-the_Sentinel- 第十一話
-the_Sentinel- 第十一話
だんだんと、分かってきた。
『長耳』と、それを取り巻く状況のこと。
元々、『長耳』たちは本土に住んでいたらしい。
それが異種族、つまり人類との接触によっていろいろ変わってしまったということだ。
そして人類との異文化コミュニケーションに失敗した『長耳』は人類と戦争になり、敗北ッ!
人口の大半を畑の肥やしにされて住処を追われわずかな生き残りがこの北千練島に逃げ延びた、ということだ。
このとき人類側に付いて異世界転生者の部隊を率いていたのが日本人の転生者『軍曹』であり、同じ日本人の僕はその『軍曹』と間違えられた、というわけだ。
とんだ迷惑だよ全く。
「まあ、『長』からしたら君が『軍曹』かどうかはどうでもいいけどね」
そう言ったのは『長耳』の青年『サトー』だった。
サトーは他の『長耳』と違ってフレンドリーだ。
というより、見た目20代前半とか10代っぽい連中はそこまで敵意がないように思える。
見た目、といったのは『長耳』は人間より歳を取るのが遅いからだ。
白黒写真の『軍曹』がとっくに寿命で死ぬくらいの時間が経っているのにリアルタイム世代がまだピンピンしてることからそれは明白。
「私は当時子供だったし『シオ』は赤ん坊、若い衆はそもそも『軍曹』を見たことがないからね」
知らないものは憎みようがない、と。
「それに、『長』も『軍曹』の打倒はとっくに諦めてるだろうしね」
穏やかなサトーの物言いには明確に嘲弄が含まれている。
もっともこれはサトーに限った話ではない。
これまでで分かったけど『長』は『長耳』達を統率できていない。
絶望的に人望がないからだ。
その上、島の敷地では増えてきた集落の人口をまかないきれなくなりつつある。
さらには『海から来たやつら』と『モグラ』。こいつらとただでさえ少ない資源を奪い合うという状況。
「打開するには本土に出るしかないだろうね」
サトーが言う。
それは『長耳』の総意と言って良かったが、それを握りつぶしているのは『長』の派閥だ。『軍曹』に徹底的に叩きのめされトラウマを植え付けられた年長組は本土に戻ることを極端に恐れている。だから島の周囲に結界を張って外に出られなくしているらしい。
建前上は外敵の排除ではあるけど。
つまり、この村を制圧して結界を解除すれば外から支援が出来るというわけか。
当初の任務は結界の解除だったから思わぬ前進だ。
「外に出るのに結界は邪魔ではあるけど、結界がなくなれば『海からきたやつら』は船団を派遣して強力な兵器を揚陸するだろうね」
そうなればひとたまりもないかな。
物騒な内容の割にサトーは冷静だ。
冷静ではあるけど状況が芳しいわけではない。芳しいわけではないからそのヘイトは組織の上に向かう。
だから、そのヘイトを逸らすために『軍曹』という居もしない共通の敵をでっち上げた、というわけだ。
「ここに来た『軍曹』は君で252人目だね」
ヘイトが逸らせるなら僕が『軍曹』かどうかもどうでもいい。
実際、過去に軍曹認定された転生者はさっきの闘技場で他の転生者や外来種と戦わされてなぶり殺しにされたということだ。
そして、不定期で開催される軍曹なぶり殺し大会は狭い集落の数少ない娯楽になっている。そうやってヘイト逸らししてその場をしのぐ自転車操業を延々繰り返している。
つまりはそういうこと。
「なんだよそれ!そんなことのために殺し合いをさせられてるのかよ!」
その説明に怒りを露わにしたのはチビのイワンだ。
肩を怒らせてサトーに掴みかかろうとして、周りの転生者、マジアカ学園組の生き残りに取り押さえられる。
「放せ!放せよ!」
マジアカ組は『まあまあ』『落ち着いて』とかいって手際よくチビを取り押さえる。
「あの、すんません。ちゃんと言って聞かせるんで・・・」
手が空いた一人がサトーに頭を下げる。
賢明な判断だ。ここのマジアカ連中はさっきのゲーミング勇者に比べて強くない。
僕の『分析』の奇跡はそこまでの精度はないけど相手が自分より強いかどうかは判定できる。
その上での分析結果は僕よりちょっと強いくらいのレベルだ。
そして、『長耳』はこいつらより更に強く、サトーは更に強い『長耳』の中でも頭二つほど抜けている。このおっさんに敵意を向けていいことは何一つない。
強いこのおっさんが僕らに好意的だから今なぶり殺しにならずにすんでるんだから。
「なんだよ!お前ら悔しくないのかよ!」
「黙ってろ」
僕はチビを黙らせるとサトーに向き直る。
これからこのおっさんとビジネスの話をするんだから。
「実は僕らも『海から来たやつら』に困ってるんだ」
この島で僕らがやらないといけないことは、島を取り囲んでいる結界を解除することだ。
なぜ結界を解除しないといけないか?
