-the_Sentinel- 第九話
-the_Sentinel- 第九話
ー前回までのあらすじ
『長耳』の集落に案内された僕と+1は集落の長と会談した。
そこで僕は不幸にも『長耳』が恨みを持つ『軍曹』という転生者と間違えられてしまった。
必死に潔白を証明するも聞き入れられず僕は新たな試練に立ち向かわねばならなくなってしまった。
僕は今、円形に囲われたリングに立っている。外周は丸太の壁にびっしりと金属のトゲトゲが突き刺さっていて中の人間を逃す意思はないようだ。
『長』に殴られて目が覚めたらここに立たされてた。
そうでなければ自分から入りたい空間じゃないしな。
円形の外側はすり鉢状になっていてそこから『長耳』達が見下ろしていた。
だいぶしょぼい作りだけどこれはコロシアムというやつだ。
そのコロシアムのひときわ偉そうな席に『長』が現れると重々しい口調で演説を始める。
「あの日、我らは全てを失った・・・。平和だった我らの故郷は未曾有の災厄に見舞われた。『軍曹』である」
意外にも、演説を聴く『長耳』の反応は一様ではない。
「『軍曹』率いる異界の軍勢は我々が住む森を焼き、村を鉄の車輪で蹂躙し、空から爆弾をばら撒いた・・・」
『長』と同年代の『長耳』達は嗚咽混じりに演説を聴いている。
「俺の家もナパームで焼かれた・・・たかが『耳なし』10人ばかりバラして腸引きずり出しただけなのにっ・・・」
「せや、『ハタケ』から薬草を採取しただけやのにおとんは大砲で・・・人間のやることちゃうで・・・」
「たかが田んぼに水張ったくらいで兄貴が鉄の馬で踏み潰された!あいつら鬼たい・・・」
過去の思い出を振り返ってむせび泣く。
一方で、『長』より下の世代の反応は淡泊だ。「アレが軍曹?なんか弱そうだべな」
「サトーの兄貴は認めとらんとよ」
『シオ』を筆頭にひそひそと雑談にふけるやつ、船こいでるやつ、随分温度差があるな。
「いつまで待たせんだジジイ!さっさと始めろや!」
血気盛んな若いのが『長』に罵声を飛ばす。
それを皮切りに若い衆が騒ぐ。
ードゴン!
『長』の散弾銃が空中に火を噴き、短気な若い衆がスタッフにつまみ出された。
「放せこの野郎!殺すぞ!」
「頭冷やせ・・・」「気持ちは分かる」
スタッフがなんか同情的だ。
再び静かになった会場で『長』は演説を再開。「だが神は我々を見放していなかった!いまここに、『軍曹』に報復する機会が与えられた!」
「「「「「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!」」」」
大歓喜の年長組とどうでも良さそうな若衆。
「よく聞け、『軍曹』よ」
だから違うって。
てゆーかいきなりこっちに話振ってくるんじゃないよ。
「我々にはお前を始末する強力な戦力があるのだ・・・」
「「「「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!」」」」
年長組はさらにテンションが上がり僕はテンションが下がりまくりだ。
「勇者殿を出せ!」
合図とともに闘技場の壁の一部が開くと、そこからは昼間見たマジアカ制服の転生者が4人。
1.ホスト顔の男、剣持ってる。
2.長身ショートカットのボーイッシュ少女。3.小柄でつり目がちな少女、性格悪そう
4.なんかおっとりした雰囲気の少女、腹黒そう。
「ちょっと待ってくれ!1VS4ってフェアじゃないだろ!」
「やかましい!」
『長』の散弾銃が地面を抉る。
「では勇者殿、見事『軍曹』を打ち倒し我々の積年の恨みを晴らしてくだされ」
まずいぞ、非常にまずい。
相手は4人、おまけにこっちは丸腰だ。
まともに戦っても勝ち目はない。
勝ち目がないなら他の手を考えよう。
「待ってくれ!何を吹き込まれたか知らないけど僕は無実なんだ!」
まずやるべきことは双方の誤解を解き戦闘が無益だと相手に伝えることだ。
同じ異世界転生者同士、話せば分かるはずだ。いや待て、あいつら日本語通じるのか?
