得てメキメキ才能を伸ばしていったのは今でもはっきり覚えている。
その妖鳥を持ってしても緋本原の機導兵:『緑の悪魔』を倒しきることができなかったと言うのだからもう転生チートはこの世界では斜陽と言うほかないのだろう。
まったく、面倒な時期に先代から『帳簿係』を引き継いでしまったものだ。
20:00
「大塚大尉より入電」
空母組は準備できたようだ。
「こっちも準備できてるよ。やろうか、おい
地面師」
『帳簿係』は麾下の転生者を呼びつける。
「はい」
地面師は三馬鹿ど同時期に転生した新兵だが三馬鹿に遅れること1ヶ月で二つ名を得た優秀な個体だ。特に、地形の優位を生かして戦う相手にこいつの奇跡は役に立つ。
「進路を確保しろ」
「分かりました。直ちに」
地面師は旅団支給の強化薬入り注射を血管に注入する。
これにより一時的に奇跡の効果を増大させる。
「隆起!」
激震、坑道からナガミミザルの集落までの直線ルート、その左右に土の壁が生成された。
身長より高い土壁ができたことで森からの狙撃の心配はなくなった。
「総員突撃!」
一斉に転生者達が疾走する。
地面師がバテると土壁は消える。
そうなる前に集落に突入する。
この作戦が成功すれば、暮旅団からの報酬で緋本原に拘束されている妖鳥の身代金を捻出できる。
10年一緒に働いてきた同僚を拘束された自分を哀れんで外人部隊に仕事を回してくれた船長に報いるためにもこの作戦は成功させねばならない。
「できれば、セシリアちゃんは嫁に行って欲しいんだけどなあ」
先に述べたとおり、外人部隊の羽振りは悪い。
身代金で釈放されたからと言ってその後の生活が保障できない以上、より安定した生き方をして欲しいというのが本音ではあるが、それを考えるのは生きて島を出てからだ。
「行くぞ小僧、案内しろ」
「はいよ」
小太りな転生者を引き連れて『帳簿係』も突撃を開始した。
20:00
Side:空母組
うおっ!?なんだ!?めっちゃ揺れたぞ!?
「始まったな」
大塚大尉の淡々としたリアクションに『鷹の目』を使ってあたりを見ると敵を示す赤い光点が移動している。
「『長耳』が襲撃に対応するため集落に集結しているようです。陽動は成功かと」
ジークフリートのおっさんも『制地』の奇跡でその様子を把握しているようだ。
「よし、『鉄乙女』、出ろ」
「Copy.」
空母組の最初の一手。
まず『鉄乙女』が引こうユニットを展開して空中に飛び出す。『鉄乙女』の任務は集落組の支援、および空母側への欺瞞だ。僕らが空母に向かっていることを悟られないように大暴れして注意を逸らす。
「集落組の進路に敵影」
おっさんが『鉄乙女』に通信を送る。
『鷹の目』で見るとものすごい速度で森の中を進む集落組の青い光点に赤い光点が迫っている。
でも両サイドに壁があるかのように立ち往生しているようだ。「東に8、西に6、南より4接近中」
「Copy.排除します」
『鉄乙女』攻撃開始。
夜空に機銃掃射の赤い光が点ると『長耳』の赤い光点が減っていく。
赤い光点は空中からの脅威を迎撃するため奇跡を放ち赤と緑の応酬が始まった。
『長耳』は『鉄乙女』を排除するため更に集落の周りに集まっていく。
「そろそろいいんじゃないかな?」
僕らの近くから赤い光点が消えたのを大塚大尉に伝えると大塚大尉も麾下の部隊に司令を出す。
「よし、俺たちも行くぞ」
空挺部隊が這い出すのに併せて僕らも出る準備に掛かる。
「シオ、頼むよ」
安全にたどり着けるかはシオの案内にかかってるからな。
「セルゲイ、行こう」
後ろではチビのイワンが鎧アシラを穴の外に連れ出していた。「馬鹿野郎!そんな目立つデカ物置いていけ!」
「いや、そいつは役に立つ。道中で弱い外来種が寄ってこなくなるからな」
大塚大尉、プロに言われたら僕は不満を飲み込むしかない。
「着いて来ると」
シオの案内に従い僕らは明かりのない夜の森をこそこそ進んでいく。
to_be_continued