それは結界のせいで船団が島に近づけないからだ。
本土から船団を送り込むことが出来れば島は制圧できる。
一方、今『長耳』が結界を展開しているのは、『海から来たやつら』が武器弾薬を輸送できなくするためだ。
結界がなくなると『海から来たやつら』は強力な武器を送り込んで島を制圧してしまうだろう。
ここで重要になってくることは、
僕らが『海から来たやつら』の仲間じゃないってことを『サトー』に分かってもらうことだ。
実際僕らは『海から来たやつら』に殺されかけてるし、それはシオがはっきり見てる。
そこで僕は提案する。
明日の朝に結界を解除することが出来るか。
明日の朝、援軍を送るためにもう一度船団が派遣される。
そのタイミングで結界を解除して本土から上陸部隊を揚陸して島を制圧する。
結界を解除した上で戦艦を含む艦隊で攻め込めば島を制圧するのに十分な火力があると大塚大尉は言っていた。
「あなたがたの助命については僕が旅団に進言しますよ」
旅団が聞き入れるかは知らないけどそれは黙っとこう。
サトーは思案する。僕が信用できるかどうか。結界を解除した後の同胞の進退にも関わる問題だ。
「結論は焦らないと言いたいですが、昼を過ぎてもし僕が殺されたらこの話はなくなるのでそのつもりでお願いしますよ」
サトーは考えさせてほしいと言って、葉っぱを巻いた筒を咥えた。
「『軍曹』が吸ってたタバコを真似て作ったものだ。君もどうだい?」
「遠慮します」
沈黙が訪れて、すぐに破られた。
「勇者様ーーーー!」
現れたのはシオだった。
サトーと僕らが詰めてるところに乗り込んできたシオは僕を見付けると一瞬で近づいてきた。
なんだこの子は、ぼくなんかやっちゃいました?
「勇者様に差し入れとよ」
そう言って僕に差し出してきたのは、空挺部隊から投下され『長耳』に接収されてたペリカンケースだ。
中身は、拳銃と狩猟用剣鉈、強化剤入り注射器だ。
注射器はありがたい。さっきからの全身アクロバット回避のおかげで関節が悲鳴上げてたからな。この注射を打てば一発で治る。
「いいの?これ」
注射針を刺しながらシオに訊く。
僕を始末したい『長』の派閥に怒られるんじゃないの?
もらえる者は貰うけど。
「うおおおおおお!?いでっ!?いでででで」
注射が効いてきた。
痛めた関節と筋肉が無理矢理修復していく感覚!
何度も味わってるけど全然慣れない。
めちゃくちゃ痛い。痛みが脳天突き抜けて視界が真っ赤になる。
「よかよか。勇者様のためならよかとよ」
床を転げ回る僕にシオはニコニコと答えてくれる。
なんていい子なんだ。『長耳』は蛮族だと思っていたけど人間の温かみを持つ相手もちゃんと居るんだな。
「うちゃ勇者様に勝ってほしか」
転げ回る僕を見下ろすシオはまるで聖母のようだ。
この世界に来て初めて人の温かさに触れた気がする。
関節や筋肉の痛みじゃない。温かい涙が目から流れ出た。
「勇者様にはうちの全財産が賭かっとるとよ」
え?どゆこと?
「さっきの勇者様が負けてうちゃ全財産ばのうなった。責任取れ!」
何言ってんだこいつ。
意味が分からない。誰か分かるやついる?
目が合ったサトーは呆れたような顔をしている。
「また全財産スッたのか・・・いくつになっても金銭感覚が身につかないな」
サトーが言うには、さっきの軍曹なぶり殺し大会の裏では金銭を賭けた賭博が横行しているとのことだった。
もちろん賭博と言っても内容は出来レース。
軍曹認定された哀れな子羊がみっともなく死ぬのは確定だ。
だから、
賭けの内容としては「何分持つか」「命乞いの言葉は何か」「相手に対してどれだけ抵抗できるか」が賭けの内容だ。
「軍曹が勝つ」はあるにはあるが賭けるやつはまず居ない。
「今日は儲けさせて貰ったよ」
さっきの賭けはサトーの総取りだということだ。
儲けた余裕からお礼をかねて僕に昼食を振る舞ってくれるらしい。
一方で、
・5分逃げ回って死ぬ
に全財産をつぎ込んだシオは全財産を失った。そこで、同僚に借金して「僕が勝つ」に全ベットしたから何が何でも僕に勝って貰わないと借金が返せなくなる、とのことだ。
「そんなの僕に言われてもね・・・」
痛みが治まってやっと起き上がる。
サトーが舎弟に持ってこさせた肉や果物を広げていた。
「腹ごしらえしようか」
賛成。朝から梅干し綾子しか口にしてないから腹ぺこだ。
それに、これが最後の食事になるかもしれないから腹一杯食べよう。
うまそうな燻製肉に伸ばした僕の手はシオにがっしりと掴まれた。
「満腹になると動きが悪うなると」
えー・・・。
せっかく僕に振る舞ってくれる食事なのに。
「その顔はなんとね!うちの全財産が掛かっとるとよ!遊びじゃなか!」
知らねえよ。
構わず肉に伸ばした手はがっちり捕まって動かない。
なんて力だ。これなら自分が戦えばいいじゃないか。
「うちが出たら賭けにならんばい」
「じゃあ梅干し綾子くれよ」
シオから梅干し綾子をひったくる。
少しでも空腹はごまかしたい。
「あ、この肉柔けえ!」
それを横目にチビのイワンがうまそうに肉をかじってやがる。
「気に入ってくれたようで良かった。本土に戻ったらこれで商売しようと思っててね」
何の肉か知らないけど肉汁の光沢と香ばしい香りだけでうまいの確定じゃないか。
「勇者様は勝ってから食うとよ」
くそ、これじゃ生殺しだ。
僕は梅干し綾子の箱を開けると中のタブレットを口に全部流し込んだ。
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