今いる世界は日本語圏だから日本出身の僕は言葉で苦労しないけどこの勇者パーティは違いそうだ。
まあいいやものは試しだ。
ーパッシブスキル:自己防衛
全自動で発動した奇跡によって全自動でマトリックス避けしたすぐ上をなんか光の刃が通過した。
痛い、腰が痛い。
僕の代わりにバリケードの丸太が真っ二つだ。離せば別る。
まさにその通り。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!せえええええええええふ!」
「黙れ殺戮者め!村人達の無念を晴らしてやる!」
ホスト顔の勇者は言葉は通じたけど話は通じなかった。
そういえば、『帳簿係』がなんか言ってたな。日本語圏以外の世界からきた転生者は『女神』の計らいで『自動翻訳』の奇跡が一方的勝強制的に付与されると。
聞き慣れない言葉を聞くと全自動で分かる言葉に翻訳するやつだ。
話すときも同様らしい。
「いえええええええええあああああああ!」
「殺せええええ!」
「ヒャッハーアアアア!」
勇者の奇跡に『長耳』が歓喜の叫びを上げる。
ホスト顔の勇者は油断なくこっちに剣を構えては、いなかった。
歓声を上げる『長耳』をチラチラと見ながらその片手間に僕と向き合っている。
どうやら、ホスト顔も『長耳』が怖いらしい。そりゃ、数時間過ごしただけでこの森では『長耳』が絶対王者で人類は最弱だと嫌でも理解できるんだから当然と言えば当然か。
ましてやこいつらは僕より先に捕まってるしな。
「覚悟しろ!」
「嫌だね」
そしてそれを取り巻きの女の子に悟られたくない見栄からか威勢のいい口上を僕に向ける
さすが勇者、弱い相手には強い。
ー光弾
ホスト顔の勇者は僕の意思を無視して次の攻撃を仕掛けてくる。
光の弾丸の三個同時攻撃。
人間の脳は一度に複数の事象を処理出来ない。処理できなかったどれかが僕の体に穴を開ける。
ーパッシブスキル:自己防衛
「ぎゃああああああああ!」
その全てを全自動で回避した。
人間の可動域の限界の回避運動に関節が悲鳴を上げる。
「な、かわした!?」
「勇者の奇跡見てから回避余裕でした!」
どのくらい余裕かって言うと、瀕死の状態でナイフ一本でスペインの因習村を突破して怪しい宗教団体をやっつけるくらい超余裕だ。
とはいえ勇者のターンはこれで終わりではない。すぐに次の奇跡が飛んで来る。
「これならどうだ!」
ー火炎弾
ー光刃
ー闘気弾
ーパッシブスキル:自己防衛
勇者が立て続けに放つ奇跡、それも全自動で回避。
「ぎえええええええ!」
そのたびに関節が限界まで曲がる。
普段ハイグレードの生活しかしてない人間にリアルグレードの機動は殺人的だ。
「いてええええええええええええ!」
「くそ、当たらない・・・」
この攻防が体感一時間くらい。
徐々に焦りが出てくる勇者と激痛でそれどころではない僕。
「何やってんださっさと殺せ!」
「目ん玉付いてんのかゴラァ!」
「てめえを先にぶっ殺してやろうか!?あぁ!?」
BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!
BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!
そして短気を起こして暴徒化するギャラリー。「お、おちつけ!落ち着け!」
一番安全なところにいる『長』が無意味に一番焦ってる。
焦った『長』が威嚇のために散弾銃を取り出して引き金に指をかける。
ーパーン!
その散弾銃の銃口に『長耳』の誰かが放ったライフル弾が撃ち込まれて散弾銃が使用不能になった。
「ひいいいいいいいいっ!?」
「『長』あああああああああ!てめえ嘘こきやがったらどうなるかわかっとろうなあああああああああ!!!!!」
「下の耳なしごと皮剥いで柱に吊したらアアアアア!!!!」
BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!
「ひっ!?」
ギャラリーの怒号に『長』は完全にびびってる。こいつ統率力なさ過ぎだろ。
「勇者殿!勇者殿おおおおおおお!!!!」
『長』の悲鳴にホスト顔の勇者がめちゃくちゃウザそうな顔をする。
おっさんの泣きべそは誰だってウザいから正しい反応ではあるんだろうが。
「ちょっと、やばいよ・・・」
性格悪そうな取り巻きが勇者に文句を言い始めた。
それを皮切りに他の取り巻きも勇者に早くなんとかしろという内容の言葉を微妙なマイナーチェンジを交えてチクチク言い始める。
やばいという割にこの三人何もしねーな。
まあ、何かされたら僕はとっくに死んでるけどな!
「はぁ・・・」
全くダメージを受けていない勇者はすでに疲労困憊だった。
「まあ、うん・・・」
勇者の真の敵は魔王ではなく孤独なんだなあ。そんなことを考えてると勇者はどうにかモチベーションを絞り出したようだ。
剣を構え直すと再度奇跡を発動させる。
ー火炎弾
ー光刃
ー闘気弾
ーパッシブスキル:自己防衛
その技はすでに全自動で見切った。
何度やっても当たらないぞ(関節が無事なら)。
だから勇者も無策ではない。
ーアクティブスキル:脚力強化
リアルグレード回避する僕が体勢を立て直す前に一瞬で間合いを詰めた。
剣振りかぶってる。まずい。
いまの体勢では回避行動が取れない。
白刃取りで剣を止めるべく全自動で腕に力が入って、抜けた。
ーアクティブスキル:属性付与
奇跡を込めて剣が発光。
すごい『理力』だ。
こんなの白刃取りしたら手が蒸発する。
これじゃ回避も防御も出来ない。
『自己防衛』が発動しない。
この奇跡に対して有効な回避手段がないからだ。
「終わりだ!」
ー光裂刃
やばい、何かしないとやられる。
「芥川龍之介がスライを聴いてお歌が上手とほざいた!」
何かしようとして今僕が動かせるのは口だけ。
生命の危機に瀕した僕の本能は生き残るために記憶の底で蜘蛛の巣張ってた言葉をひねり出す。
こんなものが何になるかは知らないが何かにはなるだろう。
ーパッシブスキル:自動翻訳
「え?」
何かになった!?
ホスト顔の勇者が発動しようとした奇跡に新たな奇跡が上書きされて刀身の光が消えた!?
ーパッシブスキル:自己防衛
そして、対処可能となったことで全自動で対処が行われる。
僕の両手が全自動で刀身の付け根を挟み込み、そのままひねり上げて勇者の鳩尾に突き刺した。
「あ、がっ!?」
ー光裂刃
そして、再び刀身に光が点り、さっき勇者が発動しようとしていた奇跡が発動。
先に発動した奇跡はキャンセルされた訳じゃないのか。
優先度高い奇跡が割り込んで一時停止状態だったのか。
「おぼおおぼdjふぉいdshふぉsdghdsんlg;sjふぉしhfslfksdmflshふぃdjgmdsmslっfんhrlgjdsんkfdhfd;khfdvjんslgれ!?」
発動した奇跡は勇者の体内をまんべんなく駆け巡ったあと行き場を失う。
そして、前進の穴という穴から一斉に吹き出した。
掠めただけでバリケードの鉄板と丸太を消し飛ばすほどの光が暴れ狂う。
勇者の『理力』で生まれた光は勇者の『理力』を取り込んで更に増大、七色に輝き出す。まるでゲーミングPCだ。
ーパッシブスキル:自己防衛
僕は全自動で七色に光るゲーミング勇者を蹴り飛ばし全自動で地面に伏せた。
そのすぐ上をゲーミング勇者の口から吹き出した光がなぎ払いバリケードが吹き飛んだ。
「何よあれ!」「知らないわよ!」「こっち来た!」
勇者の取り巻きガールズのヒステリックな悲鳴。
「退避!退避いいいい!」
「祟りじゃ、祟りじゃあああああ!」
「お許しください全て『長』の命令なんです私は脅されてしかたな(ジュッ
「てめー仲間を売る気(ジュッ
「やっぱり軍曹には勝てんのじゃあああああ!!!」
「なんまいだーなんまいだあああああ!」
観客席の『長耳』達も恐慌状態に陥ってるみたいだけど全自動で地面に頭を擦りつけてるからそれ以外の情報は入ってこない。
光が止むまで地面に伏せるより他なかった。
-to_be_continued




